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異界巡行の世界 箱舟天使は異界を旅して帰還する  作者: 七夜月 文
2章 --時計針止まるアークエンジェル--
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暗い暗い闇の底 8

 叫び声は銃声でかき消され、誰かのライトの明かりが暗闇の中へと吸い込まれていくのを見ていたベニユキが尋ねる。


「一人連れていかれたぞ!」

「ここで戦っていても相手が増えるだけだ進もう」


「進むって……言われてもよぉ!」


 上から降りてくる仲間の援護に正面からジグザグに回避のために走り迫ってくる怪物。

 敵は進行方向ただ一つの入口側からやってきており、ライトで照らされていない左右の暗闇からも枝か何かを踏みへし折る音が響いている。


「荷物降ろして私たちも戦いますか!?」


 背を向け誰がどこで戦っているかわからず守られている大きな箱を持ったエレオノーラが慌てたように叫ぶ。

 弾倉を取り換えながらマルティンが叫んだ。


「進む! みんな、強引に進むぞ! エレオノーラたち、転ばないように気を付けて!」


 足元にある何かをボキボキとへし折り門へと向かう。

 建物を離れれば上から飛び降りてくることもなくなり、攻撃は跳躍してくる三次元的な物から地面を走る二次元的な物へと戻る。

 車両の影、扉の影に何匹か隠れるのを確認しウーノンは部屋からの脱出で残った手榴弾を投げた。


「今のうちだ!」


 爆発の後負傷した何匹かが物陰から飛び出てきてベニユキたちの銃弾を浴びて動かなくなる。

 すべる不安定な地面を重たい箱を持ったエレオノーラたちに速度を合わせるため歩くような速さだが、ようやく建物の敷地を出ることができた。


「ここからあの長い階段までどの位だっけ」

「ネズミに追われながら来たけど30分くらい歩くんじゃなかったかな、なにしろ時計がないからね」


 見れば手榴弾で負傷した怪物が倒れていて、まだ動く怪物の姿もあったがどれも手足や内臓を大きく損傷し重傷で飛び掛かってくることはない。


「ほんとにこの車が動けばな」

「長距離を徒歩ってのは辛いよね、あれば便利だけどそれでも一台にみんなは乗れないよ」


 建物の並ぶ住宅街、無数の窓に息遣いと何かが動く気配がする。


「ついて来てるな」

「でも接近させなければ怖くはない」


 負傷した怪物たちが動き回り立ち込めた血の匂いを嗅ぎつけ興奮状態になったネズミの姿。

 ベニユキたちが交差点まで来た時、正面から低い音が聞こえてくる。

 戦いを続けながら暗闇の奥の方へとライトを向けるとそれは見えた。


「うっそだろ!?」

「みんな端によって纏まって!」


 向かってくるのは速度は速くないものの迫ってくる大きなタイヤを付けた無灯火のトラック。

 辺りにある二人乗りの小さな車両とは違い道幅を大きく陣取る巨大な車両。

 ライトで照らされると白い怪物が運転席とフロントの上に乗っているのが見え動揺する。

 頑丈な大型車は道路のあちこちに乗り捨てられている小さな車両を跳ねのけ、ベニユキたちを目指し真っすぐと向かってきていた。


「動く車両!」

「あいつら目なかったよな! どうやってこっち来たんだ!」

「運転技術の方が気になるよ、何で怪物が運転できるんだ」


 前を歩いていたキュリルが驚きマルティンとベニユキは振り返りエレオノーラたちが壁に寄るのを手伝う車両の突撃を避けるため建物の横に寄る。


「誰か対戦車用の武器持ってないのか」

「持ってたみんなも重いから途中で捨てたみたいだ」


 何人かがトラックへと銃撃を加えるが怪物は運転席の下へと消え、しかしそのままトラックは真っすぐ向かってきた。

 その一瞬のスキを突いて建物の窓から半身を出した怪物がベニユキに飛び掛かり、怪物のギザギザと尖った歯が勢いで倒れるベニユキの首筋に噛みつく。


「うわっ!」


 白い銃を持ち片手で荷物を支えながらガーネットが怪物に銃弾を撃ち込んだ。

 キュリルが壁のそばにあった扉を破壊しテオとウーノンが中へと入り少しの銃声の後エレオノーラを呼ぶ。


「中は狭い怪物は倒した、二匹だけだった」


 皆が建物の中に入ると車両は。


「外と逃げるのに時間があったな」

「速度が遅かったからね、荷物を運んでいなければ道路でも躱せたと思うよ」


 天井で何かが走り回る音が聞こえるが降りてはこない。


「ベニユキ君怪我は?」

「肩を噛まれた、尖ってたせいで服を貫いて……嚙み切られてないけど、いててすごい血だ」


「エレオノーラさんを呼ぼうか?」

「箱舟まで戻ればなんとかなるだろ、ここに隠れてたらまた囲まれる。ほらもう外に出るみたいだ」


 小さな家の中に十何人と大きな箱を入れたためほとんどが身動きが取れず、トラックが行くとすぐに部屋を出てトラックを銃撃しタイヤやエンジン燃料タンクを撃ち抜いた。


「車両と乗ってた怪物は無力化した」

「他の怪物は?」


 見れば怪物たちは建物の部屋の中でバタバタと音を立てている。

 通路の奥で白い怪物が白い怪物に噛みついていた。


「仲間割れ?」

「いや、片っぽはあの大きなネズミみたいだ」


「進むなら今のうちか」

「俺らを包囲しようと大きく広がってそこを襲われたようだから、今ならこっちに襲ってくる余裕もなさそうだ。みんな突き抜けていくよ」


 怪物同士のつぶし合いの横を通り過ぎ、時折相手を倒しその肉を貪っていた怪物と目があい鮮血の滴る口を開いて向かってくる怪物を排除しながらベニユキたちはすすむ。

 何とかこの階へ降りてきたエレベーターの階段が見えてくる。


「戻ってきたな」

「階段を滑ってきた白くて大きい奴はネズミに食われたみたいだな」


 群がるネズミを排除してエレベーターの階段を見上げる。


「どう登ろうか」

「足を滑らせたら箱はどこまでも落ちていくだろうな取りに行くのも大変そうだ」


「まずぶつかるか叩きつけられるかして壊れそうだけどね」


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