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異界巡行の世界 箱舟天使は異界を旅して帰還する  作者: 七夜月 文
1章 --永久を繰り返すアルカアンヘル--
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めぐる箱舟 5

 礼拝所へと戻ってくると皆が舞台の上から降りていく。

 武器をそこらに放り投げ各々並ぶ長椅子に腰掛け休む。

 ベニユキとエレオノーラもその場に武器を捨てエレベーターを降りる。


「でも倒し方はわかった。……安全とは言えないけどな」

「明日も無茶するんですかベニユキさん」


「もちろん死にたくはないから慎重にはいくさ……マルティンとウーノンが俺のせいで死んじまったし。今日はほら引き返せなかっただけだから」

「死んでしまう環境が当たり前なんておかしいんです。今日も疲れました」


「そうだな、俺らは普通に暮らしてきていたはず。早く解放されたいよな……。俺は足が痛むから先に眠らせてもらうよ」

「肩貸しますよ?」


「大丈夫、ここまで歩いてきたんだあと少し程度なら歩ける。また明日な」

「はい、また明日。おやすみなさいベニユキさん」


 エレオノーラと別れを告げベニユキは自分の部屋へと向かって歩いていく。



--


 怪我を負い睡眠カプセルで眠っていたベニユキは目が覚める。

 カプセルの蓋を開けると室内の明かりが点灯しミカの声が響く。


『おはようございます、ベニユキさん。本日もお願いします、体の調子はどうでしょうか?』

「またか、今度は何の用なんだ? 俺は足を……傷がもう治ってる」


『前の世界での戦闘から時間も立っていますから。大丈夫そうですね。それではお待ちしております』


 すでに全員眠りについたようで礼拝所は静まり返っており、清掃ドローンがエレベーターや長椅子を掃除している。

 礼拝所の真ん中にミカのホログラムは立っていた。


『どうぞお好きなところへお座りください』


 ベニユキはミカのそばの長椅子に座り彼女は話を始める。


『それでは本題です。箱舟はお休みを入れた方がいいのか聞きたくて、ベニユキさんの意見を聞かせてもらえないでしょうか?』

「お休みって、戦わないってことか?」


『はい。狭い箱舟の中では一日自由時間を与えてもいても退屈だろうと思いまして、新しく施設の拡張ができるまではと思っていましたが。いかがなものでしょう?』

「いいんじゃないか、ブラットフォードやエレオノーラは精神的にかなり追い詰められているようだから何とかして上げたかったんだ。なぁ戦闘に不向きな人はサポートとか他の仕事と化させてあげられないのか?」


『残念ながら、戦いたくないと言うのならば交換するだけです。指揮官や狙撃手として活躍してくれれば別ですがこの箱舟の目的は皆さまに強くなっていただくことですから、戦ってくれないのであれば前にも言いましたが代わりの人材を補充するだけです』

「ならせめてガス抜きに一つ戦いが終わったら、どこか危険のない平和な場所に降ろしてくれればいいんじゃないか?」


『残念ながら脅威度の低い世界が今まで見つけた脅威度の低い世界なのです』

「どれも、生身の人が相手をしていい感じの怪物たちじゃなかったぞ。プロの軍人それこそ戦闘に特化した特殊部隊でもいないと、あんな怪物たちとなんて……」


『こちらはあくまで戦闘を経験したことの無い皆様が、戦い生き残れる世界を厳選しております。多少の犠牲は覚悟のうえでのお願いでしたが、思いのほかこちらの想定より生存率が芳しくありません。この後に控えるワールドリストの世界でのより大勢の生還をどうすれば達成できるか現在模索中です』

「俺らは今まで難易度イージーで戦わされていたのか……」


『イージー……ゲームの難易度の話でしょうか? そうですね、人の生き死にがかかわっているので不謹慎ではあるのでしょうが、わかりやすくゲームで例えるとしたら今まで巡った世界はイージーではなくチュートリアルといったところですかね? ですから皆様に強くなっていただきたいのです、ベニユキさん』

「このまま従うと、俺らは今までの怪物なんかよりも凶悪な怪物のいる世界につられていくんだろうな。……なぁ、これから先この三日間で戦った怪物たちよりやばい奴らがいるのか?」


『そうですね、今までより生還率は下がると思われます。しかしこちらの見つけた世界はいくつもあれど生身の人には限界があります。現在長年かけて集めた情報から生成されているワールドリストの中には、どれだけ強くなったとしてもあなた方が決していくことの無い高危険度の世界も存在しています。たとえを上げますと』


 ミカは空中を操作する動作をする

 すると、エレベーター降下中と同じようないくつもの画像が空中に表示される。

 映された画像はどれも二番目に訪れた巨大樹の森のような映画や漫画を思わせる現実離れしたもの。


 空は青空にオーロラが浮かび遠くには天高く白い線を伸ばす巨大な雷雲が見え、大地が割れその間に海水が流れ込みパズルのピースのようになった大地に廃墟、森、荒野が隣接する世界。


 木々を踏み倒し山を越えようとする昆虫を思わせる足の生え方をした複数の多脚の怪物、その長い体には無数の大砲や機銃が生えており、そのどれもが夕焼けに照らされ金属の装甲が怪しく光る。


 青い空白い雲が浮かび青々とした草原の一角に呼吸する肌色の山脈、その周囲には血管のまとわりついた骨のような白い木々が生え臓物のような実をつけ、悪夢の中のような森の中に溶けたアイスのような体に無数の目が付いた怪物が映っていた。


 大都市の廃墟が遠くに映され遠くには山と同等ほどの体を持つ獣が別の怪物と戦っていた、怪物たちの足元には何両もの戦車の残骸が転がっていて空き缶のように踏みつぶされている。


『願いが魔法と呼ばれ想像が破壊を生み、数多の欲望という願いが生み世界を染め上げた汚染星骸の世界では多少武装した程度ではただの人はあの環境下で生きていけませんし。私とは少し違いますが閃燃艇国の世界の自立思考AIを積んだ水陸両用軍艦群と生身で戦わせるわけにもいかず。また、偏食受肉の世界の肉の大地から無限に湧き出る肉片とも戦わせることもできません。山を越える体を持つ巨躯星命の巨獣も避け、あくまでこちらであなた方が対処できると判断された世界の身を巡る予定です』

「この世界たちは何なんだ……、並行世界」


『はい、どの時点で別れたかは知る由もないですが別の道を進んだ同じ世界。繁栄を極めた星を飛び出した世界、イレギュラーによって世の中の法則が書き換えられた世界、争いが絶えなかった世界など何らかの原因で人類が衰退、又は滅んだ世界です。また、私や箱舟を作られた世界も同じような道をたどろうとしています』

「俺らの世界も滅んだのか?」


『まだ、が付きますが滅んではいません。それを避けるためあなたたちに強くなってもらいたいのです』

「どうなったんだ、俺らの世界は」


『お話はまたにしましょう。ベニユキさんだけにお話しすることはできません。それでは休息の日を作ろうと思います。それではおやすみなさいベニユキさん』


 ホログラムが崩れて消えて行きミカはその場から消えベニユキは自室へと戻る。


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