めぐる箱舟 1
「届け!」
投げた先は大きな車体の各部に空いた装甲版が落ち開いている場所。
奥の方に機械が見え暗闇の中で手榴弾を投げ込んだあとバンと音が響く。
「効いてないか……」
中で火花が散り白い閃光が何度が点滅したがトラックは止まらない。
開いた装甲版を伝って戦車が降りてくる音が聞こえてくる。
「やばいか」
降りて来た物は戦車とは少し形が違うものではあった。
黒い排気ガスを吐き出すところまでは同じだが、溝の深い人の身長と同じくらいのサイズのタイヤを吐いたバギーのようなものが四台ほど。
戦車と同じ瘤のような機銃のついた砲塔動き銃声のする方向に砲身を向け走り出す。
降りてきた戦車の動きとは反対側に移動し閉じようとする後部のハッチの中に手榴弾を投げ込む。
「この位置からだと他に投げ込めそうなとこもないし、ここに全部投げ込むか」
先ほどと同じように少したってから爆発し暗闇の奥で火花が散る。
バギーを隔てていた後部のハッチが閉まったためベニユキが見つかり機銃のついた砲塔を動かす。
しかし先ほどと違い爆発音が連鎖し白い閃光が赤とオレンジ色の混ざり合ったものに変わった。
「何かに燃え移ったか! さて逃げるか」
降ろされたバギーの荷台に乗ったコンテナがせりあがり傾く。
コンテナの中から六発のミサイルが発射され、四発が火を噴いてブラットフォードたちの方へと飛んでいく。
トラックが内側から爆発しより激しい炎を吹き出すとバギーはベニユキに銃撃を始めた。
「やばっ!!」
不発や制度の甘さから何とか無傷で巨大なタイヤの影に隠れる。
小さなモーター音が聞こえ拳銃を乗せたラジコンが複数迫ってきた。
武器を構えるが手にしているのはエレオノーラから借りた狙撃銃当たれば一撃で破壊できることに変わりはないが攻撃範囲も連射率も少なく苦戦する。
ゴム製の履帯を高速回転させ地面を跳ねながら迫ってくるラジコンからの反撃、飛んでくる弾丸がベニユキの体を貫く。
「ここまでか……」
誘爆が続き一部が崩れ落ちるトラック、逃げようにも足を負傷し前に現れるラジコン。
トラックの巨大なタイヤの影から散弾銃を構えたエレオノーラの姿。
「大丈夫ですか!?」
「エレオノーラ」
他のラジコンも一緒についてきたテンメイが突撃銃の掃射で吹き飛ばしエレオノーラはベニユキに駆け寄る。
「早く逃げないと、この大きなの大爆発してます。あと弾持ってませんか、撃ちきっちゃって」
「ああ、持ってる。こっちも弾をくれ」
「ベニユキさん怪我を……」
「大丈夫だ歩けはする、よくここまで来てくれたな」
「マルティンさんもキュリルさんも他の人たちも命かけてて、私もこのまま見てるだけではいられないって。怖かったです」
「助かった」
お互いの銃に弾丸を込め立ち上がる。
「2人とも早く、こっちに来てる!」
タイヤを影にして機銃をよけ走り出す。
近くまで来ていたブラットフォードたちの支援でコンテナを積んだバギーを排除する。
「はやく、こっちだ!! こちらが脅威を排除する」
「ありがとう!」
積まれた弾薬、発射されなかった不発弾、戦車などの燃料、それらに次々と引火し巨大トラックは大爆発を起こし大きく破損し崩れ落ちる。
爆炎は空高く上がり爆音は衝撃波となって逃げるベニユキらを吹き飛ばし、同じく飛び散る無数の破片が飛来する。
降り注ぐ破片を避けることなどできず地面の倒れたベニユキたちの上にも降り注ぐ。
『金属の回収に参りました。……と、できればあまり命を粗末にしないでいただきたいです。死んでしまうとその日の経験が無駄になってしまうので。やむ追えない状態ならば目を瞑りますが、繰り返すようならば別の人と交換することも考えます』
破片の雨からベニユキ、エレオノーラー、テンメイを守ったのは箱舟から歩いてきたオートマトン。
破片の直撃に損傷を受け何機かは崩れ落ちるが、気にせず歩むオートマトンはアームを伸ばし散らばった破片を早速集め始める。
「助かったんですか?」
「みたいだ」
丘を下って来るグリフィンやブラットフォードたちの姿が見えベニユキたちも爆発したトラックから離れ彼らと合流した。
巨大兵器を破壊したのを見てテンションの高いグリフィン。
「戦おうと言っておいて言うことではないが、よく倒したな!」
「正直いけると思ったんだ……ボロい兵器ばかりだったし、グリフィンたちに任せた戦車で全部下したと思ったんだ。グリフィン一人だけか、他は?」
「キュリル君だけでなくテオ君もアイン君も負傷したから丘の上で休ませている、皆がここに来たら他の敵に気が付けないからな。見張りも兼ねてだ」
戦闘で服も体もボロボロになったブラットフォードがため息をつく。
「こんな大きなものと戦わなくてもいいだろう、風車に挑むドンキホーテであるまいし」
「だから……武装は少ないと思ったんだよ……。酷い怪我だな」
「最後の方に出てきた奴のミサイルが近くで爆発したから。斜面を転がることになった。また何人も死なせてしまった、明日になったらクローニングで記憶を失って生き返ると知っているも胸が苦しくなるよ」
「援護してくれたおかげで破壊できたよ、助かった」
「なんであれ、これを回収させたら今日はもう終わりだろう。こんなことが毎日続くのか、辛いな」
「だな。怪我人も多い、早く帰りたいな」




