天を目指す植物群 4
三機ずつに分かれたオートマトンはそれぞれ大きなエンジン音と黒い排気ガスを出しながら歩き出す。
「あの機械に武装できないのかな」
「ほんとにな、そうすれば俺らがこんなことしなくていいのに」
少し歩くと箱舟への入口は巨木の陰に隠れ見えなくなる。
生き残った七名とエレオノーラを含めた8名は、彼らの守る三機のオートマトンを追いかけ向かって着いた先は湿地帯。
どこまでも高く伸びる周囲の巨木の根が絡み合いできた大小さまざまな水たまりが点在している。
「雨水がたまってますね」
「大きな落ち葉が重なって層になってるんだろ。これだけ大きな落ち葉だし」
その大きな体で人の背より高く育ったシダの葉をかき分け、そのままじゃぶじゃぶと音を立ててオートマトンが水の中に入っていく。
膝下ほどの深さの水たまり、無口なウーノンやアインは一瞬眉をひそめたものの、すぐに水の中へと入っていきオートマトンを追う。
巨大な水たまりの淵でキュリルが立ち止まり横を歩くテオに話しかける。
「どこに連れていく気なんだろ、私らもこの中に入っていかないといけないらしい」
「……水深はそこそこ深いけどよぉ、こっちは靴だぜ? このままいくのか?」
「……行こう、置いて行かれる」
「はぁ、仕方ねぇな。こういうところに行かせるのなら、ちゃんとした装備をよこせってんだ」
植物の葉の根元に群集する蛍光色の蝸牛に悲鳴を上げるエレオノーラ。
声を聞いてベニユキが様子を見に向かう。
「大丈夫かテンメイ、エレオノーラ?」
「もう無理、むりぃ~!! 疲れるし汚れるし」
「はい……帰りたいです、どこなんですここ」
「帰ったらあのAIに聞いてくれ」
「虫キモイ虫キモイ虫キモイ」
「なんでこんなことするんですか?」
「なんでって、歯向かえばこの世界に放置されていく。嫌だろ一人こんなわけのわからに所にこんな装備でおいて行かれるのは」
「そうそう、いつ終わるのか終わりが来るのかわからないけど今は従うしかないでしょ」
「なるほど」
足場が組まれ頭上を通る配管に絡んだ蔦や成長した幹に締め上げられ押しつぶされたガスタンクを見ながらベニユキはマルティンのもとへと近寄る。
「やぁ、ベニユキ君、みんなの身を案じて話しかけてくれているのかい。ところでこここうなる前は何を作っていた工場なんだろうね。すごい配管の数だと思わないかい?」
「石油コンビナートっぽく見えるんだよなぁ、全体を見ないとわからないけども」
「燃料を取るとか言っていたね」
「まぁ、重たい思いしないで帰れる程度。身軽な分、命だけは落とさず行こうか」
遠くから聞こえる連続する破裂音。
遠くから響いてくる音に耳を澄ませ振り返るもオートマトンに置いて行かれないようにまた歩き出した。
「この音、銃の音か?」
「たぶんね、戦闘が始まってるのかも」
「俺らも気を付けよう、こっちもそろそろ出くわすころかも。何が出てくるか全く見当もつかないが」
「だね、エレオノーラさんが何も覚えていない守ってあげてくれベニユキ君」
「今度は守りたいな」
嫌々水の中に足を入れじゃぶじゃぶと音を立てながらぬかるみ滑る木の根の歩くエレオノーラが水から出ている茶色い物体を指さす。
「なんか浮いてます」
指さす先には緑色の塊、水草のようなものが浮かんでいる。
「ゴミじゃない?」
「いや、でもなんか……動いて」
一同が少し目を放している間に浮いているものが三つに増えていた。
「増えました」
「心配し過ぎじゃ?」
話を聞いていたウーノンがエレオノーラの指さすものに慎重に進んでいき銃口の先で浮いているものをつつく。
「ただのでかい葉だな。この辺から泡が出ている、下に空気があるのかもな」
銃口の先で持ち上げたものを見てエレオノーラと一緒にいたテンメイがほっと息を吐いた。
「ほらただの葉っぱじゃん、ありがとうウーノン。怖い怖いと思ってるからなんでも怖く見えるんでしょ」
「だって知らないところですし」
滑る木の根を歩き何度か足を滑らしながらオートマトンを追いかける。
背中に白いキノコの生えた子犬ほどの大きさのナメクジが通り過ぎていく。
大きな虫を見るたびに足を止める女性たちの背を押し先を進むグリフィンやウーノンを追いかける。
「なかなか進むな」
「昨日は襲われて大変だったけど、今回は地形的に戻るのにも一苦労しそうだね」
「虫が多いよな、鳥を見ない他の動物も」
「そうだね、食物連鎖からすると捕食者がいると思うんだけど」
進行方向から水しぶきが上がった。
8メートルほどの尾の長い巨大なワニが現れる。
「なにっ!」
茶色い体に木の幹と同じような鱗をし接近するまで誰もその存在に気が付かなかった。
アインが右腕を噛まれ抵抗する間もなくワニは腕に噛みついたまま回転、体重をかけられ水たまりに引き込まれ強力な服ごと腕をもがれる。
襲われたアインの叫びとそれを見たエレオノーラの悲鳴が響く。
「ぼさっと見てるな、撃て!」
「銃を、アインに当てないように!」
「こうしてっ、こうしてっ……あれ?」
エレオノーラ以外は銃を構え引き金を引く。
反動を制御できず銃弾はあらぬ方向へと飛んでいき、それをあざ笑うように長い尾を使って水を搔き浅い水たまりを魚のように悠々と泳ぐワニ。