天を目指す植物群 3
エレベーターはゆっくりと降下して地面に降り立つ。
場所は植物の根と金属の配管が四方八方に伸び絡まった森と工場が混ざったような場所。
木々が道や建物の基礎を地下に張り巡る根によりめくりあげその上から地表に出てきた根によって覆っているためデコボコとしていて平坦な場所は見られない。
「何だよこれ……」
「……ベニユキ君、あれ僕の見間違いじゃなければ建物が蔦に絡まって宙に浮いているんだけど」
空は枝葉が伸び太陽の光のほとんどを遮り、全周囲を太く高く伸びる草や木々が取り囲み景色を緑とこげ茶色に塗りつぶしている。
キュリルとアインは武器を構え周囲を見回す。
「昨日とは場所が違うみたいだけど」
「そうだな、気を引き締めていこうぜ」
アインは持参したサングラスとカーボーイハットをかぶる。
「それ持ってきたんだ、気に入ったの?」
「ああ、ハードボイルドだろ」
機能の戦闘を知らないものたちは皆、宙に浮かぶ施設の一部を見上げて首を傾げ、そして周囲を見てまた首を傾げた。
青々と茂る草木を見回し新鮮な空気にエレオノーラが深呼吸して、隣に立ち高層ビル以上の高さを持つ樹木を見上げるテンメイを見る。
「きれいなところですね」
「そうだね……、なんだここ。昨日は乾いた土地だったのに」
よく理解していないものは普通に地面に降りこの場所がどこかを調べようとしていて、ベニユキやグリフィンなどはすでに武器を構え慎重に歩き出す。
「そういえば、今回は何を持ってくるか聞いていないが」
ベニユキが天に向けて話しかけると宙に浮く施設の出入り口からミカの声だけが帰って来る。
『すみません、今回はこちらで用意した機械の護衛をお願いします』
「護衛?」
『現在、回収場所への改めてのルート確認をしておりますので』
「なんだか知らないけど早くしてくれよ?」
『準備が出来ました、皆さまエレベーターから下がっていてください』
「下がる?」
エレベーターの昇降口から降りてくる小型のトラックほどの大型のロボット。
ローラーのついた四つの脚で着地しお互いがぶつからないように歩き離れる。
蟹の鋏のようなアームが付いたもの、酸素ボンベのような細長いタンクを乗せたもの、ショベルヘッドを付けもの、それぞれ形は違うものの剥き出しの動力装置が付いており、その鉄板裏側には四方に伸びる4本の脚。
「でけぇな、何だこれ」
「ロボットだ」
「ここまで大きくはなかったが、軍で使っていた運搬用のロボットにどことなく似ているな。地雷や鉄条網の敷設や撤去に使われていた」
ベニユキ、マルティン、グリフィンがそれぞれ感想を漏らす。
全部で九台がエレベーターを降りて三機で一組、合わせて三組になって歩き出した。
現れたオートマトンに興味を持ちマルティンたちがやってきてミカの話を聞く。
『オートマトンです、皆さまにはこれの護衛をお願いします。時間は4時間ほど、この世界の半固形燃料の回収です。瓦礫を排除し抽出しますので、その間オートマトンが破壊されないように守っていただきます』
「昨日もこれを使えばいいんじゃないか」
『回収していただいたデータから改良して作り出したものでして。それとこれは見ての通り大きく足が遅く武装搭載能力がありません。これを守りながらあの場所へと向かうとなると最悪全滅していた場合もあります』
「そうかい。ところで戦力を分散させるのは良くないと思うんだが」
『かもしれません、ですが大人数が一か所にまとまってしまうとそれだけ多く生き物をひきつけてしまいます。少人数に別れなるべく息をひそめてもらうことで生存率が上がるはずです。それにこの場にいられる時間にも限りがあり、数日にかけて留まるのは周囲の生物に警戒感を持たれてしまいます。9機すべてで一気に採取を済ませ変えることが生存率を最終的に上げるのです』
「了解了解、俺からの質問は以上だよ」
ベニユキがオートマトンから離れると、そこへ銃を構えたグリフィンとマルティンがやってくる。
「これらすべてを守り切るのは難しい、我々は固まって行動した方がいいという話になった」
「ベニユキ君も僕らとともに行動してほしい」
「待てよ、なら後の二組はどうするんだ?」
「俺たちの成果で武器は強化されたんだ。あれを使って彼らが無事生き残ることを祈ろう、我々にできるのはそれだけだ」
「昨日と同じ、僕らは生き残れるように最善を尽くすだけ……。わかっていない彼らと行動すれば混乱が起きる。昨日のエレオノーラ……みたいに、なりたくはない」
「まぁな、それはエレオノーラを助けられなかった俺が一番わかってるよ」
「そういえばだが、この銃の扱いはわかるか? 拳銃は引き金を引くだけでよかったがこちらは本格的なつくりのようだ。わからないなら歩きながら教えよう」
「助かりますグリフィンさん、テンメイたちに教えて自分も身だけでも守ってもらわないと」
「ああ、そうだな」
歩き出していくオートマトンに続いてベニユキたちも分かれて歩き出す。
人の上半身より大きな落ち葉が積み重なり、苔むし滑りやすくなった木の根を踏みマルティンやキュリルが足を滑らせ転ぶ。
オートマトンは速度を落とすことなく止まることなく人の歩く速度でゆっくりと進む。
頭上を取りのような大きさの昆虫が飛び過ぎていく。
「きゃぁ! 見たことない虫が飛んでます……」
「気持ち悪い、ヤダヤダヤダ」
絡み合う木の根に気を付けながら進むマルティンが二人の方へと振り返る。
「テンメイ、エレオノーラ、静かに。何がいるのかわからないんだから静かに」
木々の根の隙間から人の赤ん坊くらいのサイズの蜘蛛が這い出てきて目の前を通っていく。
グリフィンが銃を向けるがそのまま去っていくのを見て銃口を下げた。
「しかしここはどこなんだ、てっきりまたあの人型の何かと戦うとばかり思っていたが」
ベニユキが滑る足に気を付けながらグリフィンのもとへと寄っていく。
「女子らじゃないけどデカい虫は気持ち悪いな、見つけたものは片っ端から潰していくか?」
「それもいいが、何が出てくるかわからない気を付けて進まないか?」
「……そうだな、しかしここの虫でかくないか」
「オニヤンマ、クスサン、アシダカグモ、カブトガニ、タカアシガニ、ダイオウグソクムシ、大きな節足動物なら他にもいるだろう」
「しかしだなぁ、こう見るものすべてがでかいと気味が悪いだろ」
「襲ってこなければそれでいいじゃないか」
「落ち着いてるな、グリフィンは」
「たしかに新鮮味はあるが驚きは少ないな、歳のせいもあるのかもしれないな」
「そういや、年寄りなんだよな」
「ああ、少なくとも生い先は長くなかったな。時間がたつにつれさらに少し昔のことを思い出した、どこに所属してどう戦ってきたかは思い出せないようだが。ベニユキ君は何か昔のことを思い出せたかな」
「う~ん、……猫を飼っていた記憶、誰かと一緒に買い物に言った記憶、都市部で通勤電車に乗ってる記憶とか、思い出したというにはどうも納得がいかない記憶ばかり」
「テオ君やキュリル君もだが、なぜここに来たかの記憶は誰も思い出せなかったか」
「あのAIが意図的に渡さなかったのかもな」




