永訣② 永遠の別れ
それから数日が過ぎ、僕にとって一生忘れられない事件が起こった。それはテレビのニュースで知った。テレビを見ているとテロップとともにニュースが流れてきた。
『女子高校生自殺』
「昨夜遅くS市M町の戸建て住宅で、私立高校1年六城彩音さんが自室で手首を切って倒れているのを母親が発見しました。すぐに救急車で病院に搬送されましたが、病院に着いたとき既に死亡が確認されました。部屋には遺書らしきものが2通置かれており、警察は彩音さんが自殺したものとして遺書の内容を確認するとともに自殺の詳しい原因を調べることにしています。」
僕は何が起こっているのか理解できなかった。いったい何を言っているのだろう。しばらく茫然自失の状態でいたが、我に返って部屋に戻りメールを確認してみた。すると彩音さんから1通のメールが入っていた。
〈ごめんね。〉
ただそれだけだった。
僕は部屋を飛び出し、再度テレビを見に行った。きっと何かの間違いに違いない。そう思って違うチャンネルをつけたが、残酷にも同じニュースをやっていた。
このチャンネルでは遺書の内容に言及していた。遺書は2通あり、1通は両親あて、もう1通は名前がわからない男性宛てに書かれていたそうだ。両親あての遺書には、「決められた将来と、毎日の生活に疲れました。先立つ不孝をお許しください。」といった内容が書かれており、男性あての遺書には「今まで楽しかった。ありがとう。」といった内容が書かれてあったそうだ。警察は心当たりのある男性は名乗り出るように呼び掛けているといっていた。
遺書にある男性とはおそらく僕のことだろう。名乗り出るといっても、そう簡単にはいかなかった。僕たちが付き合っていたことは彩音さんの家が厳しいこともあって僕たち以外の誰にも言っていなかったので、名乗り出たところで、彩音さんの両親がいい感情を持っているとは思えなかった。また、僕自身も、もちろん家族や友人の誰一人として言っていなかったので名乗り出たら大きな騒ぎになってしまうと思った。せめて僕宛てであろう遺書だけでも読みたかったが、今はそれよりもそっとしといてほしかった。
それからしばらく僕は抜け殻のように過ごしていた。家族や友人にも「元気ないな」といわれたが、「ちょっと疲れてるねん。」などと言って誤魔化していた。でも何度考えても彩音さんが自殺するほど悩んでいたとは気づかなかったし、今でも何で自殺したのかはっきりとはわからないままだった。暗澹とした日が続き、僕ももう生きる気力を半分失っていた。いっそ、彩音さんの後を追って死のうかとも思ったりした。よく夢で彩音さんの夢を見た。夢の中で楽しく話をしていて、ふと目が覚めるとそこは真っ暗な僕の部屋だった。そのとき、やっぱり彩音さんは死んだんだと実感させられた。日に日に成績も下がり、生活も荒れていった。僕はもう半分自暴自棄になっていて、それもどうでもよかった。
ある日の放課後、先生に呼び出された。そして、先生は僕に向かって、
「おい、桧室、最近変だぞ。授業にも集中してないし、成績も下がってるし、何か嫌なことでもあるのか?」
「いいえ、別に何にもありません。」
僕は答えた。というより、他に答えようがなかった。
「そうか。何か悩み事があったら言えよ。何でも相談に乗るからな。今の桧室じゃ親御さんが見ても悲しむし心配するぞ。」
先生は怒るでもなくそういって僕を励ましてくれた。
「ありがとうございます。」
そう言って僕はその部屋を後にした。