十六話
加速度的に膨れ上がる更新間隔。
三国志単語解説
上党:洛陽の川を挟んで北のほう。
張楊:上党の偉い人。たぶん出番はもうない。
苑:袁術がいるところ。原作だと南陽。でも肥ゲームだと苑。つまり同じ場所。
袁術:原作キャラ。某漫画だと猿。英雄集結ではクリアが大変。出番はまだある。
「もはやここまで、かしらね」
かつては漢帝国の威勢の象徴であり、見る者にすべからく畏敬の念を覚えさせるだけの威容を誇っていた巨大都市、洛陽。
その雄姿も少なからず続いた失政の末に色褪せ、しかし未だに力を感じさせる街の宮殿にいる緑髪の少女が呟いた。
確信があったのだ。
自分の主には世界を手にする度量があり、自分を含めて他勢力を超える家臣団もいた。
唯一の不安材料であった物資の不足、洛陽における人脈の不足も一人の新参家臣によって解決した。
何を見誤ったのか。
予想通りに董卓の勢力拡大をよしとしない者達が、予想通りに袁紹を中心に纏まって敵対した。
そう。そこまでは想定内だった。
唯一の誤算は袁紹の統率力。
既知の彼女は凡人以下の才知しか持ち合わせぬくせに人一倍の自己顕示欲を有していた。
だからこそ反董卓連合の結成を見逃したのだ。
袁紹を主軸に置くが故に弱体化するであろう反董卓連合。
それは有力諸侯の多くを集め死地へ誘う誘蛾灯となるはずだったのだ。
狂いだしたのは馬騰軍が凉州から攻め上がった時。
他者の功績を喜ばないであろう連合軍は馬騰にすら止水関への出兵を要求するであろうとふみ、天水と長安の防備は最低限だった。
当然の帰結だが天水と長安は落とされた。
そして第二の誤算が時を同じくしておきた止水関の陥落。
神速と呼ばれる張遼、武官第三位で脳筋の華雄、そして政戦両面に鬼才を誇る徐庶を軍師として配し、後詰めにおいた最強と謳われる呂布と戦術においては賈駆すら凌駕する陳宮も合流させた。
負ける要素はなく、実際に優勢に進んでいたのだという。
しかし、徐庶が誰も気づかぬうちに失踪したために指示が一時途絶。それによる退き際の見誤りや戦力移動の停滞などにより戦局が変化。
気付いた陳宮が対処したからこそ撤退もなったが危なく完全包囲すらされかけていたという。その後は虎牢関に籠もり防戦していたが、遂に袁紹が虎の子の衝車を使う様子を見せているという。陳宮も必死に動いたようだが、策はならず利用され既に城外で衝車を破壊するには厳しい状況らしい。
古来より敗軍の将の末路は二つ。
――すなわち降るか死ぬか。
自慢ではないが自分も含めた家臣団は優秀だ。
そして董卓も君主として一流の素質を持つ。
家臣団はよい。己の意志で生きるも死ぬも選べる。
しかし、董卓は、月は違う。
董卓の悪評は洛陽の様子を連合軍の兵達がその目で見れば解消される。
だから、暗愚であるならば旧董卓家臣の反感を買わぬために飼い殺しにすればよい。
凡才以上でも一家臣として使えばよいのだ。
しかし月は一流で、君主としての才がありすぎた。
天に太陽は二つも、地に君主は二人も要らない。
戦の負けは認めよう。
董卓勢力の滅亡も認めよう。
だが、月の死は認めない。
己が護る。
護らねばならない。
今ならまだ逃げられる。
洛陽と虎牢関にいる者達には身の振り方を自由にする許可を出し、自分と月は逃げよう。
二人じゃ危険だが大人数では見つかりやすいから多数の護衛を連れるわけにはいかない。それに自分の顔は洛陽で顔を合わせた事がある官位持ちに知られているから代わりに顔をさらす交渉人も欲しい。高順と李儒は連れて行くべきか。
彼女達を登用した徐庶には悪いが、探す時間はないし生きている保証もない。
巧遅よりも拙速と言うわけではないが、そうと決まれば急ぐべきだ。
そう考えた時に、彼女はいきなり声をかけられた。
「賈駆様、お言葉ですが」
いつの間にか目の前にいたのは李儒。
思索にふけりすぎて気付かなかった。
が、彼女がいるのは丁度良い。
「丁度よかったわ。すぐに高順と一緒に旅支度をして。これ以上は無理。荊州に落ち延びる」
李儒も高順も口は悪いが指示には忠実だ。
「ですが、徐庶様が」
彼女が徐庶を気にするのは解るが、今回ばかりは仕方がない。状況が状況だし、徐庶以上に月が危ないのだ。
「徐庶が気になるのはわかるけれど、彼女は居場所どころか生死すら不明。それに彼女なら連合軍に見つかってもあの才知。登用を受けいれれば生き残る余地はある。でも月はそういうわけにはいかないの。わかってちょうだい」
なんとか荊州まで行けば活路は開ける。
だが。
「それは無理な相談ッスよ」
「え?」
それは想定外。
想定外とはいっても、気付かぬ内に高順がここにいることについてではない。所詮は軍師の自分には他者の気配を探る術などないのだから。
ここで驚いた理由は、ここまでの言動から忠誠心はまったく疑っていなかった高順からの拒否だ。
「どういうこと?」
まさかいまさらに董卓と行動を共にすることを恐怖するわけではあるまい。
こんな土壇場で寝返るような人物でないことは分かっているつもりだし、徐庶が重用していたという事実が自分の判断を後押しする。
ならばなぜ異議を唱えるのか。
その疑問はすぐに氷解することとなった。
◇
彼女、高順は自分を董卓の配下とは考えていなかった。
彼女は徐庶に取り立てられるまではただの一兵卒に過ぎなかった。
もっと詳しく言うならば、頭が回りはするが学問はあまり好きでなく、家柄が良いわけでもなく、継げる家業も無かった少女が就職にあたり唯一の取り柄であった喧嘩の強さを活かすために入った軍。それがたまたま董卓軍だっただけだ。
ろくな才を持たず、取り柄の喧嘩も兵卒よりも多少強い程度で武官になるには到底足りない。
まあ上党の張楊や苑の袁術ならば武官として迎え入れてくれる程度にはあるが、なまじ呂布や華雄の武を見る機会があったためにその気にはならなかった。
彼女にとって武官とは、単騎で兵卒の十や二十くらいならば笑顔で吹き飛ばす人種だったのだ。
だから徐庶がいきなり彼女を洛陽守備の将としようとした時も驚いた。
何か勘違いをしているのか疑い、そもそも自分に出来る気がしなかったから辞退しようとした。
だが、だからこそ徐庶の言葉が心に響いたのだ。
『武力と統率が等しいならば、言ってません。少なくともこの董卓軍にあなた以上の武力の持ち主は他にいますし。ですが、統率ならば、あなたは優秀です』
―――後には『じゃなきゃはわわとあわわはただの幼女や』なんて続いたのは聞こえちゃいないが。
少なくとも徐庶は勘違いしておらず、自分に武才ではなく将才を見出したのだと理解したのだ。
そうしたら後はとんとん拍子。
同じく一介の文官から徐庶に見出された李儒と共に徐庶の直轄の配下として行動し、心酔した。
徐庶は高順自身よりも高順を知り、李儒自身よりも李儒を知っていた。
幾つもの無理難題と思われることをやらされ、結果として自分の全力を尽くすことでギリギリ成功した。
そしてその事実は一つの認識を彼女達に与えた。
『徐庶様は部下の限界を知っている』
それはすなわち徐庶が彼女達の理解者であるという証左であった。
そしてそんな彼女達にとって賈駆や董卓なんぞのために徐庶の捜索を断念するなど有り得ないことだったのだ。
―――ただし、賈駆に反対した理由は別にあるが。
高順は笑顔で賈駆に告げる。
「徐庶様が見つかりましたッスよ」
そして李儒が微笑みながら続ける。
「それに現状は未だに徐庶様の予想の内ですわ」
戦乱の序章は閉じぬ。
勘違いの負のスパイラルも未だに終わらず。
徐庶達の冒険はまだまだこれからだ。
ご愛読ありがとうございました。
いや、終わりませんけどね。
更新間隔はまあ、気にしない方向で。
知ってるとは思いますが、オリキャラ紹介を一番最初に載せているので誰かわからなくなったらどうぞ。
次回更新は年内が目安です(^_^;)




