十五話―後編
十五話改訂版後編
彼、紀霊は自身が異常者であることを自覚していた。
それは張勳麾下の汚れ仕事を請け負う部隊の部隊長であるから、という訳ではないのも。
何故なら彼の異常性は残忍であったり血に興奮するということではなかったからだ。
彼の異常性は彼の趣味にあった。
『幼女に興奮する』
嘘である。
『人間観察』
彼は他者の生きる理由を聞くことを好んだ。
徐庶が聞けば。
『ちょwwwおまwww厨二www』
と爆笑しかねない趣味。
しかしそれにはれっきとした理由があった。
彼には生きる理由が無いのだ。
愛する人も執着する物もない。人命が尊いとは口先で言われても彼にとって人命とは単価の最も安い資源の一つ。
しかし彼は死んでいない。
それが彼にとっては純粋に疑問だった。
自害してみようかとも思ったが、それに対しては不快感がこみ上げた。
そして同時に悟った。
つまり自分が欲するナニカが世界にはあり、それを見つければよいと。
だから彼は他者の生きる理由を聞くのだ。己の求めるナニカへの足掛かりとするために。
まあ長々と何を語っているかと言えば、彼が現在に命令違反をしているという事だ。
本来の任務は徐庶を殺し死骸の隠蔽をすること。それはすべて止水関近くの森でなせることだ。
しかし、彼は徐庶を殺しもせずに止水関から離れ、虎牢関を越えて洛陽に向かう街道を逸れた森にいた。
理由は彼の直感。
ただ一度の防衛戦で連合軍に名を轟かせた少女、徐元直。彼女はきっと己の欲するナニカを知っている。
それを聞くために横槍が入らない戦火まで距離があるここまで運んできた。
気絶、というか爆睡している徐庶を下に降ろす。
そして目を覚まさせるべく徐庶に触れたところで。
「不埒者ぉ!」
視界外から飛来した矢を避け、斬りかかってきた剣を袖に仕込んだ鉄板で受け止め。
そのまま両断された。
所詮はモブである。
◇
「…きろ、起きろ」
ゆさゆさと体を揺さぶられる。
せっかく人が快眠しているのに迷惑な話だ。
だが、だんだんと意識が覚醒するにつれて背中の下がゴツゴツしていることに気付いた。
ついでになんだかクラクラする。
これは一回だけ経験があるアレか?
酔っ払って路上でひっくり返ったパターンか?
まずいな、起きないと他の人に迷惑だ。
だけど眠すぎて目が開かない。
だけど意識が覚醒したとわかってもらえないと救急車呼ばれかねないし、声だけでも。
「…ぁあ」
口内が乾燥してる。まるで走ってる車の後部座席で窓と大口開けて爆睡した後みたいだ。
「おい、大丈夫か。ひとまず水だ」
口元に革みたいな感触のものが触れて水が流れ込んでくる。助かる。
余談だが、二日酔いとかで頭が痛いのは血液中のアルコールが蒸発して水分が足りなくなるせいなので、迎え酒も水分補給という観点からは正しいらしい。
口の中に入ってきた水を飲み込み、再び声を出す。
「誰か知りませんが、ありがとうございました。後は大丈夫なんで」
さすがに酔っ払って見ず知らずの人に介抱してもらうのは恥ずかしいしね。
「む、丁度いい。そいつも気が付いたか。秋蘭、私達もそろそろ行くぞ」
「ああ。わかった」
介抱してくれた人はしゅうらんさんというらしい。響きからして苗字じゃないし、名前が真名か…。
真名?
あ、そういえば女体化三国志じゃ。
てか私って止水関の上で指揮執ってたんじゃ…。
酔っ払い気分でグルグルしてた頭がキチッと回り始める。
ひとまず、目が開かないのは連日の書類仕事でのドライアイだからさっさと開けないと。
目を開けたら蒼髪の美人さんと黒髪の美人さんがいた。
しかし私は騙されない。この世界は武将や軍師に美人が多い。まずは名前だ。
「どなたでしょうか?それにここは?」
刺激しないように敬語。
身を起こしながら回りを眺めたら森の中。
ついでに沢山の騎兵ズ。
わけワカメ。
「私は夏侯元讓。華琳様の命で「姉者っ!」董卓様の命令で洛陽に向かっている」
誤魔化しきれて無いお陰で、おK把握。
華琳様って確か曹操の真名だった希ガス。
そして曹操配下の夏侯といえば夏侯惇と夏侯淵。
字は覚えていないが、ゲームでのステータスの概要は覚えてる。
多分だけど頭良さげな蒼髪は夏侯惇でアホっぽい黒髪は夏侯淵だな。
そんな彼女達がよく分からないけど董卓配下と嘘をついている。
現在地は分からないけど腹の減り具合的に止水関から1日たってない位置だということを鑑みると、現状は。
…わかんね。
まず止水関から1日で行ける範囲わかんないし。
そもそも謎解きははわわあわわなり賈駆なりに任せる分野だ。
だけどひとまず分かることはある。
ここで保護を求めたら曹操様√突入に違いない。
でもミスったら『曹操様配下と知ってるだと。知られたならば仕方ない』って三枚におろされる。
あ、そういえば。私って止水関の軍師。
夏侯姉妹は連合軍の武将。
ミスんなくてもサクッとなるんじゃね。
そうだ、焦るな私。急がば回れ。焦って死ぬよりも確実に曹操様の下へ行くんだ。
つまりここではにこやかに立ち去るべきだ。
「いやぁ、ありがとうございました。では失礼します」
背を向けて一歩、二歩、さん「待て」
何も聞こえなかった。うん。
「名を言え。でなければ斬る」
流石は夏侯惇、知力がまあまあ高いだけはある。バレたか?
てか手に持ってるの弓じゃん。斬るんじゃなくて射るんじゃないか。
泣いて馬謖を射る、みたいな。
やべー、思考が焦りでグルグルする。焦るな私、冷静に、落ち着いて偽名を名乗れ。
…偽名どうしよ?
偽名、偽名…なんかないか?
雷電、頑打無、阿良々木、司具南無…まともなのが無いやないか。基本は二文字、だけど雷電は駄目だ。何か、唸れ私の虹色の脳細胞っ!
「どうした、早く名乗れ」
うわ、泣かないで馬謖的に射られる。
「わ、私の名前は馬謖と申します」
「馬謖…。ふむ、私の勘違いか」
馬謖(本人)さん、ありがとう。縁起悪い名前とか考えてサーセン
「じ、じゃあさよならです」
目指すは明日の方角へ。
「いや、貴様には悪いがついてこい」
oh.
◇
「馬謖…。ふむ、私の勘違いか」
明らかに怪しい姿をした男に浚われていたとおぼしき少女。
姉が男を切り捨てた時に使っていた袖に仕込んだ鉄板や身のこなしからして男はその道の熟練者。
ならば浚われていた少女もそれなりの身分か地位、あるいはその関係者と思われた。
そして姉が正直に姓と主の真名を言ってしまい、そのときの少女の冷や汗を垂らし、さらに急いで立ち去ろうとする姿を見て一つの仮説を得た。
こいつは董卓軍有力者なのでは、と。
まぁ、彼女の名を聞いて疑念は半分晴れた。
馬謖という名前は董卓軍の有力者では聞いたことがない。
ならばせいぜい上級文官程度だろう。
ありえない話だが、まさか偽名だったとしても、名を偽るような誇りない者が仮にも華琳様に認められた英傑董卓の麾下で重用されているはずもない。
私の言葉を聞いてホッとしたように立ち去ろうとする馬謖。
だが、疑念が晴れたのは半分だ。
もう半分は確信へと変わっている。
コイツは董卓軍関係者だ。
丁度いい。連れて行って作戦後に華琳様と合流した後に情報を吐いてもらおう。
ところどころ理論に穴があったりしますが、まあキャラクターも人間。気付かなかったんです(^_^;)
いまいち改訂しても気に入らない出来だったりしますが、ここらを先に仕上げないと後に支障が出るんでひとまずはこれで十五話は確定にします。
春蘭より秋蘭が目立つのは作者の趣味ではありません。本当だよ?
単福?気のせいだよ。




