十五話―前編
十五話改訂版前編
徐庶が紀霊に浚われたほぼ同時刻、後退する袁紹軍を追撃していた呂布は動きを止めていた。
「みぃつけた、一番槍はもらったわ、っとと。祭、何するのよ」
「策殿、あれほど冥琳に突出するなと…」
「いくのだー…モガ、モガモガ」
「逸るな鈴々、同時に仕掛ける」
「戦意は旺盛で結構。呂布、貴様には我等の相手をしてもらうぞ」
呂布の側面から現れた孫策と張飛が突出して仕掛けようとするのをそれぞれ黄蓋と関羽が抑え、代表として手の空いた趙雲が口上を述べる。
諸葛亮、鳳統、周喩という連合軍屈指の軍師達が呂布の相手として派遣した武将は劉備軍と孫策軍の主たる武将の全てである。
派遣された武官達としては言外に五人がかりでなくては勝てないと言われているようなものであり、それなりに思うところもあった。
が、こうして呂布と相対して認識を改めた。
「いやぁ、やっぱり止めてくれてありがと、祭。冷静に見ると斬られる未来しか見えないわね」
「にゃはは、愛紗と鈴々だけじゃなくてよかったのだ」
連合軍で間違いなく最強水準である自分達としてなお圧倒的な武威。
「こりゃあ矢を当てるのは至難の技じゃなあ」
「おや、おや、やはり世界は広い。これほどの武人がいるとは」
「これほどの力。使いどころさえ誤っていなければと思うと口惜しい」
やはり自分達の軍師は慧眼であったと喜び、強者との出会いに感謝する。
「…征く」
「くっ、重い」
呂布は自身の進路を塞ぐ将に対し一掃するように得物を横薙ぎに振るい、それを関羽が全力で受け止める。
「さぁ、いくわよ!」
「燕人張飛のこの蛇矛、受けてみるのだ!」
空いた呂布の懐に孫策と張飛が飛び込む。
呂布に迫る南海覇王と蛇矛。ともに岩程度ならば一撃で砕く破壊力を持つソレ。
「…遅い」
呂布の体との間に入った方天画戟の柄にあたり、揺らすことなく弾かれる。
「なんじゃ、若い衆二人掛かりで揺るぎもさせられぬとは情けないのう」
黄蓋が弓を同時に六本放つという神業を見せるが当然の如く弾き飛ばされ、呂布は前に踏み出そうとする。
「やらせんっ!」
しかし、趙雲が更に飛び込んできたために迎撃を余儀なくされ、踏み出せない。
そもそも五人に託された役目は呂布の撃破ではない。
『雪蓮達には悪いが、呂布を打倒できるとは考えていない』
『敵の攻撃でこちらが崩れかけていますが、兵力では依然としてこちらが二倍近く残っています』
『董卓軍の勢いを止めれば勝機はあります。そのために呂布の足留めを』
軍師達に託された役割は足留め。
そしてその役割は果たされつつある。
◇
「三つ数えたら斉射を。三、二、一。今です」
「チッ、あんなひょろひょろ矢なんぞにあたっても気にすんなや。一気に突っ込んで攪乱したる」
「諸葛亮隊、槍構え。迎撃します」
「袁術軍は止まった張遼さん達の横腹を食い破っちゃって下さい。最低一人は殺さないと家族の方が死んじゃいますよ?」
袁術を突き抜けかけていた張遼隊に横合いから矢を射かけたのは鳳統隊。
それを気にせずに突破を仕掛けた騎馬に対して槍で迎撃したのは諸葛亮隊。
袁術軍に援軍に来た二隊によって張遼軍は足を止められ、そこに家族を人質とされた死兵に近い袁術軍が強襲する。
呂布の方に有力な将を全て送ってしまっているために個人の武で張遼にかなう人間はいないが、既に一連の戦闘で一騎打ちではなく部隊VS部隊という形に持ち込んだために問題はない。
用兵で諸葛亮と鳳統の二人掛かりで負けることは無く、崩れかけていた袁術軍も残兵は少なくないために立て直せば強大な戦力となる。
この場の戦況は決した。
◇
「悪いな華雄。貴様には孫策が出るまでもない」
「舐めるなぁぁぁぁあっ!」
やめてよね、本気を出したら華雄が周喩に勝てるわけが無いじゃない。
◇
遡ること数日。
天水の董卓軍は馬超などの勇士を傘下とする馬騰率いる馬軍襲来の報を受け、迎撃の為に馬家の勢力下の都市である武都と天水の間の荒野に布陣していた。
「あいつか?」
声を出したのは董卓軍の李確。かなりの身長を誇る巨漢であり、面長なために『面が長い』略してオモテガと呼ばれる男である。
「ああ、奴が連合の馬超だ」
答えるのは牛輔。董卓との血の繋がりもある天水の主将であり、『街亭の野戦鬼』略してガイヤの異名を持つ将だ。
「どうする?」
牛輔に答えの分かりきった問い掛けをした天水の最後の守将の名前は徐栄。五胡の血を薄いながらも引き、右目を斜めに走る傷痕が目立つ男だ。他の二人と同じく異名をとり『魔の胡将軍』略してマウシュと呼ばれる。
「もちろん仕留める。仕掛けるぞ。李確、徐栄。噴出流攻撃だ」
「「おう」」三人は対五胡の戦役において圧倒的な連携技術を誇り、かつては五胡の構成氏族が一つ『羌』の党首の麗琵留を捕らえたことすらもあるために、彼ら三人の率いる黒い武具で統一された騎馬隊は未だに公孫賛率いる白馬長史と並んで『黒い三連将』と呼ばれる恐れられている。
そんな彼らの連携技は少なからずあるが、特に噴出流攻撃は彼らの代名詞となるほどに有名だ。
数多の五胡の将の血を吸ってきた彼らの秘奥。
「喰らうかぁ!」
「なっ、俺を足蹴にした!?」
「徐栄ぃぃぃ!」
しかし、それは馬超には通用しなかった。
最初に斬りかかった牛輔は踏み台とされ、牛輔に続いて攻撃しようとした徐栄は馬超の槍の錆びとされた。
「くそっ、よくも徐栄を。どうする牛輔?」
「焦るな李確、ここは下がらなくては」
長い間、肩を並べてきた徐栄の死に激昂しながらも牛輔の判断力を信頼し指示を求める李確。
同じく激情を抱きながらも冷静に状況を判断する牛輔。
彼らは歴戦の勇士であり、それゆえにこのまま野戦では勝てないことを理解した。
「馬超!覚えていろっ!」
踵を返し、天水への撤退の指揮を執ろうとする二人。
「そうは、い神崎!」
しかし、それは叶わない。
「お姉さま、叔母上から伝言。『逃したら花嫁修行だ』だって」
「なっ、だ、だが、武人たるもの背を向ける敵に…」
「たんぽぽは知らないよー?叔母上が『だから貴様はアホなのだー』って激怒しても」
「あーーっ!わかったわかった。覚悟してもらうぞお前らっ!」
天水が陥落し、余勢を駆った馬軍が長安を押さえたのはその数日後のことだった。
◇
「なっ、それは事実なのですか!?」
「はい。徐庶将軍の姿が見当たらず現在は張済という武官が指揮を執っていると」
止水関の戦いの戦況が不利になってすぐに陳宮は指示を仰ぐべく城壁の上で防衛戦の指揮を執っているであろう徐庶に伝令を送った。
その返事がこれである。
(ま、拙いのですぞ。徐庶殿の真意がまったくわかりませんぞ。かといってこのまま放っておくのは最悪なのです)
呂布は完全に足留めされ、張遼隊は壊滅寸前。華雄はどっかいった。だってあいつはオチ担当だもの。
城門前に陣取っていた陳宮隊も体勢を建て直し始めた連合軍の部隊と激戦を繰り広げている上に、救援名目で進軍を開始した曹操軍も目と鼻の先に迫っている。
(何をなさるおつもりかわかりませぬが、音々音に任せられたと勝手に解釈しますぞ)
何も言わずに徐庶が姿を消したことは己の判断を信じてくれたからに違いない。
己の信じる徐庶が信じる自分を信じるのだ。
音々音は悲壮な決意を固めた。
―――董卓軍が止水関放棄まで後、一刻。
ちなみにそのころ、無抵抗に誘拐された徐庶は紀霊の背中で何も考えずに涎を垂らしていた。
この作品のジャンルが実は戦記だから戦闘描写を細かくしようとして挫折した結果がこれだよ。
勘違いネタが厳しいのは自覚してるけど勘違いモノを掲げてる以上は勘違いさせないとね。
胡粉が実際に高級かは知らん。
紀霊はモブだからね。泥から復活とかしないからね。
細かい誤字脱字や単語の誤用は作者アホだなm9(^Д^)みたいな広い心で見逃してね。




