十話
やらせはせん。屋良瀬把仙三by徐庶
パチリ、パチリと駒を打つ音がする。
室内にいるのは徐庶と張遼。
二人は盤上演習を行っていた。
着任した日は何も指示を出さなかった徐庶が翌日に指示した一切の攻勢なしでの防衛戦。
補給は十分で城壁、門ともに補修も完全。
故に戦闘は弓や落石によるものとなった。
もっと簡単に言えば。
――張遼は暇だった。
防衛戦の最高責任者とはいえ、互いに指揮官は下がりだらだらと射撃のみの攻防。
そもそも騎兵の指揮官で一騎打ちなどを好む張遼や華雄としては出番が無くてつまらないことこの上ないのだ。
そこで暇つぶしとして張遼は盤上演習を選び、徐庶はその相手に駆り出されていた。
ちなみに『いいですか、絶対に門を開くことはありません。開くのは負けたときのみ。戦う手段は弓と石だけです』と言われた華雄は出番が無いならば外にいてもしょうがないと部屋でひたすら武器を磨いたりしている。
それはそうと徐庶。
実は彼女。
かなり盤上演習が得意である。
理由、と言うほどでもないが原因は彼女と成る前の彼が学生時代に好んだボードゲーム。
地味に世界大会まであるそれを彼はかなりやり込んだ。
インターネットでやりまくっただけで公式大会にでたりはしなかったが『なに、定石を暗記すればどうということはない』をモットーにプレイしたのだ。
そしてそのゲームは盤上演習に酷似していた。
どれほど酷似していたかといえば諸葛亮と鳳統を相手に勝率十割な程だ。
まあ、最後のほうは勝てる気がしなくなって詰め将棋の要領の詰め盤上演習でお茶を濁していたのだが。
まあ、要するにこと盤上演習に関しては張遼では勝ち目がないのである。
そして何度か敗北し、張遼は徐庶の実力は認めた。
そして認めたからこそ。
「なあ徐庶、もう少し正面からあたらんか?こうも篭もってばかりじゃあ士気にも関わるで」
籠城戦への不満を伝える。
無能な軍師ならば籠城しかできないのもしょうがないと諦めて賈駆に軍師を変えるように頼める。
有能な軍師ならば籠城以外の策も思いつくはずだ。
ただ篭もってばかりでは士気も下がるし、自分も詰まらない。
盤上演習をしてまあまあ打ち解けもした。
しかし。
「絶対にダメです。例え、呂布が来たとしても籠城です」
黄巾の乱のおりに三万の軍を単騎で蹴散らした呂布ですら駄目という。
「何でや?見た感じ、先鋒は劉なんとかいう義勇兵と袁術配下の孫策。孫策は強いかも知れんけど兵は少ない。義勇兵に至っては将が無名すぎてわからん。そうそう負けんと思うで?」
張遼の見たところ。連合軍の先鋒を担う部隊は大した戦力ではない。
かの英傑、孫堅文台の後継者の孫策伯符はそれなりに名を知られてはいるが、他は無名な者ばかりだ。
無名だから侮るわけではないが、無名で実力者というのはそうはいない。
それゆえの言葉だが。
「劉備、関羽、張飛、諸葛亮、鳳統、趙雲、周喩、周泰、黄蓋。張遼さん、何だか分かりますか?」
いきなり人名を並び立てる徐庶。
「さあ?知らん奴ばっかり……あぁ、確か敵将の名前やったっけ?」
「はい。私見ですが、実力ある将と軍師です」
ついでに。
と彼女の言葉は続く。
「孫策配下でこの場には見受けられませんが、呂蒙、甘寧、陸遜、孫権、孫尚香といった面々も名前こそ知られていませんが有力です」
羅列される名前。
聞いている二人の片方は感心し、片方は背筋を凍らせる。
「よく知っとるんやなぁ。賈駆っちもそんなに知らないんやないか?」
「あはは、それは無いんじゃないんですかね」
ちなみにそのころ、暇した華雄は自主的に巡回をしている。
ちなみに暇した華雄の巡回は賄賂は効かず、小難しい話はスルー主義なので誤魔化しも不可。さらに巡回経路は気紛れ。武力は一級品のために地味に密偵を六人捉えた実績がある。
◇
何か前世で物凄く見覚えある盤上演習をしながら張遼さんと駄弁る。
張遼さんが暇してる理由は簡単。
今は籠城戦真っ最中だからだ。
当初はなんとか負けて投降する予定だったのだが、よく考えたら乱戦になれば投降する前に手柄首で殺される気がした。
かといっていきなり降伏では華雄さんに首チョンパされる。
そこで思い出したのが三国志のゲームに出てきたイベント『呂布謀叛』
内容は呂布が謀叛して董卓が死亡する。
このタイミングで『董卓斬った呂布抹殺のために投降しよーぜ』と言い出せばパーペキである。
噂では呂布は単騎で三百人も殺したDQNらしいし、董卓様も勿論DQNだからイベント発生は間違いない。
てなわけで籠城戦。
具体的には董卓死亡まで。
それにしても最近は運が向いてきてると思う。
この戦を乗り越えれば将来安泰な曹操の嫁ENDだし、『あの』張遼とも少し仲良くなれた。
ついでに調子に乗って有力武将の名前も教えたのは失敗だったが。
まあ、後は待つだけだしね。
◇
連合軍に並ぶ天幕の一つに二人の女性がいる。
「冥淋、どうしたの。そんなに恐い顔して?」
「あぁ、雪蓮か。いや、明命の持ち帰った情報がな」
雪蓮と呼ばれた女性が冥淋と呼ばれた女性の手元を覗き込む。
「冥淋、明命、祭、亞莎、思春、穏……蓮華に小蓮。あはは、ウチの主力が全員バレてるじゃない」
「あぁ。私達がここで明命と合流してから名を知った亞莎すらバレている。拙いぞ雪蓮」
「ええ。それに小蓮。あの娘はいざという時のために極秘にしていたはずでしょ?」
「その通りだ。明命を付けていたから間諜が来たらすぐにわかったはずだが」
「厄介ね。私の勘は徐庶はそこまでの脅威ではないと感じているのだけれど」
「今回ばかりは賛同できんな。完全に守勢に回られた上に挑発する予定の華雄は砦内の警邏で声が届かず、逆に密偵が華雄に数人刈られて動きづらい。まったく恐ろしい話だ」
「ひとまずはそんな中を潜ってきた明命の労いに行ってくるわ」
「ああ。これは軍師の領分だ。何とか頭を捻るとしよう」
◇
かつて彼女、曹操孟徳はとある女性に評された。
曰わく『治世の能臣、乱世の奸雄』と。
世辞ではなかった。
女性こと徐庶の眼には本気の光が宿っていた。
だから試すために己の野心の一端を見せた。
『いずれ私は丞相に至るわ。故に私に仕えなさい』
流石に今の段階で漢に叛するとは言えないので丞相とした。
禅譲を促す前には丞相になるから嘘ではない。
返答は簡潔に否であった。
理由を問えば一言。
『既に主が居ます』
その時、断られたにも関わらず私の心は浮き立っていた。
否定されなかったのだ。
春蘭や秋蘭ならともかくとして父上ですら丞相は無理と断じた。
しかし、彼女は私が丞相となることを受け入れた。
彼女の眼の光は変わっていない。
疑っていない。
その時、初めて彼女の美しさに気づいた。
肩ほどまでのしっとりとした黒髪。
光を秘めた黒眼を持った上品な顔立ち。
身長は並みより上で均整がとれた体つき。
肌はとても白いのに生者の暖かさを感じさせる。
欲しくなった。
彼女ならば寸分違わず己と同じ覇道を見ると確信した。
いずれ、彼女の主から彼女を奪うと決めた。
そしてそれから数年。
反董卓連合が結成された。
袁紹主催の妬心からでた脆弱な連合。
曹操はそれを支え、董卓を潰すだけの力を持たせた。
願いは徐庶。
連合に参加しての名声は二の次だった。
そして董卓のいる洛陽へ向かう途上の止水関。
それを守る軍師は彼女であった。
読み返してネタの説明パートがくどい気がしたので一部は読者の皆さんと天ぷライオンのシンクロ率に期待して説明を簡素化&省略しました。
ちなみに投稿が遅れた理由はソレではなく、モンハン2ndGブームが再燃したせいなので次回も割と遅いかも(^_^;)




