表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

第3話 運命は、変わらなかった

「もう一度言います」


千冬が静かに言った。




「本日、再度千堂千春は死にます」




玲は机を叩いた。


「やめろよ」


声が荒くなる。


「もう一回死ぬってなんだよ」


「現実です」


千冬は淡々としている。


「昨日、あなたは彼女の死を体験しました」


「……」


「そして時間が巻き戻りました」


俺は頭を抱える。


「そんなのありえない」


「ですが起きています。これが昨日の観測データです」


千冬はバッグからタブレットを取り出した。


画面には、同じ地点の記録が二つ並んでいる。




SPRING LOOP


Layer 1


Layer 2




「同じ出来事が二度発生しています」


「つまり」


千冬が俺を見る。


「あなたは二回目の春にいます」


沈黙。


頭が追いつかない。




でも一つだけ分かる。


俺は昨日、確かに千春の死を見た。


そして今、昨日と同じ朝だ。


「……助けられるのか」


千冬が少しだけ目を細めた。


「理論上は可能です」




俺は立ち上がる。


「ならやる」


千冬が言う。


「ですが」


「なんだ」


千冬が言う。


「世界のルール、因果を知らないまま動けば、結果は変わりません」


俺は拳を握る。


「それでも行く。俺は千春姉ちゃんを助ける」


千冬は数秒黙った。


そして言った。


「分かりました」


「私も同行します」




夜。駅前の繁華街。


ネオン。人の声。


昨日と同じ景色。


俺は立ち止まる。


「ここだ」


胸がざわつく。


嫌な予感。


しかし昨日とは違う。


俺の隣には、千冬がいる。


「千春の勤務先は?」


「三軒先の店だ」


俺は言う。


「そこで見た」


千冬が小さく頷く。


「では、出てくるまで待ちます」




数十分後。


店のドアが開いた。


見覚えのある姿。


ドレス。


巻いた髪。


千堂千春。


「……いた」


千冬が言う。


「接触しますか?」


俺は首を振った。


「まだだ」


そのとき。後ろから声がした。


「千春ちゃん」


背筋が凍る。


振り向く。


スーツの男。


昨日の男だ。


「……来た」


千冬が呟く。


男が近づく。


「今日も可愛いね」


千春が後ずさる。


「やめてください」




俺は前に出た。


「帰れ」


男が睨む。


「ちっ、なんだおまえ」


ナイフを取り出す。


しかし。


今回は違う。


俺は動いた。


男の腕を掴む。


ねじる。


「うぐっ」


ナイフが落ちる。


千冬がすぐ拾う。


俺は男を地面に押さえつけた。


「警察を呼びます」


千冬が言う。


男が暴れる。


しかし。


もう終わりだ。


千春が呆然としている。


「玲くん?」


俺は笑った。


「千春姉ちゃん、もう大丈夫だよ」


だが。


胸の奥のざわつきだけは、消えていなかった。




そう思った瞬間だった。


遠くでクラクションが鳴った。


嫌な音。


振り向く。


道路。


車のライト。


暴走車。


「……え」


千春が立っている。


歩道の端。


車がまっすぐ突っ込んでくる。


俺は走った。


「千春姉ちゃん!」


しかし遅い。


衝突。


鈍い音が夜に響いた。


千春の体が宙に浮く。


そして道路に叩きつけられた。


静寂。




「……嘘だろ」


足が震える。


俺は駆け寄る。


「千春姉ちゃん!」


血が広がる。


千冬が立ち尽くしている。


「……因果が修正された?」


千冬が呟く。


「千堂千春が死ぬ結果だけが、別の形で残ったんです」


俺は叫ぶ。


「ふざけんな!」


世界が歪む。


空気が割れる。




チリン。


そしてまた聞こえる。


鈴の音。


遠くで、誰かが笑った気がした。




視界が白くなる。


目を開ける。


朝。


同じ天井。


同じ日付。


四月十四日。


俺はベッドの上で息を吐く。




「……くそ」


拳を握る。


昨日、俺は確かに助けた。


それでも千春は死んだ。


ドアがノックされる。


コンコン。


「一ノ瀬玲」


千冬の声。


俺は言う。


「分かっている」


ドアを開ける。


千冬が言った。


「ループしましたね?」


俺は頷く。


「ああ」


そして言った。


「でも次は絶対助ける」


千冬が静かに言う。


「春はまだ、終わっていません」


チリン。


遠くでまた鈴が鳴った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ