海底神殿4
次の日の朝、私たち三人は早速浮遊魔法を使用し、海底神殿付近の海へと移動した。しかし、カルメラさんからもらった地図にはどれほどの深さに神殿が存在するかは記載されていなかった。
「この下にあると思う。」
水面は美しい青色が広がっているが、よく目を凝らすとその先は暗い闇に包まれていた。
「海ってよく見ると結構怖いよね。特に底が見えない時。」
「そうですわね……昨日の浅瀬とは全然違いますわ。」
昨日リアとアナスタシアが釣りをしていた場所は、目を凝らせば海の底がうっすらと見える程度の深さだった。そこから釣り上げた小さな魚二匹は、宿の人に調理してもらって夕食の時にテラスで食べた。思ったよりも美味しかったのを覚えている。今、目の前にある海とはかなり異なっているようだ。
「昨日の魚、おいしかったよね。今度はもっと大きいの釣りたいなー」
「こんな深いところの魚は釣れませんわよ。」
「だよねー」
リアは深い海の底をじっくりと見ながらそう言った。
「ねえ、この海の底には結構魚いそうだよ?……いや、魔物かな?」
海の中にも魔物は存在する。そして地上の魔物と同じように、夜になると瘴気密度が上昇し力が強くなる。そして"夜の海"の怖さはほかにもある。
「まだまだ時間があるけど、夜になる前に早く終わらせるべき。」
「やっかいなやつも出てくるらしいしね!」
「超大型の海洋魔物……ですわね。」
海の中には全長数十メートルを超える巨大な魔物が数多く存在する。そしてその大半は日が沈んだ"夜の海"に活発に活動することが確認されていた。
「超大型海洋魔物……勝てるかな?」
「地上に上げて戦うならまだしも、水中では無理だと思いますわ。」
「だよねー、ローズの人たちですら単独での討伐を嫌がるほどでしょ?」
超大型魔物を討伐するためには小手先の技術ではなく、圧倒的なパワーが必要だ。ローズの方々は倒せないわけではないが、"耐久力がありすぎて面倒"、"倒したところでメリットがない"、"戦っていて楽しくない"などの理由で依頼をローズ同士でなすりつけ合うことも珍しくないらしい。
「行くよ。」
「「了解」ですわ!」
私の掛け声と共に、三人は海の中へと進んでいった。
——
海底神殿は水深五百メートル程度の位置に存在していて、太陽の光もほとんど届かない。私たちはサーチライトという魔法を唱え、辺りを照らしながら進んでいく。ただ、グルンレイドの講義で習った"水中の魔物は光によってくる"という性質を思い出し、自分たちから少し離れた距離に光源を浮かばせていた。
水を弾くための障壁魔法、呼吸をするための空間魔法、会話のための精神魔法。この三つを同時に維持しながらの潜行は、かなりの負荷がかかっていた。地上で生きる者にとって、水中で活動するだけでもこれほどの魔力を消費するのかと改めて実感する。
『っ……何か強いエネルギーが感じられますわ。』
水中での発声はできないため、魔法によるメッセージで会話を行っている。アナスタシアが何かを感じ取ったようだった。
『うえっ……気分悪い……』
リアが顔をしかめながら胸に手を当てる。
『だ、大丈夫ですの?確かに違和感はありますが……嫌悪感はありませんわよ?』
『力が抜ける感じ……』
私は思考を巡らせた。以前にもこのようなリアを見たことがある。確か、グルンレイドの講義中に上位の聖剣に触れた時だ。あの時も今と同じように、数分間ぐったりしていた。
『聖力が充満している。』
リアの体質は魔族寄りだ。聖力は瘴気と相反するエネルギーであり、リアのように瘴気を扱う者にとっては毒に近い。
『海底にあったとしても"神殿"、ということですわね。リアさんはこのままついてきても大丈夫ですの?』
あまりにも体調が悪そうなリアを見て、アナスタシアは心配の声をかける。
『くっ、この程度の聖力ごとき、私の瘴気でかき消して……』
『やめて。それだと私たちの方が具合が悪くなる。』
瘴気は人間にとっても毒だ。リアが大量に放出すれば、アナスタシアと私に影響が出る。
授業で習った際には、海底神殿に聖力が充満しているなどという話はなかった。私はこれをカルメラさんがわざと伏せたのか、あるいはカルメラさんたちも把握していないのかを考えた。しかし思い返してみても、カルメラさん以外のローズの方々の態度からも聖力の存在を知っているような素振りは感じ取れなかった。
つまり、これは想定外の事態である可能性がある。
『何か異常事態が発生しているかもしれない。気をつけて。』
『『了解』しましたわ。』
私は警戒を強めながら、二人を率いて海の底へとさらに進んでいった。




