見習いメイド4
私はもの語ごろついた時にはすでに一般奴隷として売られていた。
ある日どこかの冒険者から買われた。それからはとても苦しい毎日だった。罵声を浴びながら重い荷物を背負ってダンジョンへと向かう日々。私は何度"魔物に食べられて死んでしまいたい"と思ったことだろうか。しかし奴隷契約書のせいでそれもできない。
しかしこの日は少し違った。いつものように荷物持ちをして、ダンジョンにもぐりこむ。この日のダンジョンは出てくる魔物も強いようで、みんな苦戦していた。その時私は急に背後から突き飛ばされた。みんなどこかへ逃げているようだった。そして私は喰われた。……救われたと思った。
……生きてる。気が付いた時には、周りに魔物の姿はない。きっとほかの冒険者がさっきの魔物を倒したのだろう。幸い手や足は噛みちぎられてはいないようだった。ただ、どこもかしこも噛み跡があり、血が流れていた。
私を買った冒険者たちは、私はすでに死んでいると思っているだろう。だから私は勝手に荷物の中から中級回復ポーションを取り出し飲んだ。血が止まり、噛み跡も薄くなっていく。しかし、焦げ跡なのかよくわからない黒い痣だけはいつまでも残っていた。
ダンジョンで眠っていたはずだが、再び目を覚ますと別の場所だった。
「目が覚めたか。」
胡散臭そうな男が牢屋越しに私に話しかける。
「今日からお前は私の商品だ。」
そういってどこかへ消えていった。ということは私を買った冒険者が私を売ったのか、それともダンジョン内で死んだのかしたのだろう。奴隷契約書は新たなものに書き換えられていた。
透明な板の内側で過ごす日々が続く。私にとっては重い荷物を持つこともなく、理不尽な暴力を受けることもないこの場所にいることが幸せだった。しかし日を追うごとに黒い痣が広がっていく。
「早く出ろ。」
ある日胡散臭そうな男がそういった。立ち上がろうとすると、思ったように体が動かない。やっとの思いで歩き出した先には、呼吸すらできなくなってしまうほどに恐ろしい男が待っていた。
「連れてまいりました。」
男の圧倒的な威圧感と、この黒い痣のせいで立っているだけでやっとだ。
「今日からお前の名はリアだ。」
そう告げられた。あぁ、またあの苦しくてつらい日々が始まるのか。名をつけられることが、私には苦しみへの切符に思えてしかたなかった。そして私は馬車に入れられ、どこかへと連れていかれた。
動かない足を無理やり動かし馬車から降りると、目の前には巨大な屋敷が広がる。
「リアを連れていけ。」
震える足で歩いていると、ご主人様がそのように言葉を発した。
「あっ……。」
すると私は急にメイドに抱き抱えられてしまう。急なことでなんと言葉を発すればいいのかわからない!結局何も言えないまま、大きなベッドのある部屋に連れてこられた。
「リア、服を脱いでベッドに横になれ。」
「はい……。」
こんな体を誰かに見られたくはないが、私は奴隷だ。命令には従わなければいけない。しかし、手が震えて思うように服を脱ぐことができない。
「服も脱げないのか。イリス」
そういって、メイドに服を脱がされる。
「す、すみません。」
あまりの恐ろしさに声が震えてしまう。服を脱ぎ終わると、さっきと同じように抱きかかえられてベッドへと連れていかれる。
「わ、わたし、まだシャワーも浴びてなくて……」
若い奴隷の扱いは容易に想像できるものだった。しかし、奴隷商から連れてこられたばかりの私の体は汚れていて、においもきついはずだ。
「問題ない。」
そういって顔を使づけられる。
「怖がるな、痛くはない。」
「は、はい。ですが、私……初めてで。」
怖い……が、すべてを受け入れるしかない。ダンジョンに連れていかれて、あの辛くて苦しい日々に比べたら全然ましだ。
「では始める。」
「は、はい。」
私はぎゅっと目をつむる。
「エクストラヒール・絶唱」
……そこで私の意識は途切れた。