魔界16
ご主人様、そして子供達三人とともに魔界に取り残されてしまったわけだが……どうしたものか。
「ご主人様これからどういたしましょうか。」
「はぁ、どうしようもないからとりあえず一泊するか。」
「そう、ですね。」
正直前回のように同じ部屋になってしまったら緊張して十分に休むことができない。
「ここが街というものかの。」
魔王がそういう。正確には元魔王か。確かに力こそは圧倒的だが、やはりまだ子供のような幼さがある。この様子だと街というのもを見たことがないようだ。きっと魔王城から外に出たこともほとんどないのだろう。
「ビクトリアちゃん、すごいね。」
アイラが街を見渡しながらそういう。
「……ビクトリアちゃん、じゃと?」
「そう、ビクトリアちゃん。」
「アイラいいね、その呼び方、私もそう呼ぶね。ビクトリアちゃん。」
「に、人間如きがそのような口を聞くとは何事じゃ!」
顔を赤らめながらそういう。きっとこんなに馴れ馴れしく接せられることも初めてなのだろう。
「こら、ビクトリア。そういう言い方はないだろ。」
ご主人様がそういう。これは完全に父親のセリフですね。
「うっ……ご、ごめんなのじゃ。」
かわいい。ちょっと生意気なところもあるが、それもそれでいい味だと思う。
「いいよ、許す!」
「許し、ます。」
「あ、ありがとうなのじゃ。わしも、アイラ、ディアナと呼んで良いかの?」
いいよ!と言いながら三人で抱き合っている。なんとも仲睦まじい様子だ。
「ビクトリアちゃんの戦いかっこよかった!」
ディアナがそういう。私は正直怖さの方が勝っていた。これはすでに私が人間の価値観に染まってしまっているということを示しているのだろう。ジラルド様は、それをかっこよかったと表現できる感性がこそが重要だと言っているのだ。
「私も、そう思う。」
アイラもそれに続いて言う。
「そ、そうかの。」
かなり照れているようだ。
「私にもその動き方教えて欲しい!」
「そこまでいうなら仕方ないの!わしが……いや、お姉ちゃんが教えてやるのじゃ!」
ビクトリアは完全に姉気取りである。だがその方がかえっていいのかもしれない。最初は子供達同士がうまくいくのか心配だったのだが、それも杞憂だったようだ。
「ガキどもの仲が良くてよかったぜ。」
「そうですね。」
「ところで魔石はどれくらいある?」
「まだ大量にあります。」
そう言って袋の中身を見せる。1番小さい魔石でもあれほどの影響力があったのだ、この魔石達はどれほどの影響力があるのだろうか。
「とりあえずは宿だな。」
そうして本日泊まる宿を探すことになった。
「おっちゃん、ちょっといいか?」
ご主人様が道を歩いている方に声をかける。
「おうなんだ。」
獣人、だろうか、私は魔物の種族に関してはあまり詳しくないのでよくわからない。
「ここら辺で宿を探してるんだ、いいところはあるか?」
「そうだな、いい宿といえばアルデバランだろう。ただオメェらみたいな夫婦が泊まれるような料金じゃねぇぞ?」
「ふ、ふう…いや、そうだな、わかったありがとよ。」
夫婦に見えるのだろうか。いや確かに子供達がうろちょろしているとそれは見えるだろうなと思う。ちらっとご主人様の方を見ると顔を赤くしていた。視線が合うと気まずい雰囲気になってしまいそうなのですぐに目を逸らす。
「そ、そこに行ってみるか。金だけはあるしな。」
「そ、そうですね。」
何だか私まで顔が赤くなってくる。
ーー
「お待ちしておりました。マーク様。」
アルデバランに着いたときにそう言われる。
「おい、どういうことだ?」
「グルンレイド様がここを出られる際に、ご予約をなさっておりました。マークという名で。」
全てジラルド様の手のひらの上ということだろう。ご主人様も顔に手を当てている。
「わかった料金はいくらだ。」
「すでに支払われております。」
さすがである。
「それではこちらです。」
そう言って魔族と思わしき案内役に連れて行かれる。子供達は初めてみるような超高級宿にかなり興奮しているようだ。
そう言って案内されたのは下手したら一泊金貨百枚くらいするような立派な部屋だった。
「おーすごいな。」
「そうですね。」
「それではごゆっくり。」
そう言って魔族がそこを離れようとする。
「お、おい待ってくれ。こいつらの部屋は?」
そう言ってご主人様はこちらをみる。
「申し訳ありませんが、お部屋は一つしか予約されておりません。あいにく他のお部屋は満室でして。」
「……どうするヴィオラ、別の宿探すか?」
「わ、私は問題ありません。」
せっかくジラルド様がご用意してくださったものをむげにはできない。さらには昨日も一緒の部屋に泊まったから今更というのもある。大丈夫、問題ない。と思う。
「そ、そうか。」
「それではごゆっくり。」
そう言って今度こそ魔族がいなくなってしまう。
「じ、じゃあ入るか。」
「そ、そうですね。」
そう言って扉を開ける。
ーー
「やっぱりベッドはひとつかい!」
マークがそう叫んでいた。別にアイラとディアナはまだ子供だし、わしとてそんなに問題ではないはずだ。あのメイドだって妻なのだろう?なにを悩む必要がある。
「も、問題ありません。」
メイドのほうも少し顔が赤く、緊張しているようだ。そうか、わかったぞ!あのメイドは新妻というやつだな、そうに違いない。結婚したばかりなら納得である。
「アイラ、ディアナ、これから遊ぼ……」
二人とも目がトロンとしていて、今すぐにでも眠ってしまいそうだった。
「あぁ布団もかけずに眠るでない。」
そう言って二人に布団をかけてやる。人間は脆弱だからな……いや、そうではない、な。脆弱だと思っていた、か。私の頭を撫でてくれたあの手は、力強かった。
「三人とも、お風呂に入る……」
「二人は寝ておるぞ。」
メイドが声をかけてきたので、そう答える。
「魔法で綺麗にすれば良いではないか。」
「まさか、今までお風呂に入ったことがないの?」
「そのお風呂とはなんじゃ。水浴びとは違うのか?」
メイドが驚愕の表情をする。
「二人は仕方ないとして……ビクトリア、あなた、今日はお風呂に入りなさい。」
私に命令とはいい度胸じゃな?マークの命令なら万に一つは聞いてやってみいいが、こやつの命令は万に一つもきかんぞ!そうして、魔眼を発動させる。
「そう、これは命令よ。」
メイドも負けじと反論してくる。だが力はわしの方が上、この魔眼の前にひれ伏すがいい!
「あまり、わがまま言わないで。」
するとそのメイドの目も変色していく。まさか、神眼⁉︎虹彩の周りを、白い光がまっていく。わしの魔眼が、全く発動しない。
「な、なにをした!」
「あなたの魔眼を制御してるだけよ。」
「くっ!」
特殊眼の力量は、魔力密度に左右されない。才能と訓練次第である。こやつの神眼の制御能力は異常だ。今わしは神眼と魔眼の二つに抑えられている状態だ。ま、まさかとは思うが、このメイドはわしの天敵ではないか?
魔神化すれば魔力密度を上回ることができるが、魔眼を操られ、二つの特殊眼によって抑えられればわしとてどうすることもできんぞ?
「こっちにきなさい。」
「う、うむ。」
このメイドには逆らわない方がいいのかもしれない。
「ところでお風呂とはなんなのじゃ。」
「そうね、あったかいお湯に浸かること、ね。」
「そ、それは拷問か?」
「違うわよ。」
とある部屋に入ると、メイドは服をぬぎはじめる。
「ビクトリアも脱ぎなさい」
「わ、わしは一人ではいるぞ!」
誰かの前で裸になるなんて恥ずかしすぎる!
「シャワーの使い方もわからないでしょう?」
シャワー、とはなんなのだ?
「わ、わかるぞ!」
「はいはい。」
そう言って服を脱がされる。
「や、やめるのじゃ!」
「こら、暴れないの!」
抵抗むなしくまっぱにされる。は、恥ずかしい!が、メイドは気にする様子もなく私を連れてお風呂のある部屋に入っていく。
「ここがお風呂……。」
周囲には水を弾くであろう魔法がかけられていた。
「グルンレイド以外にもシャワーがあるのね。」
そう言いながらメイドが水を出していた。
「メイドよ、それはどうやっているのじゃ?」
「メイドではなく、私はヴィオラよ。ちゃんと名前でよびなさい。」
「ヴ、ヴィオラ、それはどうやっているのじゃ?」
「ここをひねるだけよ。やって見る?」
実際にやって見ると本当に捻るだけで水が出てきた。
「まずは髪を洗うからね。」
そういうとわしの髪にシャワーから出るお湯をかけていく。わしはされるがままにぼーっと座っていた。誰かに何かをやってもらうのは悪い気分ではない。
「ツノも洗って欲しいのじゃー」
「はい。」
「尻尾も洗って欲しいのじゃー」
「はいはい。」
なぜか体だけでなく心も暖かくなっていくようだった。
「先に入っていて。」
「どこにじゃ?」
「そこによ。」
「水にか!」
「お湯よ。」
何が好きでお湯につかるのかと思いながら入ってみる。
すると、
「ふいぃ……。」
声が出てしまった。
「気持ちいでしょ?」
「気持ちいいのー」
すごい、これがお風呂というものなら毎日入っても良いぞ!アイラとディアナと一緒に入ったら楽しいだろうな。明日は奴らが寝る前にお風呂に連れて行こう。そんなことを考えながら、わしは湯船につかった。
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「イザベラ、お前はトルティーヤ・ブラッド・ビクトリアをどう見る。」
魔界から戻ってきて少しゆっくりしたとき、ご主人様の部屋でそのようなことを聞かれる。
「方向性のない力の塊、でしょうか。」
かなりの力を持っているが、その力の使い道を知らない、ただの子どもという認識だ。
「ふむ、そうだな。」
ご主人様もそのような感じで考えていたようだ。
「あの城は素晴らしいものだった、別荘として使わせてもらいたいのだがどうだろうか。」
「素晴らしい考えかと。すぐに手配させます。」
あの魔王城は魔王のものだ。現在の所有者はマークということになる。マークの所有物は必然的にご主人様の所有物でもあるので、結論魔王城はご主人様のものということになる。万が一マークがそれに渋ったような態度をとった場合はすぐにでもたたき斬ることにしよう。
「それと、ビクトリアはどのような立ち位置にいたしますか?」
「そうだな、マークのもとに所属することに変わりはない。が、基本的な教育はしてやれ。。」
「かしこまりました。」
確かにまだ子供だ。さまざまな作法や一般常識を教える必要があるだろう。
「するとマークの管轄は四人になるということか。」
「そうですね。」
ヴィオラ、アイラ、ディアナ、ビクトリア……マークも含めると5人という人数になるが、マークの住んでいる場所は広い。問題なく生活ができるだろう。
「魔界の情勢が大きく変わることでしょうね。」
「そうだな。」
魔界のトップが崩れたのだ、魔貴族を中心に大きな変革が起こることは想像に難くない。
「おそらく、魔界を脅かす存在として、グルンレイドが魔貴族の標的になる可能性も十分にあります。」
「そうだな。」
ご主人様は何か問題があるのか、というような声色でそう返答する。
「そうですね。全く問題はありませんね。」
私がいる限り、というか私がいなくても、グルンレイドのメイドは強い。魔界のすべてが敵に回ったとしても、気にする必要はない。




