魔界15
「お帰りなさいませ、ご主人様。」
魔界の門から人間界へ戻ると、コトアルが出迎えてくれる。
「うむ。」
ご主人様はそれに対して返事をする。勇者たち五人はまだ魔界にいるので、今ここにいるのは、ご主人様、私、メアリー、ハーヴェストの四人だ。
「私は洞窟を見てくる、少し話しているといい。」
「かしこまりました。」
そういってご主人様は洞窟へ向かう。魔界からの帰りはいつも、近くにある神秘の洞窟へと足を運んでいる。
「イザベラ様、ご主人様はどちらへ?」
メアリーとハーヴェストがそう聞いてくる。
「この近くに神秘の洞窟という、水晶の群生地があります。ご主人様はそれを見に行かれました。」
人間界では出回ることのない貴重なものなので、数個とってくるだけでもかなりのお金になるだろう。しかしご主人様は見るだけで、持ち帰ろうとはしない。
「……見たい。」
「わ、私もです。」
二人が何やら興味を示したようだ。私は一度ついていったことがあるが……
「聞いてみてはどうでしょうか。」
二人がご主人様のもとへ駆け寄り、ついていっていいかを聞いているようだった。二人が戻って来ずにそのままご主人様の後ろをついっていているということは、許可が出たらしい。
「イザベラ様はよろしいのですか?」
コトアルが聞いてくる。
「以前一度見たことがありますので、大丈夫です。」
今はコトアルと少し話したいという気分だった。
「ご主人様は美しいものがお好きですからね。」
コトアルがこちらを見ながらそういう。
「そうですね。」
虹彩の周りに光が浮かんでいるのは、まるで神眼のようだといつ見てもそう思う。
「何かついていますか?」
私より頭一つ分背が低いので、上目遣いにこちらを見てくる。
「いつ見ても、その目は綺麗ですね。」
「あ、ありがとうございます。」
そういって目を伏せる。
「これは神に近づこうとした人間の英知の結晶です。」
はるか昔、この世界には魔力がなかったといわれている。今となってはすべての動力源は魔力で補うことが可能だが、昔は別のエネルギー形態があった。
「そいえば、コトアル、あなたは何か食べ物を食べたりしているのですか?」
マシニング族は光をエネルギーとしているが、そのほかに食事をする必要があるのかが気になった。周囲を見渡してみても動物はもちろん、植物すらまともにはえていない。
「私は太陽の光があれば生きていけますので。」
光のみで十分なようだ。だが、ここは地下。太陽など見えない。あるとすれば岩にくっついているヒカリゴケや、輝く鉱石の光くらいだ。かなり薄暗い。
「ですが、太陽などここには……」
「それはミクトラにお願いしております。あちらをご覧ください。」
その方向を見てみると、何やら一筋のまばゆい光の線が見えた。
「半永続的な間魔法です。天界の門周辺の空間とつながっております。」
ミクトラは天界の門の守護者だ。その場所は雲よりも上にあるのでいつでも晴れている。
「そういうことでしたか……すごいですね。」
太陽の光のみで行動できるとは、いったいどのような原理なのだろうか。
「まるでドライアドのようです。」
「それとはまた少し違うような気がしますが……そんなものです。」
種族が違えば、エネルギーの供給の仕方も違うだろう。
「コトアルのその力は名称があるのですか?」
私が思うに魔力でも、聖力でもないような気がする。
「現在においてこの力を示す言葉はありませんが、しいて言うなら『電力』だと思います。」
電力……聞いたことがない。
「それは私でも扱うことはできますか?」
「できないと思われます。」
「そう……ですか。」
人間や魔族には聖力が扱えないように、マシニング族にしか電力というものを扱うことはできないのかもしれない。
「まだ私を創造した人間が生きていた時は、現在の魔力に代わって電力が世界に満ち溢れていました。今となってはもう見かけなくなりましたね。」
時代が変われば世界が変わる。私の見ている世界と、コトアルが見てきた世界は同じ場所であっても全く違うことだろう。
「寂しい……ものですか?」
私であれば、ご主人様もいない、たった一人取り残された世界で生きるなんて考えただけでも恐ろしいと思ってしまう。
「寂しかったです。しかし、ご主人様と出会ってからは寂しくありません。」
そうして再び私の目を見る。やはり綺麗な目だと感じる。
「そうですか。」
コトアルが生きてきた年月に比べれば、私達と出会った時間なんてほんのひと時のものだろうが、それでもよかったと感じてくれるのであれば、出会ったかいがあったというものだ。
「また来ます。」
ご主人様が遠くから歩いてくるのが見える。グルンレイド領に戻るときが来た。
「いつでもお待ちしております。」
そっと頭を下げるしぐさは、誰が見ても疑わない『グルンレイドのメイド』そのものだった。




