フリーマウンテン6
「ねぇ、窓から見える?」
3人は小屋の近くへ到着すると、入り口とは逆の位置にある窓から様子を窺う。
「うーん……人の気配はするんだけど見えない……多分あの壁の向こうだよ。」
「めんどくさいから扉から入らない?観測する限り、微弱な魔力しか感じられないし。」
「オリビアちゃん、私たちを騙せるほどの観測魔法の使い手だったらどうするの?正面から戦って勝てる?」
そういうとクレアはカバンから一枚の羽を取り出す。
「あれ?クレアちゃん!どこ!」
すると一瞬にして姿が消える。
「ここだよ。」
羽がクレアの手を離れると同時に姿が現れる。地面に落ちた羽を取り上げて、一旦鞄にしまう。
「それは……」
「クインレオの羽。メルテちゃんからもらったの。」
「すごい効力だね。全くわからなかった……。」
ムムツの谷に生息するカメレオン型の魔物、クインレオ。その羽をクレアはメルテからもらったていたようだ。
「これを持って私が行って見てくるから。」
「気をつけてね。」
クレアは窓の鍵を魔法で外す。そしてゆっくりと音を立てないように小屋の中に入っていった。
『っ……臭い……。』
クレアは小屋に入った瞬間に呼吸を止める。普通に息を止めたのであれば1分も持たないのだが、闘気を解放し消費する酸素量を大幅に軽減させた。これで無呼吸でも10分程度は活動できるだろう。そしてこの臭いの原因は何かというとカビや埃などではなく、きつい獣臭だった。
『山賊ってみんなこんな臭いなの……!?グルンレイドの屋敷と真逆……』
床に散らかった酒瓶、脱ぎ散らかした服、そして悪臭。クレアは周囲を見渡しながらそう考える。
「……ぃ。」
遠くから誰かの声が聞こえる。クレアは耳をすませ、声のする方へと進んでいった。
「全然馬車に金目のものがなかったな。」
「あぁ……だがこれから金が入るぜ。」
2人の山賊がそのような会話を繰り広げていた。それをクレアは物陰から見る。
『奥に縛られているのは……』
かなり立派な服を着た男性と女性が、縄で縛られて椅子に座らされていた。その特徴を記憶すると、一旦クレアは来た道を戻る。
「おい、この女を殺されたくなかったら金を用意しろ。」
しかしそのセリフを聞くと、クレアは戻ることをやめる。再び物陰から様子を見ると、山賊の1人が女性にナイフを突き立てているのが見えた。
「ま、待ってくれ、すぐに用意する!だが、どうすれば……!」
「馬車を一台やる。3日後までに聖金貨5枚(5000万)を用意しろ。もちろん金貨ではなく、宝石や金塊でもいい。」
「聖金貨5枚!?そんな額急に用意することは……」
「あんたは口ごたえできる立場じゃねぇんだよ!おい、立場がわかってねぇようだから一度痛めつけてやれ。」
するともう1人の山賊がナイフを振り上げた。
『っ……!これは戻っちゃダメなやつじゃん!』
クレアは姿を隠したまま、全力で物陰から飛び出す。
「華流・周断!」
ナイフを持った男の手首を切断。
「マインドショック!」
そして精神魔法を唱えると、ナイフを持っていた男は倒れた。
『あれ?想像の100倍弱い?』
床に落ちた男を眺めながらクレアはそう考えるが、油断してはいけないと自分に言い聞かせる。
「ど、どうした!」
「マインドショック!」
もう1人の男もその場に倒れた。
「な、何が……」
その様子を見ていた女性がそう声を発するが、クレアは即座に応えることはしなかった。
『本当に敵は2人なの……?そうじゃなかったら迂闊に姿を表すべきではないかも。』
男が2人倒れたということでかなりの音が響いたが、それに反応して突入してこなかったオリビアとレイリンのことをクレアは心の中で褒める。
『この2人が誰なのか知りたいけど、ちょっとの間ここで待ってくださいね。』
クレアは切断したての止血だけをして、この場を離れた。




