アイラとディアナ2
ボスとの話が終わると、メイド長に会議室へ通された。
部屋に入ると、すでにテーブルの上に紙が何枚か並べられていた。メイド長が向かいの椅子に座り、俺とヴィオラは並んで腰を下ろした。アイラとディアナは別のテーブルに座らせている。そのテーブルには、紅茶のティーボットと、いくつかのお菓子をメイド長がおいてくれた。
「では、住まいについて話を進めましょう。」
メイド長が口を開いた。俺に対する冷たい視線は健在だが、仕事はしっかりとしてくれる人だ。
「場所はすでに決まっております。屋敷の東側、庭の外れになります。」
屋敷にはかなり近いな。
「また、建物についてですが、ご主人様は現在異世界に関する研究を進めておられます。その研究の一環として、異世界の住居を実際に再現するという試みをここで行うことになりました。」
「異世界の住居……?」
俺がグルンレイドで仕事をするようになってから、様々な知識を叩き込まれたが、その一つが異世界に関する知識だ。まだ知らないことだらけだ。
「はい。マークの住まいは、異世界様式で建てることにします。我々のいるこの世界とは全く異なる設計になりますが、それはご主人様の指示によるものです。」
異世界様式、か。言われてみれば確かにグルンレイドの屋敷の中には、明らかにここの世界では見慣れないものがいくつかある。家一棟まるごとそれと同じにするということらしかった。
「分かった。」
特に異論はない。どんな家になるのかは気になるが、ボスが決めたことなら文句はなかった。
「それから、もう一点。」
メイド長が続けた。少し間を置いてから、ヴィオラの方に視線を向けた。
「ヴィオラ、あなたはマーク様と同じ家に住んでいただきます。」
「……え。」
ヴィオラの声が、珍しく揺れた。
「専属メイドとして、常にそばにいる必要があります。別々の場所に住むというのは不都合が生じます。」
「で、ですが、一緒に住むというのはいささか急では……。」
ヴィオラが言葉を続けられなかった。俺も思わずヴィオラを見てしまった。
「何か問題がありますか。」
「い、いえ。ございません。」
ヴィオラが姿勢を正した。顔がわずかに赤い。普段あれほど落ち着いているヴィオラが、こんな反応をするのは初めて見た。
「マーク様も、よろしいですね。」
「あ、ああ。問題ない。」
問題ないと言いながら、自分でも声が少しおかしかった気がした。何年も一人で動いてきた人間が誰かと同じ家に住むというのは、それはそれで妙な緊張感がある。
「では、そのように進めます。」
メイド長は二人の様子など気にした風もなく、淡々と話を続けた。
「アイラとディアナについても同じ家に住んでいただくことになります。二人の部屋も含めた設計で進めますので、ご承知おきください。」
「分かった。」
「以上です。建設については我々の方で手配いたします。完成までの、少々狭いですが、マークの部屋で2人を預かってください。」
メイド長が立ち上がり、礼をした。それで話は終わりらしかった。
ーー
アイラとディアナを連れて部屋を出ると、すぐにヴィオラが歩き出した。しばらく会話はなかった。
「……よろしくお願いいたします、ご主人様。」
ヴィオラがこちらを振り向かず、前を向いたまま言った。
「……悪かったな。急に決められて。」
「いえ。命令ですから。」
足を止めずに、そう答える。前を向いたままだったので表情は見えなかったが、急に知らない男と一緒の家で過ごせと言われて嫌だろうなとは思う。なるべく迷惑をかけないように、穏便に暮らしていこうと決めた。




