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3-2 新人騎士の尋問

 レイは騎士団の地下にある留置場で、自分に手錠をかけた騎士と向かい合って座っていた。

 灰色一色で狭い部屋には机に椅子が二つ。

 尋問の際に圧迫感と威圧感を出して容疑者を精神的に不安にさせるようわざと(・・・)そのような構造になっている部屋でレイは背もたれに背を預けた。

 この部屋の求めた機能に一切応じていないレイに、エンディと同じ年頃の若い騎士が聞いた。


「それで──名前はレイ、だな」

 

 レイは恐らく(・・・)自分の名前で有ろうそれに頷く。


「出身は?」

夢の国(ネバーランド)だ」


 レイの回答が冗談と分からない騎士は怪訝な顔をしたが手帳に書き留める。


「仕事は?」

「ネバーランド出身だぞ。妖精さんに決まってるだろ」


 その回答でレイが冗談を言っているのだと気付いた彼は立ち上がって怒鳴った。


 「馬鹿にしているのか!?」


 レイは彼をなだめるように両手を上げようとした。しかし机に固定された手錠のせいで中途半端な位置で止まってしまう。

 何ともマヌケなポーズになったな、とレイは手を降ろす。

 

「落ち着け、カトルセ」


 そう言ったのはドアに背を預けて立っている騎士だった。彼はカトルセと呼ばれた騎士より年がいっている。

 おそらく自分と同年代だろう。自分の歳は分からないが──レイは咳払いをして座ったカトルセに視線を戻す。

 彼はレイを睨んで質問を続けた。


「何故あの医師(ネイヴ)を殺した?」


 レイはため息を吐いて答える。


「俺は殺していない」

「被害者の横で血まみれになってナイフを持っていただろう。お前が殺した以外考えられるか?」


 レイはごもっともだと思ったが。傷跡を見ればそれは簡単に解ける誤解だとも思った。


「被害者の傷を見たか? 俺はナイフを持っていた。それは認める。だが被害者の傷跡は()によるものだろう。死因はその矢による失血性ショック死、素人でも分かるぞ」


 馬鹿にしたようなセリフにプライドを傷つけられたカトルセが顔を真っ赤にした。


「だったら彼の右手の傷と左腕の骨折はどう説明するんだ!」


 それにレイはあっけらかんとして答える。


「それは俺がやった」

「ようやく自供したな」


 満足げにそう言ったカトルセにレイだけでなくこの部屋の扉に背を持たれているもう一人の騎士も呆れた顔をする。

 新人指導でカトルセに付き添う彼は明らかに筋道が通らない尋問に口を出さない。



 レイは話の通じない相手に辟易しながらこれからどうしようかと悩んでネイヴの辞世の句を思い出す。


 『モビーディック』


 その名前には心当たりがある。小説──白鯨に出てくる白く大きな(くじら)の事だ。

 白鯨しかり、切り裂きジャックしかり、ネイヴが腎臓を渡した人物──モビーディックを名乗る人物は自分が元いた世界の文化の事を知っている。


 すなわちモビーディックが自分をこちらの世界に呼んだ人間だとみていいだろう。


 それではクロスボウの襲撃者がそのモビーディックなのか──レイははそれは無いだろうと思った。

 ここまで手の込んだことをする人間が、あんなにあっさり退却するわけがない。


 それではなぜあの襲撃者は自分たちを襲ったのか。それについては明白だ。

 ネイヴは何か知っているようなそぶりを見せていた。

 口封じに殺し屋──あのクロスボウを操る男を雇ったのだろう、とレイは考えてこれからの行動を決めた。


 クロスボウの襲撃者を捕まえ、話を聞く。 

 そして『モビーディック』について問い質すしかない。しかしそのためには騎士の力が必要だ。

 思考に沈んでいたレイをカトルセは机をたたいて現実に引き戻す。



「もう一度聞くぞ。なぜあの医師を殺したんだ?」


 レイは答えるのも馬鹿らしいと頭を振った。

 流石にもう少し会話ができる人間が相手でないとやり辛い──レイはそこで事前に仕入れておいた情報が役に立ちそうだ、とひらめいた。


「なぁ、アンタたちは殺人課なのか?」


 カトルセではない方の騎士が頷いた。レイはそれならば話が早い、と要望を言った。



「殺人課の課長はベルフェだろ? そいつを連れてきてくれ」

「そんなことするわけないだろう。大体殺人犯が課長に謁見を申し込むなんて烏滸(おこ)がましいとは──」


 レイはカトルセの言葉を制して言った。


「なぁ、俺の間違いじゃなければ、アンタは新人だろう?」


 カトルセは図星だったのか、一拍遅れて「関係ないだろう」と答える。レイは馬鹿にしたような顔になった。


「ははーん、やっぱりな。道理で乳臭い(・・・)と思ったんだ」

「なんだと?」


 睨まれたレイは「おお怖い」とおどけて言うと目を伏せる。しかしすぐに視線を上げて煽る。


「もっと話の分かる奴を連れてこいクソガキ。その少ない脳みそでもお使いぐらいは出来るだろ」

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