エピローグ
半年後。
あたしと剛史は、ある部屋の中にいる。
両方の実家の中間ぐらいに立っている5階建ての賃貸マンション。
2階の3LDKのリビングに、あたしと剛史、
そして兄貴が酒盛り中。
今は剛史しか住んでいないけど、
もうすぐ、ここはあたしと剛史の家になる。
嬉し恥ずかし新婚さん―――を、通り越して、
スイートテンじみた熟年夫婦と言われてしまう、今日この頃。
「そういえば、
この前、西條さんからお祝いのメッセージ、来てたの言ったっけ?」
「西城って有里のたったひとつのお見合い相手じゃん!
やーだー、
まだ付き合いあったの、この浮気者!」
妙に甲高い声でくねくねしてみせるのはうちのバカ兄貴。
剛史とは同級の仲良しだから、
遠慮がないない、無さすぎる。
「しな作って、妙な女声ださないでくんない?
メールなら、剛史だって繋がってるよ、西條さんと」
「え?まじ? なんでそんなことなんの?」
お前ってМ?
ホントに全く、遠慮も配慮もないんかい。
「奴は、癖強めだが、利害が絡まなけりゃ付き合いやすいし、面白い」
「…変人」
「お前に言われたくない」
ノリとツッコミがあたしと剛史にそっくりだって、言ってたのは誰だっけ?
「西條さん、
どうやら、あちらで、異国のラブがあったとかなかったとか。
もしかしたら、その報告、あるかな?」
「絶対自分から言わないタイプだぞ、あれ。
『なんで教えなかった』って送ったら、
『おや、僕にそんなに興味を持ってくれるんですか、嬉しいな』
なんて絡むにきまってる。
『自分だけ幸せ自慢できないって思うなんて、みずくさい』
なんて言ってくる奴だぞ。
なんで、教えたんだよ、有里」
「いや、だって、そこは約束だし」
あんただって、そばにいたじゃない。
「なになに~ おもしろそう~
その話、お兄ちゃん聞いてないな~
ひっどーい。のけもの? のけ者扱いなの?」
グレてやる。
「高校教師が何言ってんの。
そんな度胸あるなら、真由美の一人や二人あしらって見せてよ」
「な、な、なんで、その名前だすんだよ!」
「いや、あたしの同僚、飲み友達。剛史にも面通し済み」
「…あれは、あれで強烈だが、
利害が絡まなきゃそれなりの付き合いは可能な分類」
まあ、お前には、拗らせ原因だがな。
「やめて~!!
因縁の、悪夢を蘇らせないで!
確かに今は、節度をきちんとわきまえて、直接の被害はないけどさ~」
「まあ、なるだけ、兄貴とかぶんないようにはするからさ。
でも、ここへの出入りはあたしが許したから、勘弁ね」
結構貴重な飲み友達なのだ、真由美は。
剛史とのこと、話したら、一晩愚痴に付き合わされたけどね。
ちゃんと、おめでとうは、言ってくれた。
「……だいたい、なんで、この頃の子って、あんなに押しが強いんだよ…」
高校生にだって、俺、勝てたことない…
ぶちぶちぶち…
いやそれは、
あなたがヘタレなだけです、お兄様。
「大体、俺の理想はもっとこう、なんていうのかな。
儚げ~で、せいそ~で、
その癖、芯はしっかりしてて、責任感があって、
髪は長くて、小さくて、こう守ってやりたいって…」
「…えらく、具体的だな。
どうした? だれか気になるやつでもできたのか?」
おっと、酒入って、
出羽亀がでてきましたか? 剛史さん。
でも、あたしも気になる。
今までより、具体的すぎ。
「どこのだれ? 同僚? 生徒?」
「有里、それはアウトだ」
「え~?! 厳しい~けど、確かに、アウト」
「人の恋愛、勝手にアウト判定するなよ!」
「じゃ、幾つ?」
「…じゅう、なな…?」
「やっぱり、アウト!ノータッチ!!」
「人を変態みたいに言うな!」
「セーフの要件いってみな? 身内に犯罪者はいらねーんだよ」
「落ち着け有里。そうなる前に俺がきっちり絞めるから」
おお、なんとも頼りになる言葉。
剛史にとっても兄貴は身内。
遠慮はいらねえ、さあどうぞ。
「まて、まてまてまて!
そこで拳を握るな、剛史!」
なんでこうお前らは、こんな時だけつるむんだ!」
失礼な。
相手はちゃんと選んでる。
「なら、キリキリ吐いちゃって?」
「…こうなった、有里には逆らうな」
吐け、祐樹。
剛史さん、あんたの方が圧あるぜ。
「いやあの、――変な話、だぞ?」
「聞いてみなけりゃわからない」
「…この頃、夢、みるんだよ」
「夢?」
「それが、妙に現実的でさ」
げんじつてきな、ゆめ。
「夢で、俺、騎士なんてものになってて。
しかも、どっかの国の第二騎士団なんてとこの隊長なんてやってて」
「「え?」」
第二、騎士団?
「第二、だから第一もあって。
そこの団長とは、ダチ、みたいなんだけど、
こいつ、男の癖にとんでもなく美形でさ。
マスコット見たいなちっちゃい子もいて、
俺と奴で可愛がってたんだけど。
この前、大怪我したってんで、大騒ぎだったんだ」
「「……」」
「そん時は、俺だって、そいつだって、無傷じゃなかったけど、
やっぱ、子供は優先で。
まあ、夢だし、痛くもなかったから、俺的にはナッシングだけどな」
その、子って。
「助かった、の…?」
「あ、大丈夫、だった――と、思う。
同じ夢、見たときに見かけたから」
「有里…」
剛史があたしの手を握る。
少しだけ、お互いが震えてるのが、わかる。
同じ…
同じ世界に、兄貴も…?
「連続でおなじ感じの夢見るって、なんか、変だと思うけど…
毎回、同じ奴になるんだよな。
そいつが惚れてる姫さんが、俺の理想…」
「はあ!?」
「そこ!?」
兄貴、理想、高すぎだろう!
「なんだよ。いいじゃんか。
すげー可愛くて、いい子なんだぞ」
「しってる…」
知ってます。
その世界って、もしかして。
「…でも、姫って、婚約者とか…」
「あれ? 俺、言ったっけ?
さっき言った、顔の良すぎるダチの婚約者だったんだけど、
なんか、今度、俺が入ってるやつと、結婚することになって…」
「――え?」
「――は?」
「でもさ、結婚できるのって、俺だけど俺じゃねーし」
なんか、それって切なくね?
「なんとか、あっち、行けないかなって、この頃思うんだよな。
なんか、方法とかないかな~
あ、そうしたら俺、姫の婿さんってことになんのか!
そんなことできたら、すげーよな!
俺、そうなったら、死んでもいい!」
―――――――
「どうした? 二人とも」
どうしたもこうしたも。
ありがとう情報。
ありがとう、お知らせ。
でもな、あたしらの前で、『死んでもいい』は、
さすがに、
さすがに。
禁句だぞ!!
「「一辺、ほんとに行ってこい!!バカ」兄貴!」
世界は、続いているようだ。
朝が来る。
城壁の上に一つの影。
無造作に纏められた髪が、風にあおられて金糸となる。
薄汚れたドレスがその度に大きく揺れる。
果てを見る瞳にひとすじの光が差す。
一瞬閉じられた瞼が、
ゆっくりと開かれて――
時は、動き始めた。
無事、完結しました。
ありがとうございました。




