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第三十七章 すべて、魔多し


好時、魔多し――という言葉がある。


良い事には邪魔が入りやすいという意味らしい。


転じて、

良い事が続く時には、十分に気をつけろってことらしい。


あたしにとって、ここは、間違いなく良い事

――文字通り「夢」の世界だった。



剛史に色々と愚痴って騒いだ屋上から数日後。

あたしはこっちへ来ております。

ユーリも相変わらず、書類やら伝言やらを抱えて走り回る毎日で、

中にいるあたしもちょっとばかり目が回るような忙しさ―― 

なんなんでしょうねぇ? この繁忙期。


一応、あたしの気持も精神も、思っていた以上に平常心を取り戻し、

もう、こうなったら、ケ・セラセラ。

なるようになれ――って心持ち。


だって、信じるって決めたから。

ガイを――それにアレクを。



――だけど、これは無い。

これは、ないでしょう、いくらなんでも!

いや、いつか来る。

いつか来るかもと、恐れてはいたんだが。

遂に来てしまいました。


コルフィー子爵――アレクの重病説。


今、アレクは重い病を患っていて、

王宮でも領地でもない秘密の場所で療養せざるをえないらしい。 

いや、もう、既に回復の見込みすらない、らしい。


らしい、らしいばっかりで、ちっともはっきりはしないんだけど!


またしても、噂。


これは、ガイの時以上のインパクトで城中を席巻した。

――あくまでも、秘密裏に。


『ソレニアの両輪』よ? 

その人が重病だなんて、

とても、声を大にして言えないよ、誰だって。


実はどこかで覚悟はしてた。

けれど、実際のインパクトは、想像以上にきついもの。

この状況だもの。

いつか、どんな形でかわからないけど、こういった話が出てくるかもって。

覚悟が、あたしにはあった。


発端は、ガイが放ったあの一言。

最後にガイに会った時、彼がポツンと言った一言。


『やはり…』


あの時は、何の事か分からなかったけれど。


噂が一人歩きするくらい、アレクの不在が長すぎる。

もう二…か月? いや、三か月近くになる。

その間、誰も姿を見た人がいないって事実が、噂の信憑性を増す。

本当にアレクに会った人がいないのか。

ユーリには、上の情報までは入らない。


でもユーリの仕事って、アレクの身近にいる必要があるはずだ。

従僕って、身分は軽いけれど、その分主に近くないと仕事にならない。

今、ユーリは従僕たる本来の仕事をこなせていない。

こんなに長い間、アレクのその姿すら見ていない。

よく考えたら、ものすごく不自然な事だ。

だから、この噂を聞いた時、

愕然とはしたけれどどこか納得している自分がいて。

思った以上に取り乱したりはしなかった――あたしはね。


いや実は、あたしより先にユーリがフェードアウトしちゃったの。

自分の意識残したままで、いきなり目の前真っ暗になったの初めてよ。 

倒れる前に、ちゃんと自分で持ち直したけど、どうしようかと思ったわ。


この話をユーリに教えたのが、

情報通で知られた賄いのジーナさんだったのも信憑性があった。

だから、仕方ないのかもしれないけど。


噂でしょ、噂。

それが事実って決まった訳じゃない。

君が揺らいでどうするの。

引きずられかける感情を、思わず制御しちゃった。

そんなあたしの配慮なんて、わかっちゃいないんでしょ、ユーリ君。


アレクの心配を、あたしはしないのかって? 


あたしが、心配、しない訳、ないじゃん!!


あたしだって、驚いた。

一瞬だけど血の気が引くかと思った。


でも、同時に、「まさか」って思ったの。

だって二回目だもの。

噂で振り回されるの、これで二度目だからね。


こういうときは慌てちゃ駄目。

噂は噂。事実ではない。


もしかしたら本当に病気かもしれない。

そうでなくても、なにか悪い事が起こってるのかもしれない。

動かせないユーリの体を無理にでも動かして、

あたしが、アレクを探しに行きたいと思う―― 


本当に、それができるなら。


でも、できないから。

ガイの事で、あたしは自分の在り方を、嫌と言うほどわからされた。


もう、あたしができることは一つだけ。


――信じる事。


ガイを、アレクを、

この世界を信じること。


あたしがこうしてここに存在する事に、何か意味があるのだとしたら。

このまま会えなくなるなんて、そんなことには、きっとならない。

根拠も何もないけれど。


信じる。


こんな結末の為に、あたしはここにいる訳じゃない。

それは確信も持って、今はあたしの中にある。


会える。

また、会える。

あたしは、アレクに、きっと会う――


そうでなければ、

あたしが、この世界に来る意味がない。


剛史に発破掛けられて、開き直ったらこうなった。

とことんまで、自分の気持ちに従ってみる。


だから今は、冷静になろうと努めて気持ちを抑えている。

意志がお互いに繋がっていないといっても、

あたしの気持はどうしたってユーリにひきずられる。

だから、せめて巻き込まれないように――


あたしが、あたしでいるために。


――ガイが、いたら…


思うのは、いつも仕方のないこと。

ガイの時には『アレクがいたら』って思った。

今、『ここにガイがいたら…』って思う。


ガイへの疑念は決して晴れた訳ではない。

アレクの衝撃的な情報に隠される形で表に出てこなくなっただけ。

むしろアレクの事と絡んで、一層きな臭い話もある。




そんな日々の中、

とどめの様にもたらされたのは、北の隣国からの使者。


『王妹ミルヴァーナ姫を、イアニスの王妃に』



――うわ~~~~っ! 


そこ、きますか。




悪の王道過ぎて、泣けてきた…






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