博多夜談 三
※この物語はフィクションです。実在の人物や団体、寺社仏閣などとは関係ありません。
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「たけさん。私日本酒ね。温燗で。あとおでんの大根とかんも」
「蘭ちゃん、いつも紙に書いてって言ってんのに……はいよ」
「えー、だってめんどうじゃん。忙しそうなら書くからさ」
李蘭鬼と名乗った女性が、店主に笑顔で注文してこちらを見た。
黒髪のロングストレートをセンターで分け、後ろの低い位置で纏めている。
黒縁眼鏡の奥の眼は非常に鋭く、獲物を見るような目で私を眺めた。
「写真で見るより若く見えるね。体も引き締まってるし思ったよりいい男じゃん。今彼女いるの? おすすめ物件あるよー?」
そう言うとニカリと笑った。口からは鋭い八重歯が覗いていた。
「さっき君は蘭鬼と名乗ったけど、李範鬼ではないのか? あと、顕一学舎の人間はよくしゃべるやつばっかなのか?」
私がそう答えると、彼女は更に八重歯を見せつけて笑った。
ちょうど出された温燗の酒を、くいっと一口煽ってから私の目を覗き込んだ。
顔がすごく近い。若干既に酒臭いので、おそらく既にどこかで呑んでいたのだろう。
「それって理人君のこと言ってる? はは、彼ほど饒舌な学員は他にいないよ。私は今はお酒入ってるからこんなんだけど、シラフはもっとお淑やかだしおとなしいよ。おとなしい女性は好き? なんてね。それと、李範鬼は私の兄だよ。私は、顕一学舎で兄の主査助手をしているの。今日あなたをここに呼び出したのも、兄に頼まれたからよ。本人は来ないけどね」
西ノ六言の一人である李範鬼の妹。明らかに今回の事件の中心人物がそこにいた。
あまりにも平然と、日本酒を呑んでおでんをつついている姿を見て、私は憤りを覚えた。
蘭鬼が私の耳元に口を近づけて、ぼそりと呟いた。
「私を拘束するとか変なこと考えないほうがいいよ。今、私を拘束したところで一切の物的証拠がないんだから」
彼女はそう言うと、店主に「おかわりっ!」とグラスを持ち上げた。
確かに彼女の言う通りなのかもしれない。だが、彼女が事件に関わっているのは明らかだ。
証拠? それも物的証拠など、どう用意すればいいんだ? 小室家襲撃の計画書とかか?
そんなの用意できるのか? やはり、彼女を拘束し、顕一学舎について吐かせたほうがいいのではないだろうか?
理人の延暦寺での宝物盗難の件もあるので、警察を動かし、参考人として身柄を拘束することはできるはずだ。
「顕一学舎は一体何がしたいんや? なんで鬼を増殖させる必要があるんや? 研究のためか?」
「まぁそうだね。研究グループによってテーマは様々だから、一概には全てがそうだとも言えないんだけどね」
蘭鬼は、グラスを揺らしながらそう答えた。
「その為なら、人命も厭わへんと? 正気か?」
「それも学員によって様々。私の兄みたいに、研究成果の為なら人命を天秤にかける学員がいるのも事実だよ。でも、一般人に対して故意に危害を加えるようなことをする学員はいないんじゃないかな? 一般人は基本的に研究対象にならないからね」
いくら顕一学舎が、一般人に危害を加えるつもりがなくても、連鎖的に被害が出ていては同じだ。
東ノ六言の武田理人が秋葉原に放置した夜叉によって、二名の人命が損なわれてしまっているのが事実だ。
「鬼が増殖すれば、否応なしに一般の市民に被害がでるのは当然やろう? それでようそんな言葉がつらつら出てくるな。やっぱりお前ら正気じゃないわ」
私の語気が強くなってきているのに気付いたのか、蘭鬼は苦笑いで頭を掻いた。
「いやー、耳が痛いね。でも、鬼を生成増殖させているのは、私達の研究グループじゃないからなぁ。クレームはそちらに言って頂戴な、なんてね。さて私はそろそろお暇するし、最後に本題に入ろっか」
そう言うと、彼女が私を見て──「李範鬼からの伝言よ」と真剣な表情で、私に手紙を手渡した。
それを受け取ると、その場で手紙を開いた。ポストカードが一枚入っており、そこにはこう書かれていた。
「栄神静夜。手を引くことをおすすめする。君はこれ以上祓い屋の血が潰えるのを望むのか?」
この度は、当作品をお読み頂きありがとうございます。花月夜と申します。
当作品は、初めての執筆作品となります。
当方執筆に関して、完全な素人な為、至らない点が数多くあると思います。
ですが、書き始めたからには、皆様に読んでよかったと思って頂けるような作品にして行きたいです。
これからも、随時更新して参りますので応援いただけると幸いです。
ありがとうございました。今後とも応援よろしくお願い致します。