表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/124

博多旅路 一

※この物語はフィクションです。実在の人物や団体、寺社仏閣などとは関係ありません。

もし、面白いと感じて頂ければ、ページ下部にある《投票!!》のクリックへのご協力お願いいたします。



 霞が気絶した翌日、福岡県への出発日。

 午前中は、天網での探索後、蓮葉と千草への連携体制の確認と、事務処理で時間を費やした。

 昼前に、燐を伴って対策室を出る。地下ロータリーのエントランスへ向かうと、すでに白井朧と霞が立っていた。


「統括室長、お疲れ様です。お待ちしていました。本日から宜しくお願いします」


 霞がキリッとした顔で、私と燐へ向けて敬礼した。

 昨日の慌てっぷりからは、想像がつかないくらい落ち着いているように見えた。


 ──ん? どうした? 何かあったのだろうか?

 私は、霞の隣に立つ朧の顔を見た。その視線に、朧は苦笑い気味に、ニコニコとした顔で答える。


「統括室長、おはようございます。昨夜のブリーフィングで気絶したことで、なにやら吹っ切れたようです。まぁ無意識の自己暗示みたいなものです。過去にも何度かありました。そのうち戻ると思います」


 ──無意識の自己暗示? なにそれ怖い。


「え? それ大丈夫なんですか? 精神的にかなり参ってるってことですよね?」

「問題ないです、一時的に防衛本能が働いているだけですから、連れて行ってください」


 精神状態が限界の愛娘を、平然と送り出す父親。

 改めて霞を見ると、燐と笑顔で話している。だが、すごい不自然さを感じる。

 まぁ放っておけばそのうち戻るとのことなので、深くは考えずに頷いた。


 宮本さんが運転する車に乗り込み、我々は京都駅の八条口へ向かう。

 コンコースで駅弁を購入して、新幹線の改札口から博多行の新幹線に乗り込んだ。

 シートに腰を下ろし一息ついて、ちらりと改めて隣に座る霞を見る。


 まだ自己防衛モードに入っているのか、真剣な表情を崩さず背筋を伸ばして席に座っている。

 なんだか畏まるというより、ロボットに近いような印象を受ける。なんかこっちがやりにくいなぁ。


 肩を叩いて気軽に声を掛けようかと思ったが、いやな予感がしたのでやめておいた。

 非常にメンタルが敏感になっている自己防衛モードの彼女に触れて、セクハラと騒がれてもいややしな。

 触れずに、あたりさわりのない話題で声をかけることにした。


「霞さんは九州ははじめて? 私は鹿児島にはフェリーで一度だけ行ったことがあるんだけど──」

「……それはこれからの業務に関係してくることなのでしょうか? 詳しくお願いします」


 ──なんだか、この子すごいめんどくさいぞ……おもろいけど


「ははは。霞ちゃん、静夜様は単に九州への旅行の経験があるか聞いているだけだよ。今は仕事からは一旦離れようね。ずっとその調子だと疲れちゃうよ」


 通路を挟んで反対側に座る燐が、霞に諭すように声を掛けた。

 霞は「いえ、重大な案件なのですから。油断などしていられません」と再びピシリと背を伸ばす。

 苦笑いする私と燐をよそに、霞はブツブツと呟きながら、スマホで太宰府周辺の情報を調べはじめた。


「まぁ、とりあえずお昼まだですし、お弁当いただきましょうか」

「そうですね」と、燐が購入した駅弁を私と霞に手渡した。


 私は前の座席の裏側に設置されているテーブルを下ろして駅弁を置いた。

 そこに燐が一緒に購入した、ペットボトルのお茶を置いてくれた。

 霞もテキパキと準備をして、皆で駅弁を食べ始める。


 一五分ほどで食べ終わり、お茶を飲んで一息つく。

 鯖寿司とだし巻きのシンプルなお弁当だったが、とてもおいしかった。


 鯖寿司は昆布の旨味と酢飯の相性もとてもよかったし、大ぶりの鯖も食べごたえがあった。

 だし巻きは京風の味付けで、とてもやわらかく、口の中で溶けるようだった。


 満足しながら隣を見ると、既に同じ駅弁を食べ終えた霞が爆睡していた。

 若干のよだれを垂らしながら、満足気に窓側に肩を預けている。


 もしかして彼女、昨日の昼から何も食べてなかったんじゃないか?

 まさか、それで一気に駅弁たべて、血糖値スパイクで落ちた? 天才かこの子。


「ふふ、寝ちゃいましたね。起きたらいつもの霞ちゃんに戻ってるといいんですけど」


 燐が、爆睡する霞の様子を覗き込んで微笑んだ。


「そうですね、おもしろい子ですほんと。天才です。ところで、博多駅到着後の手筈はどうなっていますか?」


 私の質問に、輪はスマホを確認して答える。


「博多駅に到着後、あちらの対策室の者が運転する車で、一度陸上自衛隊・福岡駐屯地内に設置されている沖縄九州方面鬼霊対策室へ向かう予定となっています。功徳室長と簡単なブリーフィングを行い、その後は早川家、そして久井家と会談の予定です」


「そうですか、わかりました。たしか早川家の当主はもう足が悪いので、こちらから出向くのでしたね? 久井家は本家が博多区内で、夜に会食があるんでしたっけ?」


 私が午前中に見た資料での情報を、燐に確認する。


「はい、その認識で問題ありません。久井家とは、十八時に氏家のご厚意で、博多区内の老舗の水炊きの専門店に個室のお部屋を用意してもらっているようです」


 水炊きねぇ。水炊きは大好きやけど、そんなうまいもん食ってる場合じゃない気もする。

 それに、向こうなりのもてなしなのだろうけど、私はそういう立場ゆえの接待的なものはあまり好きじゃない。

 鬼火村でもそうだったが、饗されるよりみんなと同じ目線でわいわい飲みたい派だ。


「ありがとうございます。本格的に動くのは明日からになりそうですね」


 よだれを垂らして爆睡する霞越しに車窓から流れる景色を見つめる。

 新幹線が博多駅に到着したのは、それから二時間が経った頃だった。


「霞ちゃんっ! もう着きましたよ。起きてくださいっ! 行きますよ!」

「え? はい。 え? ここどこですか? あれ? ああ……博多か……えぇっ!? 博多っ!?」


 よだれを拭い起きた霞は、どうやら元の霞に戻っているようだった。

 てか、なんだそのリアクションは。お前はやはり天才なのか?


「寝ぼけてないで行きますよ。静夜様、彼女の荷物は私が持ちますから」


 私が上の荷物置きから、私の荷物と、ついでに霞の荷物を下ろすと、燐がその荷物を受け取った。

 霞は、あわあわと寝て乱れた自分の身なりを整えている。やっぱりこっちのほうがいいな。


 三人は新幹線を降り改札口を抜け、構内の人混みを分けて指定された合流場所に向かった。

 そこには、派手にカスタマイズされたハマーの前に立つ巽蓮華の姿があった。



「統括室長、お待ちしていました」


この度は、当作品をお読み頂きありがとうございます。花月夜と申します。

当作品は、初めての執筆作品となります。

当方執筆に関して、完全な素人な為、至らない点が数多くあると思います。

ですが、書き始めたからには、皆様に読んでよかったと思って頂けるような作品にして行きたいです。

これからも、随時更新して参りますので応援いただけると幸いです。

ありがとうございました。今後とも応援よろしくお願い致します。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ