プロローグ2
私がエターナルワールドオンラインに出会ったのはおよそ2年前の、私がまだ高校1年生だった頃。
私は父の職業でもある鍛治師というものにとても強い憧れを抱き、自分も父のような鍛冶師を目指すと宣言するも、「絶対にだめだ」と、大反対されてしまった。
理由はわかっている。
そもそも鍛治師という職業が、この時代ではもう仕事としては成り立たない。
それに、職人の世界はとても厳しい。
そんな世界に、年端も行かない、まして自分の大切な一人娘が足を踏に入れるなど、到底認められなかったのだろう。
しかし私はどうしても諦めきれず、「いーや、なるね!絶対に鍛治師になるんだから!」と、独学で理論を学び、体験イベントにも積極的に参加をし、父を困らせていたそんな頃、私はこのゲームに出会った。
この世界の中では、私は鍛冶師として生きられる。
もちろん、ゲームの鍛冶師は現実とはまるで違う。
それでも私は夢中になった。
画面越しの偽物だとしても、火を熾し、鉄を打ち、武器を作る。
その時間がたまらなく好きだった。
——そして同時に、本物の鍛冶師への憧れも、ますます強くなっていった。
幼い頃に見た父の仕事風景。
その時に作ったという、父の最高傑作の一振りの刀。
それを見た時から、私はずっと心を奪われたままだった。
それからかれこれ約2年。
私は明日、父の仕事場についていく事になっている。
何度も何度も説得を繰り返し、兄にも何度も頭を下げて協力を仰ぎ、そしてようやく、「手伝いとしてなら」という言質を勝ち取ったのだ。
それが明日。
あの幼い頃に一度行ったきり、ずっと立ち入りを禁じられていた、あの父の作業場。
そこへ私がようやく再び入る事ができる。
なので、私のゲームの鍛冶師としての生活は、今日で最後という事になる。
――そして、その最後の最後に、私は神剣を完成させた。
◆
「え?え?嘘!?本当に神剣完成してる!?!?ええええ!?ホントに!?」
数分間、驚きと喜びを交互に繰り返していた私は、さらに時間をかけて徐々に落ち着きを取り戻し、画面に表示されている武器性能を、ようやくじっくりと確認した。
「……は!? 攻撃力6000越え!? え、なにそれ?マジ!? 武器の能力値って999が限界だったんじゃないの!? これおかしくない?」
再び落ち着きを失った私だったが、いてもたってもいられずに、まずは所属クランへの報告をする事にした。
倉庫にこっそりサプライズなど、もはやすっかりと忘れていた。
私はクランのグループチャット画面を表示し、まずはログを確認する。
「だれか!誰かいない!?」
しかし、グループチャットの最後のログは数時間前で終わっており、誰もいないようだった。
「そっか。こんな深夜じゃ流石に誰もいないか……って!今何時!?」
時計を見ると、すでに深夜の3時を回り、もうすぐ4時になろうとしていた。
「や、ヤバイ!早く寝なきゃ!!って、もう、これ寝たら絶対起きれないやつじゃない?!?!」
明日の起床は午前7時。
今すぐ寝れば3時間は睡眠を取れる。
しかし、起きれる自信は全くない。
あの兄が起こすのを頑張ってくれたとしても、恐らく敗戦濃厚だ。
「なにやってんの、私!! いや、落ち着け私。まだ焦る時間じゃない」
どう考えてもそんな訳はないのだが、もう今更どうしようも無い。
この瞬間、私の徹夜が決定した。
◆
徹夜を覚悟した私は一周回って落ち着きを取り戻し、もはや開き直ってゲームを再開する事にした。
「えっと、まずは報告だったよね」
私を含むほぼ廃人と呼ばれるようなプレイヤーばかりが集まったこのクランなら、何人かはまだ起きていてもおかしくない。
取り敢えず私は、神剣の完成報告をチャットに書き込んで見る事にした。
誰かいれば間違いなく反応してくれるだろう。
『ヤバイ、神剣出来ちゃったんだけどw』
うん。シンプルイズベスト。
チームメンバーのこれを見た時の反応が楽しみだ。
きっとみんなすごく驚い、
『うおー!マジか!!!』
『え!マジで!エトちんスゲエエエエエ!!!』
『まさかうちのクランから神剣持ちが出るとはw』
『エトちゃんオメ!流石です!』
『おめでとう!やれば出来る子だと思ってたよ!』
『結婚してくれwwwww』
『↑ドサクサに紛れて何言ってるんだww』
『伝説の神剣キターーー‼︎』
って何人起きてんのよ!
やっぱこのクラン、廃人だらけだったんじゃん!
ま、人のことは言えないんだけど!
予想外の展開に驚きつつも、私はいつもの顔ぶれのやり取りを見て、少し安心してしまう。
『エトさん、おめでとうございます。まさか最後の最後に神剣チャレンジを成功させてしまうとは……。流石に驚きを隠せません』
最後にクランリーダーからも労いの言葉をかけられた。
『え?最後?』
『最後って何~?』
『もしかして、え?そういう意味じゃないよね!?』
『いやいや、エトみたいな廃人がそんな簡単に辞めれるわけないっしょ』
『だよねー。あんたみたいに辞める辞める詐欺もしないしねー』
『馬鹿言え!俺はちゃんと引退して辞めてから、ちゃんと復帰してるから詐欺じゃねえ』
『えーー』
相変わらずみんな自由だなあ。
こういうのを見ると、ちょっと後ろ髪を引かれる感じがしちゃう。
だから、私が今日限りで引退する事はメンバーには伝えていなかったのだ。
さすがにリーダーにだけは伝えていたけど。
『勝手に素材を使ってすみませんでした。でも、完成出来てとても嬉しいです。ありがとうございました』
『いえいえ。神剣は全プレイヤーの憧れです。それを作れるのはエトさんだけだとみんなで集めた物なのですから、気にしなくて大丈夫ですよ。それはともかく、エトさんもとうとうSランク鍛冶屋ですね。おめでとうございます』
そうだった。
神級武器の製作に成功した鍛治師は、ランクSの鍛治師に昇格できるんだった。
神槍、神弓、神斧に次ぐ、4つ目の神装備、神剣を作り出したランクS鍛治師。
これで、心置きなく引退が出来そうだ。
『そうでした、すっかり忘れてました』
『忘れてるところがエトさんらしいですね。取り敢えず、ログアウトする前に神剣の登録だけお願いしますね。皆も神剣の性能が気になるでしょうから』
『わかりました。ログアウトするまでに、生産者ギルドで武器図鑑への登録をすませておきますね!』
『はい。楽しみにしています』
私はその後、チャットでメンバーのみんなと談笑しながら、生産者ギルド会館へと向かうことにした。
◆
今、私のいる場所は、商業区の中心からはやや外れた場所にある『赤猫武具店』という建物。
奥には広めの鍛治工房があり、手前には店舗スペースが設けられた、私の自慢の自分の店だ。
私の店の『赤猫武具店』は商業区の外れにある店のため、武器の図鑑登録が出来る商業ギルド会館までは、なかなか結構な距離がある。
「歩いて行くにはちょっと遠すぎだったかもだけど、まあ、時間はあるし、のんびり行こうか」
私はそんな事を考えながら、気付けば生産者ギルドへと到着していた。
『ようこそ生産者ギルド会館へ。ご用件は何でしょうか?』
受付に着くとNPCがいつもの決まった文言で、私の対応をしてくれる。
私は先程完成させた【神剣エターナル】を武器図鑑へと登録し、そのまま続けて鍛冶ランクの昇格手続きも行った。
全ての鍛治師が憧れる「ランクS」の称号。
称号にあまりこだわりのない私でも、流石にこれは素直に嬉しい。
でも、手続きが思ったよりもあっさりし過ぎていたせいか、自分がランクSになったという実感があまり湧かない。
どちらかと言うと、鍛冶ランクの昇格よりも、神剣を作れたことの方が、何倍も嬉しかった。
なにより、それでみんなが喜んでくれた事こそが、本当に一番嬉しかった。
「さて、あとはクランの共有倉庫に神剣とかの荷物送れば、私のこの世界でやることは、もう終わりだ。……終わり、か」
読んでいただきありがとうございます。
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