第15話
朝、拓朗は夢を見ていた。
その夢にはフーコとトーコが出てきた、結構久しぶりである。
【たくろう 約束はどうなった】
【たくろうさん 忘れたのですか 私達はあなたの思いが糧なのです。
あなたに忘れられたら 私達は消えてしまいます】
【………………】
一度だって忘れてなんかいない だが声が出せない。
【たくろう 会いたかった でもさようなら】
【たくろうさん あなたと居られた時間 幸せでした】
待ってくれ フーコ トーコ お願いだから待ってくれぇぇぇ
懸命に叫んだ それでも声が出ない
「うわあぁぁぁぁっ」
拓朗は汗びっしょりで夢から醒めた。
だが拓朗はまったく身動きが出来なかった。
四人の全裸の少女が拓朗の身体に纏わり付いて寝ているのである。
エアコンが冷風を吐き出して部屋の温度は26度に設定されていたが、まだ9月初旬である。
和室に布団を並べて4人で寝ていたが、くっついて寝ていればやはり暑い。
少女達の汗と拓朗自身の汗で体中びっしょりである。
「ふうぅ、はあぁ、今何時だ」
時計を見ると、10時を少し回っていた。
右腕にしがみ付きながら拓朗に圧し掛かっている純から腕を引き抜き起き上がった。
部屋を見渡すとあられもない姿の四人の美少女達がいる。
まだ幼さを残すあどけない寝顔だが、昨夜から今朝にかけては彼女らはサキュバスのようだった。
寝かせておいてやりたいが、そうもいかず拓朗はみんなを起こす事にした。
「みんな起きろ。10時過ぎてるぞ」
「んぁ…あん、せんせ、おはよ…きゃあ」
少女達は恥じらいながらも嬉しそうな笑顔を見せる。
それから5人はシャワーを浴び部屋を片付け11時半頃、家を出た。
「先生、お昼はロイホに連れてって」
と言う四人に拓朗は「今日は日曜日だよなぁ、ランチやってるかなぁ」
とふところの心配をしていた。
「それにしても、お前達、何でそんなに元気なんだ」
車内で昨日のコスプレの話で盛り上がる四人に対し拓朗はかなり疲労感があった。
太陽が黄色く見えるほどではないが腰が重く感じる。
だが四人は元気いっぱいで顔も艶々である。
「そりゃあ、先生に何回もエントリープラグを挿入してもらってエネルギーは満タン状態だし」
「そうそう、今なら超電磁砲も撃てるんじゃ無いかって言うくらいエネルギーで満たされてるんだよー。先生のおかげだねー」
「お、おい、お前ら、他人前では絶対にそんなこと言うなよ」
なんだよ、エントリープラグ挿入って、まあ、確かにしたけどさと拓朗は苦い顔をする。
「あはは、分かってるって」
脳天気な四人に呆れながらも拓朗は楽しかったし幸せも感じていた。
◇ ◆ ◇ ◆
里奈達は朝10時には秋葉のお店のあるビルに着いていた。
昨夜は奈々美や紀香達に対抗しようと過激な衣装を用意するつもりでいたが考え直した。
と言うのは、里奈は奈々美にも負けないくらい胸もあるしお尻も大きいが、詩織と裕子は身体はバスケで鍛えて引き締まってはいるが女らしい凹凸に欠けている。
とてもじゃないが、エロい衣装では奈々美達に大きく見劣りしてしまう。
對馬先生の印象に残るような個性的なイメージのコスプレをしたい。
そこで詩織と裕子はアニメやゲームのキャラクターのコスプレにしようと考えていた。
詩織はゲーム『トトリのアトリエ』のトトゥーリア・ヘルモルトのコスプレで行くことに決めた。
実際見てみると結構、露出部分が多いしスカートも短すぎる気がするがかなり可愛い。
試着して鏡を見て、これは私のキャラにぴったりであると確信した。
ショーツは普通の縞々のパンツでいいだろうと思った。
テーマは『やんっ、恥ずかしいよ~、もうダメだってば』だ。
裕子は最初は常盤台中学の制服で行こうと思った。
普通に学校の制服だと思えばなにも恥ずかしくないし可愛い制服だ。
でもこれだけじゃアピールポイントがまったく足りない。
そこで薄い胸でも似合うアラビアンナイトのサロメの衣装でいくことにした。
(もちろん胸が大きい方がいいのだが)
髪飾りも可愛いしシースルーの衣装は爽やかな妖艶さがある。
テーマは『べつにそれがイヤって訳じゃないのよっ』だ。
里奈は過激な黒いセクシーテディを着てその上に男物の白いYシャツ一枚で行くつもりだ。
だがこれだけではコスプレと認められないかもしれないので獣耳カチュウーシャと肉球手袋・靴下、それから尻尾つきのt-バックショーツを買った。
そうとうエロいコスプレである。
爽やかなお色気で、間違いなく奈々美や紀香達に対抗できるであろう。
テーマは『肉食系ベジタリアン』だ。
「よーし、これで今晩、對馬先生を悩殺する事が出来るね。ガンバローッ!」
「「おーっ!!」」
店を出た三人は人目も憚らず気勢を上げるのだった。
余談だが彼女達はベビードールと拓朗の好みだというオープンクロッチ+パールというデザインショーツも忘れずに購入していた。
◇ ◆ ◇ ◆
昼食を終えると拓朗も身体の調子が戻ってきた。
回復力も高い拓朗は顔色も普段どおり戻っていた。
体育館に着くと亜理紗はもう来ていた。
拓朗に気付くとペコっと頭を下げると駆け寄ってくる。
「先生、今日も来てくれて有難うございます」
亜理紗は拓朗だけ見ていて奈々美や紀香達を見ようとはしない。
「先生、うちの佐々木から聞きました。
昨日はうちの佐々木と松本、それから金森も先生の勉強会に参加させて頂いたそうですね。
有難うございます」
「えっ…あっ、ああ、そうですね。彼女達はなんて言ってました?」
「大変喜んでました。今日も参加させて貰えるんだとか」
亜理紗はにこにこしている。
拓朗は何故、亜理紗の機嫌が良いのか分からなかった。
亜理紗は昨夜、拓朗が奈々美や紀香達だけと過ごしたのでは無かった事を喜んでいたのだ。
拓朗が里奈達を受け入れた事で奈々美達に対しての疑いはかなり薄れたようだ。
「えっ、ああ、そうですね」
そういえば今日もコスプレ大会だった。
約束通り里奈達は黙っていてくれるようだが拓朗はこの話題から離れたかった。
「あー、それで今日の練習ですが藤井達にはディフェンスを中心に教えたいと思います。
そのあと4時くらいからはバスケ部と練習試合を行ないたいんですがどうでしょうか」
「そうですね。先生も試合から遠ざかってますし、試合勘を取り戻す意味でも練習試合を行なう意味がありますね」
あいかわらず亜理紗は拓朗だけ見ていて奈々美や紀香達を見ようとはしない。
奈々美や紀香達もきつい目で亜理紗を見ている。
「じゃあ、亜理紗先生、それまで私達は自由に練習していいわね。先生すぐに始めましょう」
と言うと紀香は拓朗の腕を取りバスケ部と反対のゴールに向かった。
拓朗は奈々美や紀香達と亜理紗の間に何か確執のようなものがあるのを感じた。
「なあ、お前達と山口先生はなにかあったのか」
「うん、いろいろとね、でも今は話したくない」
「そっか、わかった。じゃあ、練習を始めよう」
拓朗は気にはなったが話したくないというのを無理に聞き出す気は無かった。
拓朗は柔軟体操から指導し始めた。
その柔軟体操は奈々美や紀香達にとって初めてやるような柔軟体操だった。
「柔軟は念入りにな。それが怪我をしないための基本だ」
拓朗が教える柔軟体操は今までおざなりの柔軟体操しか知らなかった紀香達にとってはきつかったが、終わってみると身体は温まって、さらに身体が軽くなった気がした。
「よし、充分に身体は温まったはずだ。軽いランニングの後、レイアップシュートの練習から始める」
拓朗の指導により紀香達のレイアップシュートのフォームが改善され綺麗なフォームになるのに1時間は掛からなかった。
実は拓朗も四人が見る見るうちにフォームが改善していくのを見て驚いていた。
(普通はフォームをなおすには結構時間が掛かるもんなんだけど早かったなぁ)
それを見ていたバスケ部のメンバーも驚いていた。
「ねえ、奈々美のレイアップ、すごく綺麗ね」
「うん、なんかさ、純も紀香もお手本みたいなレイアップだよね」
「シュートもほとんど外して無いし」
里奈は思っていた。
(練習を始めた時とは別人のフォームだわ。指導する對馬先生もすごいけど、紀香達も言われたとおりにフォームを変えられるなんて、でも急に運動神経が良くなったみたい。こんな事ってあるのかな)
「よし、いいだろう。休憩の後はディフェンスの練習に入るぞ」
紀香達が休憩に入ったのを見た里奈は自分達も休憩にし詩織と裕子を伴って拓朗達の所に来た。
「對馬先生、みんな昨日はありがとう。今夜もよろしくね」
「ねえ、裕子もコスプレ衣装買ってきたの?」
「もちろんだよ、純、お店教えてくれて有難う」
「うん、安く買えたでしょ、目いっぱい感謝してくれていいんだよ」
純も嬉しそうな顔だ。
「うん、純には感謝感激だよぉ、先生、今度買うときは一緒に行ってくれると嬉しいんですけど」
拓朗は苦虫を噛み潰した顔だ。
「……いや、あーいった店には二度と行かんぞ」
「えーっ、なんでー、せんせ、なんでよ」
すぐに純が抗議の声を上げるが拓朗はどこ吹く風だ。
「…二度と行きたく無いんだっ、いいな、俺は行かないぞ」
「せんせぇ~」
純とリサが拓朗にじゃれ付くが、それを鬱陶しそうに払う卓郎。
みんなで笑いあう穏やかな時間が流れていた。
里奈達は拓朗や奈々美達が少しだけ心を開いてくれたと思った。
「先生、今晩は期待してね」
里奈は拓朗にウィンクして練習に戻っていった。
その様子を見ていたバスケ部員達は思った。
―――佐々木キャプテン達はいつの間に對馬先生と仲良くなったんだろう。いいなぁ。
對馬先生が顧問になってくれれば、私だって奈々美や紀香達と同じ様に接して貰えるはず。
私も奈々美や紀香達みたいに綺麗になって、先生の勉強会にも参加させてもらって―――
と考えている者も少なくなかった。
中でも進藤結衣は小学校の頃から拓朗に憧れてバスケを始めていたのだ。
拓朗に対する気持ちは誰よりも強かった。
ただ今は拓朗に対する尊敬の念が強すぎて、恐れ多くて話しかけることなど出来ない状態だった。
休憩も終わりディフェンスの練習になっても奈々美達は練習が楽しくてしかたなかった。。
奈々美達四人は動体視力も以前に比べて大きく向上していた。
さらに集中力も人間の限界を超えるほど高い。
パスミスも少なく集中して相手を見てディフェンスの基本を忠実に行なっている。
やがて拓朗が納得できるほどディフェンスの技術も上達して行った。
「よーし、いいだろう。休憩後に練習試合を行おう」
拓朗は亜理紗のところに行くと亜理紗は待ってましたとばかりに言ってきた。
「先生、いよいよ練習試合ですね。これで明日のメンバーを決めるのですね」
「は、はい。そうですね。バスケ部はレギュラーメンバーでお願いします。
うちは考古学部のメンバーとバスケ部のレギュラーから外れた人の中から4人ほどお借りしたメンバーでやりたいと思います」
「はい、それで結構です。うちのレギュラーメンバーは10人ですが私も入りますので11にんです」
「オフィシャルズは試合に参加しない人にやってもらいましょう」
拓朗はバスケ部のレギュラーから外れた12人の中から四人を選んだ。
その中には進藤結衣も含まれていた。
拓朗が選んだ四人を見た亜理紗と里奈は同じ感想を持った。
―――さすがね、あの四人は準レギュラーと言っていいほどの部員よ。いやいつレギュラーとなってもおかしく無い実力を持っている子ばかり。對馬先生はこの二日間で私達の力を見切ったのかもしれない。
拓朗は選ばれなかった8人に話しをした。
「君達にはオフィシャルズをやって貰いたいんだ。間違っていたなら申し訳ないが、今の段階では俺が選んだ四人に対して君達は少しだけだが力が及んでいないように思う。だけど練習しだいでは充分に追いつける程度の差しかない。だからこれから頑張って欲しい」
四人は拓朗の言葉に納得し、そして感激していた。
「はい、先生、今日は先生のプレイが見られるだけでも嬉しいです。
しっかりオフィシャルズを努めさせて貰います」
8人は笑顔でコートの外に散って行った。
そして選ばれた四人は拓朗と同じチームでプレイできる事に感激していたと同時に気を引き締めた。
―――あの藤井さんや山咲さん達はお世辞にもレギュラーになれる実力は無かった。
でも、たった二日間の先生の指導で見違えるほどの実力を身につけてた。
ここは先生に私を見てもらえるチャンスだ。絶対にいいプレイをして先生に私を覚えて貰おう。
拓朗は八人を前にして心構えを話した。
「いいかみんな。今回は練習試合だ。だから絶対に勝とうなんて思わなくていい。
ただお前達なりの精一杯のプレイを見せてくれ。だが絶対に無理はするな。
それからファウルを恐れず果敢にチャレンジしてくれ。それだけだ」
亜理紗もレギュラーメンバーを前に話していた。
「いい、練習試合とはいえ私は負ける気は無いわ。
弛んだプレイをしたらすぐにレギュラーメンバーから外すからね。
分かったら全力を出しなさい。いいわね」
その後、拓朗のチームはポジションの確認をしてゲームは始まった。
拓朗とのマッチアップは亜理紗だったが、まったく手も足も出ないまま抜かれてしまう。
ディフェンスでも隙が無くボールを奪われてしまう。
そこで亜理紗は里奈とダブルチームで拓朗に対抗しようとしたが、それでも拓朗の敵ではなかった。
さらに奈々美や紀香達 考古学部のメンバーも動きの切れがよくバスケ部のレギュラー陣も止められない。
ディフェンスでもその動体視力の良さと集中力で隙を与えない活躍を見せている。
第1クオーターが終了した時点で21対8とバスケ部は大きな差をつけられ負けていた。
拓朗にほとんどのリバウンドを取られ、3ポイントシュートも決められるため外に意識が行くと、奈々美や紀香達がインサイドに切り込みシュートを決められてしまう。
オフェンスでも相手に隙が無いため苦し紛れの3ポイントシュートを打つが決まらず、リバウンドを拓朗に取られ速攻を決められてしまうという悪循環だった。
第2クオーターでは對馬チームは拓朗を除いてメンバーの総入れ替えをした。
そして拓朗はリバウンドを中心にプレイした。
それでも進藤結衣を中心に中学からバスケをやって来たメンバーは、拓朗と同じチームなのがよほど嬉しいのか充分に実力を発揮した。
拓朗も6割以上のリバウンドを確保し優位にゲームを進めていた。
第2クオーター終了時点で得点は35対25と詰められたが、拓朗が得点しなかったことを考えると充分健闘したといえる。
ハーフタイムでは亜理紗は部員達に対して何も言わなかった。
亜理紗自身拓朗とのマッチアップでまったく手も足も出なかったのだ。
それだけじゃなく純にインターセプトされたり速攻にまったく追いつけなかった。
拓朗は仕方が無いにしても奈々美達にも準レギュラーにもいいようにやられてしまった。
亜理紗はいさぎよく負けを認めた。
「みんなごめんなさい。私が足を引っ張っちゃったわね」
「……」
誰も何も言わないが亜理紗の事は良く思っていないという事は分かった。
そこに拓朗がやってきた。
「山口先生、後半は俺は出ませんけどレギュラーチームはできれば全員出る様にしてくれませんか。
俺はコートの外からみんなのプレイを見て見たいんです」
「はい、わかりました。對馬先生はもうプレイされないのですね」
「そうですね、なんとかなりそうですし」
「はい、先生なら充分に勝てると思います」
「えーと、勝ち負けはとにかく、以前と同程度には動けそうです」
第三クオーターは拓朗のチームは考古学部の四人と、拓朗の代わりに準レギュラーの中から一人がセンターで出た。
始まって5分くらいまでは両チーム拮抗していたが、5分過ぎた頃から拓朗チームが優勢にゲームを運んでいる。
シュートを決めたリサが嬉しそうに走っていく。
その時、亜理紗は奈々美達の会話を聞いてしまった。
「ねえ、なんだかやっとエンジンが掛かってきたみたい」
「ねっ、これからエンジン全開って感じ」
それを聞いて亜理紗は愕然とした。
(なんてこと、今の時間なら苦しくなって来る頃なのに、彼女達はこれからがエンジン全開って。
確かに彼女達、試合開始頃より動きが良くなっている。なんと言うか身体の切れが良いって言うか)
里奈もまた気付いていた。
(奈々美達、どんどん動きが良くなって来ている)
第四クオーターになると、もはや拓朗チームの優勢は誰の目にも明らかだった。
疲れの見えるレギュラーチームに対し楽しそうにのびのびとプレーをする奈々美達は疲れを見せない。
集中力を途切らすことなくプレーする奈々美達は完全にレギュラーチーム超えていた。
点差は開く一方だった。
第四クオーターが終了し結果は76対54とレギュラーチームの惨敗だった。
しかも拓朗が抜けた第三・第四クオーターでも点差を広げられた。
ハイタッチして喜び合う考古学部のメンバーと準レギュラーの部員達を見て、亜理紗も里奈も大きな衝撃を受けていた。
亜理紗はショックのあまり言葉もなく呆然と立ち竦んでいる。
作戦が失敗したとかではなく、完全に実力で負けた。
この事実がアリサを打ちのめしていた。
だが認められない、そんなはずは無い。
―――あの子達がそんな…何かの間違い?うちのレギュラーより速い?そんなばかな。
あの子達にはバスケの才能は無かった。だけど…
亜理紗は混乱していた。
だがそこに拓朗が話しかけてきた。
「山口先生、みんなを集めてください」
「えっ、あっ、はい」
はたと気付いたアリサは部員を集めた。
拓朗は奈々美達とバスケ部員達を前に話し始める。
「皆さん、今日は有難う。俺も久しぶりにバスケが出来て嬉しかったし楽しかった。
明日は阿久先生の男子バスケ部との試合がありますが、何とか試合になるくらいまで勘も取り戻せたと思う。
それで明日はうちの藤井達四人とバスケ部全員で試合に臨みたいと思います。
今日、オフィシャルズを努めてくれた人も明日は試合に参加してください。
山口先生には監督をしてもらって全員で戦いましょう」
「えっ、先生、私達全員ですか」
「ああ、交代は自由に出来るはずだから問題ないと思う。
ただ山口先生、うちの四人は必ず誰かが出ているようにしてください。
もちろん俺はフル出場します」
「「「やったぁー」」」
バスケ部全員からうわぁっと歓声が上がる。
「それで、もし明日、男子バスケ部に勝てたら祝勝会をやります。
参加できる人は是非参加してください。
みんなで勝利の喜びを分かち合いましょう」
またしても大きな歓声が上がるが、思わずキャプテンの里奈が発言する。
「えっ、だけど明日は亜理紗先生と二人で行くって…」
「いや、祝勝会は一緒に戦った全員でやるべきだと思う。ねぇ、山口先生、それでいいですよね」
「ええっ、で、でも、今後のことについての打ち合わせもありますし…その」
「いやそれは実際に俺が顧問になってからでいいでしょう」
「・・・は、はい、分かりました」
亜理紗は心から残念そうに返事をした。
紀香達も里奈達部員も嬉しそうだ。
「それで、先生のおごりですかぁー」と声が掛かる。
「もちろんだっ、と言いたいとこだが、俺は安月給なんだよ。知ってるだろ。
すまんが会費制にして欲しいんだ、頼むよ。ああ、負けたら残念会に変更な。
みんなで悔しさを分かち合おう」
体育館に笑い声が広がった。




