1 テニス部ギャル
柊政親の家の最大の長所は、校門から我が家の玄関まで徒歩でわずか10秒足らずということだ。
学校の真ん前に家がある。
学校まで徒歩0分。
そんな実家で政親は1人暮らしをしている。
親は海外に出張中だ。
朝は予鈴が鳴ってから家を出ても余裕で間に合うし、休み時間に忘れ物を取りに帰ることだって出来る。
その圧倒的な立地の良さは、学校の連中に羨ましがられている。
ただしその立地ゆえの、安らげなさがここにはある。
――ピンポーン!
午後6時過ぎ。
リビングのソファで寝転がりながら文庫本を読んでいた政親の耳がインターホンの音を捉えた。
誰だろう、と思って壁のモニターを確認してみると――、
『おーいっ、ちょっと柊ヘルプー!』
映っていたのは、1人の女子生徒であった。
眩しいほどの金髪をポニーテールにまとめ、汗ばんだテニスウェアを着ている。
そんな美少女は、クラスメイトの早坂陽葵であった。
またか、と政親は思う。
「……シャワーか?」
『そうシャワー! 色んな部活が終わる時間帯だからいつもの如く女子シャワー室満員御礼でござい!』
ということである。
陽葵は、テニス部終わりに女子シャワー室が使えないと、こうして政親の家のシャワー
を借りに来るのが常であった。
毎日来る週もあれば、全く来ない週もある。
シャワー室の利用状況次第である。
「てことで、シャワーお借りしても?」
「まあどうぞ」
「いえーいありがとー!」
クラスこそ同じだが、教室ではグループ違いでそこまで話す関係ではない。
でもここでの交流を経て、友達と言えるくらいの間柄ではある。
陽葵はその派手な見た目と抜群のスタイル、そして明るい性格の影響で、学校中の男子から人気を集めている。
その陽葵に頼られるというシチュエーションは、なんだか格別である。
「じゃ、借りるねーん!」
陽葵はそう言って靴を脱ぎ、ほのかに漂う制汗スプレーの香りを引き連れて、脱衣所までの廊下を歩いていった。
タオルや着替えはいつも自分で持ち込んでいるようで、政親がこれ以上手を貸すことはない。
リビングに戻った政親は、またソファに寝転がって読書を再開する。
最初の頃はあの陽葵がウチでシャワーを浴びている事実に集中しきれず悶々としていたが、慣れればどうにか……ならないもので、やっぱりそわそわする部分はあった。
シャワー終了後のご褒美が、待ち遠しいというのもある。さすがにタダで貸しているわけではないのだ。
15分ほど経過した頃、脱衣所兼洗面所からドライヤーの音が聞こえてきた。
ぼちぼち陽葵がリビングに顔を出しに来るだろう。
「――ふぅーっ! 生き返ったーっ!」
そして更に5分ほどが経過し、陽葵が脱衣所から出てきた。
リビングに立ち寄った彼女は、ポニーテールを解いた状態で、まばゆい金髪はサラサラと揺れている。
格好は、上が自前のオーバーサイズ半袖白Tシャツで、下は何も穿いていないように見える危うい姿だ。健康的に引き締まった生足が惜しげもなく晒されている。
「マジであんがとね、めっちゃスッキリ」
いしし、と白い歯を見せて笑った陽葵は、
「じゃ、ご褒美行っとくぅ~?w」
と、イタズラっぽい笑みを見せてきた。
政親は、こくりと頷いた。
すると陽葵が、小悪魔みたいな表情を継続しつつ、ダボッとしたTシャツの裾に指をかけた。
それからスッとたくし上げ、まずあらわになったのは、グレーのスポーティーなショーツ。そう、下着しか穿いていなかった。
シャツのたくし上げは続き、ほどなくしてグレーのスポブラがお披露目される。
色白で豊満な谷間に、政親はごくりと喉を鳴らした。
これが、陽葵によるご褒美であった。
シャワー終わりの下着鑑賞。
校内の他の誰にも許されない、政親だけの特権である。
利用されるからには、利用する。
こうしてご褒美をもらうくらいバチは当たらないだろう。
「いしし、今日の私はどうでしょー?w」
「さ、最高だと思う」
「ありがとーw」
テニスで培われた、引き締まりつつも柔らかそうなボディーライン。
何度見させてもらっても高揚出来るだけの魅力がある。
「ホント綺麗だな……」
「は、ハズいこと言うなし……」
褒められて照れ臭そうになった陽葵は、
「ほいっ、もうおしまい……」
たくし上げられていた裾が、パサッと下ろされた。
ご褒美の幕が閉じ、政親は現実に引き戻される。
「……今更だけど、対価とはいえ俺に見せるの、イヤじゃないのか?」
陽葵がリュックからジャージのショーパンを取り出し、それを履き始める光景を尻目に訊ねる。
「んー、よくよく考えるとメッチャ卑しいことしてるよね私」
「ああ」
「でも、ま、柊にならいいかなってw」
「……なんで?」
「なんででもっ」
はぐらかすような勢いでゴリ押しすると、陽葵は自分のリュックを背負い、
「じゃ、そのうちまた頼るはずだからよろよろ~♪」
にこやかに手を振って、リビングをあとにした。
靴を突っかける音、玄関のドアが開く音。
連続したそれらを経て、柊家は静かになった。
「ふぅ……役得だ」
学校まで徒歩0分。
ある意味青春の最前線。
妙に疲れるが、ご褒美まみれのそんな青春を、政親は歓迎していないわけがないのだった。




