第1話 スキル鑑定、そして追放
――貴族、グランメル侯爵家の大広間。
今日は10歳になった俺、ルシア・グランメルが『スキル鑑定』の儀を受ける日だった。
豪奢な椅子にふんぞり返っているのが父、ガルドス・グランメル侯爵だ。
その周りにはグランメル侯爵家の関係者たち……。
そして、すでに優秀なスキルを授かっている兄のドルガと姉のアメリアが居た。
全員、品定めでもするように俺を見つめている。
「フン……せいぜい儂の顔に泥を塗らんスキルを引くことだな、ルシアよ」
「……はい、お父上」
王国屈指の武門――それが貴族グランメル家だ。
当主は代々、強力なスキルを授かってきた。
『剛剣』『鉄壁』『闘神』。
歴史に載る名前が、この家の血には刻まれている。
「スキル鑑定を、開始いたします」
神官が杖を掲げ、魔法陣が眩い光を放った。
頭上に、光の文字が浮かび上がっていく。
そして、神官がその言葉を口にした。
「ルシア・グランメル! スキルは――り、『料理』……!?」
「……は?」
周囲は騒然とする。
当然だ、貴族にとって料理は使用人にさせる事。
いや、そもそも『スキル』という人生を左右するモノがそんなモノであって良いはずがない。
「りょ……『料理』だとォォォ!?」
父のガルドスが椅子を蹴り倒して立ち上がった。
「この、出来損ないがァ! よくも儂に恥をかかせたなァ!」
俺は殴りつけられて床に倒れた。
ガルドスが唾を飛ばしながら俺を見下ろしている。
「貴様のようなゴミが儂の血を引いているなど、反吐が出る! 今この場で、処刑してやる!」
ガルドスが剣を手にした瞬間だった。
側近のバルモアが父上に歩み寄り、耳打ちした
「ガルドス様。西の海沿いの村『ソルベーヌ』をルシア様に任せるのはいかがでしょう」
「村の管理を、この出来損ないにか?」
「はい。あの村はすでに終わっております。百年前の大津波以来、土に塩が染みて作物は一切育ちません。領民は痩せた魚を齧って飢えを凌ぐ有様……ルシア様を領主に据えれば、責任のすべてを擦り付けられましょう」
「……ほぉ、なるほどな」
「しかも、あの海域には船を沈める海魔『グラトニー・クラーケン』が巣食っております。漁に出れば喰われ、出なければ飢える。救援を求めても対策をうたないグランメル家への恨みはすでに煮えたぎっておりますゆえ、我らが手を汚さずとも、いずれ領主様を――」
「ふん。ワシが手を下さずとも、要らぬ者を処分してくれるわけか。それ以前に、勝手に飢え死ぬだろうがな」
ガルドスは剣を収めると、俺に向き直る。
「ルシア、お前を『ソルベーヌ』の領主に任命する! 慈悲深いワシに感謝するが良い!」
俺が床に這いつくばっている様子を見て、俺の兄ドルガと姉アメリアは笑う。
「まさか、こんなクズが出てくるとはな! 一族の恥だ! 雑魚は要らん!」
『剣聖』のスキルを授かった兄のドルガはそう言って憤慨する。
「キャハハ! 料理って何よ! あの奴隷たちがいつもやってる事でしょ? それがスキルって! 私の魔法で丸焦げにしてやろうかしら!」
『大魔導士』のスキルを授かったアメリアはそう言って俺の頭を踏んであざ笑った。
「……わかりました。今までお世話になりました、父上。お兄様がた」
深く一礼して、俺は踵を返した。
「二度と戻ってくるな! いくら我らに助けを乞おうが、無駄だと思え!」
背中に怒号が飛んでくる。
「貴様が飢えて死んだという報せだけが、儂への最後の孝行よ!」
そんな言葉を聞いて、俺はつい呟く。
「さて、飢えることになって、助けを乞うことになるのは、果たしてどちらですかね……?」
――実は、俺はスキル鑑定よりも前の時点で、既に自分の『料理スキル』を知り、使いこなしている。
だからこそ、理解していた。
"『料理スキル』は最強の戦闘スキルである"
俺が軽く手を振れば『包丁』が剣聖である兄のドルガですらも目で追えぬ斬撃となり対象を一刀両断する。
俺が指を弾けば、『コンロ』が大魔導士である姉のアメリアの火力を遥かにしのぐ威力で周囲を焼き尽くす。
そして、俺が調理した料理を食べればステータスが上がり、やせ細った奴隷の子すらドラゴンを狩る英雄へと成長する。
当然、こんなヤツラに『料理スキル』の真の価値など教えるはずがない。
俺は追放先の村を最強のグルメ都市に変えてやるのだ。
そう、俺は既に知っていた。
俺を見下し続けていたコイツらがいずれ、俺の村の門前で、泥にまみれながら必死に一杯のスープを乞うことになる事を。




