第2話 最強の『料理スキル』
――時間は、一旦俺が異世界に転生する直前にまで遡る。
「うん……? ここは、どこだ?」
見知らぬ空間で目を覚ました俺の目の前には、おじいさんが微笑んでいた。
俺は、その姿を見て気軽に声をかける。
「チョーさん! こんな所で奇遇ですねー! というか、どこなんです? ここ?」
このおじいさんは俺が一人で運営する食堂『止まり木』の常連客だ。
初めて店に来た時に「名前は好きに呼んでくれ」と言われたのでチョーさんと呼んでいる。
足しげく通っては、いつも美味しそうに俺の作る料理を食べてくれている。
「うむ、ここは『転生の間』。残念ながらお主は料理の仕込みの途中で死んでしまったのじゃ。やはり無理がたたったのじゃな。お主は働き過ぎじゃ」
「あらら、そうですか」
「なんじゃ、軽いのう?」
「まぁ、料理して死ねたならOKです! 美味しく食べる人の笑顔が沢山見れて、良い人生だったな~」
俺がそう言うと、チョーさんは笑う。
「お主、やはり不思議な奴じゃのう。結局、ワシから一度もお金を取らなかったしの」
「それはチョーさんが持ってないっていうからじゃないですか。持ってないなら取りませんよ。ただし、俺の料理は食べてもらいます」
「自分で言ってておかしいと思わんのか? 本当に変な奴よの~」
そう言って、愉快そうに笑い続けるチョーさん。
俺はあることに気が付く。
「あっ! てことはチョーさんも死んじまったのか!? やっぱり濃い料理食べさせ過ぎたかなぁ」
「……ふむ、ワシの正体を明かすとするかのう」
すると、目の前のおじいさんは煌びやかな女性に変身した。
俺は瞳をパチクリと動かす。
綺麗な女性は誇らしげに胸を張る。
「我が真名はヘスティア。『炉』をつかさどる女神なり」
「はえー、女神様だったんですか……。炉? って何ですか?」
「反応が薄いのう……『炉』は暖炉、祭壇、生活の中心。つまり、ワシは家庭を司る神じゃな」
「どうしてそんなお方が俺のお店に食べに来ていたんですか?」
「下界を見ていたら変な奴が居ると思って興味本位でな。お主はほとんど儲けの無い価格でずっと料理を出しておった、そんな奴はおらん」
「……まぁ、俺は料理を食わすのが好きなので」
「言うだけのことはあるのう。確かにお主の料理はこの女神の舌をもってしても絶品じゃった」
「どうして老人の姿になっていたのですか?」
「ワシのしゃべり方がこうだからじゃ。変装するなら老人が適切じゃろう? 色々と気を遣わせて悪かったのう」
「いえ、老人にしては足腰がしっかりしてるとは思ってたんですよ。食欲も凄いですし」
他愛のない話を続けると、女神様は杖を出して俺の目の前に突き付けた。
「さて、このままお主とずっと楽しく話していたい気持ちはやまやまじゃが、ワシはお主の転生に勝手に介入しているだけなのじゃ。時間制限があるのでな、悪いが進ませてもらうぞ」
「転生……そういえば、そんなこと言ってましたね」
「そうじゃ、お主は異世界に転生する。そして、生前のお主は料理で多くの人々を笑顔にしていた。その功績を称え、ワシの独断と偏見でお主の望みを叶えてやろう」
「それはそれは……ありがとうございます」
俺が頭を下げると、女神様は得意げに胸を張る。
「さぁ、何でも言うが良い。最強の力か? それとも、巨万の富か? イケメンに生まれ変わりたいなんてのも――」
「料理がしたいです!」
俺がそう言うと、女神様はズッこける。
「お主、異世界でも料理を作りたいのか?」
「はい! 異世界の料理……どんなのが作れるのか楽しみです! 魔物とかも食べられるんですか!?」
俺がそう答えると、女神様は腰と顎に手を当てて考える。
「ふむ……あの世界の料理か、確かに興味があるのう。分かった、ではお主には『料理スキル』を与えよう」
「『料理スキル』……ですか?」
「そうじゃ、本来は少し料理が上手くなる程度のハズレスキルじゃが……この女神『ヘスティアの加護』によりSSSランクまで強化してやろう」
そう言うと、女神様は俺に向けて手をかざした。
直後、俺の身体が光って新たな力が満ちるのを感じた。
「よし、これでお主は最強の『料理スキル』を手に入れた。どこに転生するかは知らぬが、コレがあれば死ぬようなことはあるまい」
「ありがとうございます!」
「良いのじゃ、お主に食べさせてもらっていた美味しい料理の礼じゃからな」
そう言うと、女神さまは無邪気に笑う。
「――さて、もう時間じゃな。異世界でお主の作る料理、楽しみにしておるぞ」
「はい! このスキルのおかげで、俺は料理がさらに上手くなるんですね!」
「いや、料理が上手くというか……そのスキルはそんな次元のレベルではなく――」
女神様が説明をする前に、時間がきてしまったのだろう。
俺の体は光となって消えてしまった。




