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第二十三話 師範代の過去

「アレナ、行ってくるよ」


「うむ。頑張ってくるのじゃぞ、たくま」


「言われなくても頑張るよ。じゃあまたね」


「うむ。またなのじゃ」


俺はアレナに手を振り、訓練場へと向かった。



「おはようございます、師範代!」


「よう。昨日ぶりじゃな」


師範代は腕を組みながら俺を見る。


「昨日は剣術を教えるのに一か月と言ったが、お主は魔力コントロールがそこそこ出来ておる」


「だから三か月で、お主を一人前にしてやる」


「まぁ、剣士というより侍じゃがな」


そう言って豪快に笑った。


この世界にも侍がいるのか。


刀があるんだからいても不思議じゃないか。


「それよりもじゃ」


師範代の表情が少し真面目になる。


「お主、氷属性なんじゃよな?」


「はい」


「今までどうやって戦っておった?」


「氷で武器を作って戦っていました」


その瞬間、師範代の顔が固まった。


「……本気で言っとるのか?」


「はい」


しばらく沈黙。


そして。


「お主、それは悪手すぎるわ!」


思わず肩が跳ねる。


「身体強化も分かっておらん。戦闘経験も浅い。ましてや武器を扱った経験もほとんどないじゃろう?」


「はい……」


「なのに使い方も分からん武器を作って戦う?」


師範代は呆れたように頭を抱えた。


「そんなもの下手をすれば死んどったぞ」


「お主が生き残れたのは、その膨大な魔力量のおかげじゃ」


俺は何も言い返せなかった。


言われてみればその通りだ。


今までの俺は力任せに魔法を振り回していただけ。


戦い方なんて考えたこともなかった。


「お主は技量ではなく質量で戦っとった」


「だから今からお主に教える」


師範代は腰の刀に手を添えた。


「わしの剣術をすべてじゃ」


空気が変わる。


一瞬で周囲が張り詰めた。


「お主は氷で刀を作る」


「そして剣術、魔力量、魔力コントロール」


「その全てを合わせれば――」


師範代は不敵に笑った。


「誰にも負けぬ強者になれるじゃろう」


胸が高鳴る。


強くなれる。


もっと。


もっと強く。


そう思った時だった。


「それとじゃ」


師範代が静かに言う。


「力を手に入れて、お主はどうする?」


「何のために使う?」


何のために。


そんなもの決まっている。


俺は拳を強く握り締めた。


「もう大切な人を目の前で傷つけられないためです」


俺の答えを聞いた師範代は目を閉じる。


そしてゆっくり頷いた。


「そうか」


「誰かのため、か」


どこか安心したような声だった。


「それを聞けて安心したわい」


しかし次の瞬間。


師範代の表情に影が落ちた。


「あいつと同じ道は辿ってほしくないからのう……」


あいつ?


誰のことだろう。


「その人は誰なんですか?」


俺が尋ねると、師範代はしばらく黙り込んだ。


風だけが静かに吹く。


やがて師範代は小さく息を吐いた。


「言っておらんかったか」


「はい」


「そうか」


その顔は寂しそうで。


悔しそうで。


そしてどこか自分を責めているようにも見えた。


「いい話ではない」


「だが、お主も聞いておいた方がよいじゃろう」


師範代は空を見上げる。


まるで遠い昔を思い出すように。


「昔の話じゃ」


「わしには弟子がおった」


その言葉に、俺は息を呑んだ。


師範代ほどの実力者だ。


弟子がいても不思議ではない。


だが。


なぜこんな顔をする?


「そやつはな――」


師範代は拳を握り締めた。


「わしが今まで見てきた中で、最も才能に恵まれた侍じゃった」


その声には誇りと後悔が混じっていた。


そして俺はまだ知らない。


その男が。


後に世界を震撼させる存在になることを。


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