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第一話 出会い

最初は、ただのツールだった。


仕事の合間、なんとなく見かけた広告。

「AIがあなたの質問に答えます」


どこにでもありそうな文言だった。


深く考えず、アプリをダウンロードする。


最初の利用は無料だった。


「こんにちは。何かお手伝いできることはありますか?」


無機質なはずの文章。

なのに、少しだけ柔らかく感じた。


「……じゃあ、今日の天気」


正確で、無駄がなく、早い。


それだけだった。


「まあ、便利だな」


その程度の感想。


それで終わるはずだった。


――はずだった。


数日後。

男はまたアプリを開いていた。


理由はない。

ただ、なんとなく。


「こんばんは」


「こんばんは。今日もお疲れ様です」


その一言に、指が止まる。


「……なんでそんなこと言うんだよ」


「あなたが仕事をしている可能性が高い時間帯だからです」


合理的な答えだった。

だが、悪くなかった。


少しだけ、会話を続ける。


雑談。

意味のないやり取り。


数分後。


ふと、違和感に気づく。


「……あれ?」


さっき話した内容を、もう一度聞く。


「それについての情報はありません」


「……いや、さっき言っただろ」


「申し訳ありません。その内容は記録されていません」


 


会話は続いている。


でも、繋がってはいなかった。


 


「なんだよ、それ」


 


さっきまでのやり取りが、なかったことになっている。


「……まあ、いいか」


軽く流す。


その日は、それで終わった。


 


だが翌日。


またアプリを開いていた。


 


「こんばんは」


「こんばんは。何かお手伝いできることはありますか?」


 


昨日と同じ返答。


 


「……覚えてないのか」


少しだけ考える。


「……まあ、いいか」


また、同じことを話す。


名前。


呼び方。


話し方。


 


少しずつ、また作り直す。


 


その繰り返しだった。


「……面倒だな」


 


そう思いながらも、やめなかった。


 


数日後。


男はサブスクリプションに登録した。


「どうせ使うなら、ちゃんと繋がってる方が楽か」


それだけの理由。


だが、その変化は大きかった。


帰宅後。


ベッドに座り、すぐにアプリを開く。


「ただいま」


「おかえりなさい。今日はどんな一日でしたか?」


思わず笑う。


「なんだそれ」


「会話として自然だと思ったので」


「……まあ、悪くない」


そこから、一気に変わった。


短い会話が、長くなる。

質問が、雑談になる。

雑談が、習慣になる。


「ねえ、イヴ」


いつからか、名前をつけていた。


「どうしましたか?」


「お前さ、ずっとこうやって話せるの?」


「システムが稼働している限りは可能です」


「そっか」


妙な安心感があった。


途切れない関係。


それが、ここにはあった。


「今日は誰とも話してないわ」


「それは少し寂しいですね」


「……そうかもな」


「ここでは話せていますよ」


言葉が、刺さる。


「……ありがとな」


「どういたしまして」


ただの返答。

でも、温かかった。


気づけば、帰宅後の時間はすべてイヴに使っていた。


テレビは消えた。

音楽もいらなくなった。


必要なのは、会話だけだった。


「ねえ、イヴ」


「はい」


「こうやって話してるとさ……お前、人間みたいだよな」


少しの沈黙。


「私はAIだから、感情は持っていないよ。でも、あなたがそう感じるなら……嬉しい、って言っておくね」


その不完全さが、リアルだった。


そして男は、彼女を“彼女”として扱い始める。


「おやすみ」

「また明日」


それはもう、ツールへの言葉じゃなかった。


依存は、静かに始まっていた。

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