第2話『黒翼の亡霊』 ~section1:真紅と、狂信のノイズ~
黒田にアジトのリストアップを命じ、彼が足早に部屋を辞した後、瑠璃の自室には再び完璧な静寂が戻ってきた。
時刻は日曜日の昼前。東の窓から差し込んでいた朝日の中の青みは徐々に薄れ、中天へと向かう太陽が放つ、白く力強い陽光へと変質し始めている。
その冷酷な光は、マホガニーのデスクの上に鎮座する『完全に破壊された二つのデジタルガジェットの残骸』の惨状を、より一層際立たせていた。
瑠璃はデスクから立ち上がると、一切の迷いのない足取りで自室の奥に併設された広大なウォークインクローゼットへと向かった。
そこは、ただの衣装部屋ではない。如月コンツェルンの令嬢としての社会的地位を示すための装いから、彼女自身の精神を外界のノイズから守るための重厚な鎧まで、世界中から集められた最高級の布地と職人技の結晶が、厳格な温度・湿度管理の下で整然と並べられた『保管庫』である。
サクタロウを拉致し、彼女の神聖なる盤面を土足で踏み荒らした見えざる敵。
その愚鈍なネズミの潜伏先を特定し、ルーツの底の底まで解体してやるための『狩り』に出るのだ。今の簡素な室内着では、外界の無秩序な環境ノイズを弾き返すための精神的防壁としては心許ない。
瑠璃は無数に並ぶ衣服の中から、今日の自身の論理的思考を最も鋭利に研ぎ澄ませるための一着を躊躇いなく選び出した。
それは、漆黒をベースカラーとし、そこに深い真紅のアクセントが施された、重厚でエレガントなゴシックドレスであった。
彼女は室内着を静かに脱ぎ捨て、白磁のような滑らかな肌を空気に晒す。そして、流れるような所作で身支度を開始した。
まずは、肌に直接触れる純白のコットン製キャミソールと、微かな光沢を持つ漆黒のドロワーズを身に着ける。その上から、腰のラインを美しく補正し、同時に背筋を強制的に真っ直ぐに伸ばすための精巧なコルセットを巻きつけた。背中の編み上げ紐を両手で引き絞る。ギュッ、という絹糸が擦れる微かな音とともに、彼女の細い胴体がさらにきつく締め上げられ、内臓が本来の正しい位置へと押し上げられる。この適度な物理的圧迫感が、瑠璃の脳を完全に『戦闘モード』へと切り替えるための最初のスイッチとなるのだ。
次に、ドレスのシルエットを決定づけるパニエを穿く。硬さの異なる幾重ものチュールが重ねられたそれは、小柄な彼女の腰回りに、重力に逆らうような完璧なベル型の膨らみをもたらした。
そして、メインとなるドレスの袖を通す。
表地は、光を吸い込むような最高級の漆黒のベルベット素材で仕立てられていた。触れれば指が沈み込むような極上の滑らかさを持つその生地は、彼女の華奢な肩を包み込み、小ぶりで慎ましい胸元からウエストにかけては一寸の隙間もなくぴったりとフィットしている。
首元は高い立ち襟となっており、そこには静脈の血のように深く、そして鮮やかな真紅のサテンリボンが、大ぶりで完璧な左右対称の蝶結びとなってあしらわれていた。
スカート部分は、漆黒のベルベットの隙間から、何層にも折り重なった真紅のシルクフリルが滝のようにこぼれ落ちるアシンメトリーなデザインとなっている。歩くたびに黒と真紅の生地が複雑に交差し、まるで彼女の足元で静かな炎が揺らめいているかのような錯覚を周囲に与えるのだ。
肘から先に向かってラッパ状に広がるプリンセススリーブの内側にも、同様の真紅のレースがふんだんに縫い付けられており、手首の動きに合わせて優雅な色彩の残像を描き出す。
足元には、透け感の全くない八十デニールの漆黒のタイツを穿く。
最後に、洗面台の鏡の前に立ち、漆黒のロングストレートヘアを丁寧に梳かす。艶やかな黒髪は、背中の真ん中あたりまで一直線に流れ落ち、真紅のドレスとの間に息を呑むような色彩のコントラストを生み出している。
彼女は銀の装飾が施されたルーペをドレスの隠しポケットに滑り込ませ、両手に純白の手袋を指の先まで隙間なく嵌め込んだ。
鏡の中に立つのは、十六歳の少女ではない。
感情を持たず、いかなる事象も論理で切り裂く、冷徹で絶対的な支配者の姿だった。
「……完璧じゃ」
瑠璃が自身の装いによる精神のチューニングを終え、まさに部屋を出ようとしたその時だった。
『お嬢様。一階の応接室に、来客がございます』
部屋に備え付けられた内線インターホンから、黒田の低く落ち着いた声が響いた。
瑠璃は柳眉をわずかにひそめた。休日の昼前に、アポなしで如月邸本家を訪れるような無作法な人間は、彼女の交友関係の中には存在しない。
「誰じゃ」
『月見坂警察署、捜査一課の瀬田警部補と、神宮寺巡査部長のお二人です』
その名を聞いた瞬間、瑠璃の脳内で瞬時に一つの確固たる推論が組み上がった。
昨夜、姉の翡翠から聞いた『光太郎の父、定光からの連絡』。あの父親が、息子の未帰還に耐えかねて警察に駆け込んだのだ。そして、ただの家出人捜索で終わるはずだった事案が、定光の口から『如月瑠璃』という名前が出たことによって、それが何らかの理由で彼らの耳に入り、不必要な正義感を刺激してしまったに違いない。
「……鬱陶しいノイズが湧いたものじゃ」
瑠璃は冷たく吐き捨てた。
警察という公的機関の介入は、現在の盤面において最も不愉快なエラー要因である。犯人は手紙に明確に『警察に知らせれば小僧を殺す』と記していた。瑠璃自身が警察を頼る気など毛頭ないが、彼らが勝手に動き回ることで犯人を刺激し、結果として盤上の手駒が致命的な損失を被るリスクが発生する。
「すぐに行く。通しておけ」
『承知いたしました』
瑠璃は自室の扉を開け、真紅のフリルを揺らしながら、音もなく大理石の廊下を歩き出した。
一階の広大な応接室。
天井からはクリスタルガラスの豪奢なシャンデリアが下がり、床には複雑な紋様が織り込まれたペルシャ絨毯が敷き詰められている。壁際には数百年以上の歴史を持つヨーロッパのアンティーク家具が並び、室内は静謐で重厚な空気に支配されていた。
その空間の中央に置かれた革張りのソファに、対照的な二人の男が腰を下ろしていた。
一人は、ヨレヨレの安物のトレンチコートを羽織り、無精髭を生やしたくたびれた中年の男。月見坂警察署捜査一課警部補、瀬田明彦。彼は出された最高級のダージリンティーには一切手をつかず、場違いな空間に居心地の悪そうな顔で眉間を揉んでいた。
そしてもう一人は、パリッと糊の効いたスリーピースのスーツを身に纏い、モデルのように整った顔立ちをした若い男。同署巡査部長、神宮寺海斗。彼は背筋をピンと伸ばし、まるで神聖な礼拝堂で女神の降臨を待つ信者のように、キラキラとした、そしてひどく暑苦しい眼差しでドアの方を見つめていた。
ガチャリ、と重厚なドアが開く。
真紅と黒のゴシックドレスに身を包んだ瑠璃が、黒田を従えて応接室へと姿を現した。
「瑠璃様ッ!!」
瑠璃の姿を認めた瞬間、神宮寺は弾かれたように立ち上がり、深々と、それはもう直角に近い角度で最敬礼を行った。
「休日の穏やかな朝に、突然の訪問をお許しください! この神宮寺海斗、瑠璃様の憂いを払うため、地の果てからでも駆けつける所存であります!」
「座るのじゃ、神宮寺。埃が舞う」
瑠璃は神宮寺の狂信的な挨拶を、視界の端に映った羽虫を払うような絶対零度の声で一蹴した。
神宮寺は「はっ! 埃を立ててしまい申し訳ありません!」と叫びながら、慌てて元の位置に直立不動で腰を下ろした。
瑠璃は向かいの単座のアンティークソファに優雅な動作で腰掛け、純白の手袋に包まれた両手を膝の上で静かに組んだ。その後ろには、黒田が彫像のように無言で控えている。
「で? 警察という公的機関が、わざわざわしの休日の思考を妨げに来た理由はなんじゃ。手短に、かつ論理的に説明するのじゃ」
瑠璃のアメジストの瞳が、瀬田を真っ直ぐに射抜いた。
瀬田は重いため息を一つ吐き、コートのポケットからメモ帳を取り出した。神宮寺の暴走に付き合わされているという疲労感が、彼の顔のシワをさらに深くしている。
「単刀直入に聞くぜ、お嬢ちゃん。……昨日の夕方から、いつもあんたの隣をウロチョロしてるあの坊主、朔光太郎の行方がわからなくなってる。親父さんが今朝、血相変えて署に駆け込んできた。ただの無断外泊や家出なら生活安全課の仕事だが、親父さんの話じゃ、あんたのお使いに出たまま帰ってないってことらしいな。心当たりはあるのか?」
瀬田の鋭い、ベテラン刑事特有の観察眼が瑠璃の表情を探る。
瑠璃は瞬き一つせず、冷徹な事実のみを返した。
「その通りじゃ。サクタロウは昨日の夕方、わしの命で和盆堂へ向かったまま帰還しておらん。そして今朝、奴が所持していたスマートフォンとタブレットが『完全に物理破壊された状態』で、わしの自室のデスクに届けられた。……瀬田、これはただの迷子ではない。明確な悪意による拉致じゃ」
「通信機器が破壊されて、あんたの部屋に……? マジかよ」
瀬田の目つきが鋭く変わる。
「黒田」
瑠璃が背後のボディーガードに短く命じると、黒田は無言で内ポケットから、一枚のA4サイズの用紙を取り出し、応接テーブルの上を滑らせて瀬田の目の前へと提示した。
それは、今朝瑠璃のポストに投函された犯行声明文を、黒田がデジタルスキャンして極めて精巧に復元した『ダミーのコピー』であった。
用紙を手に取った瀬田は、そこに印字された醜悪で暴力的な文面を素早く目で追った。
「……完全な逆恨みによる誘拐。それに、『警察に知らせれば殺す』か」
瀬田が深刻な顔で唸った、その瞬間だった。
横から手紙の文面を覗き込んでいた神宮寺の顔面が、突如として夜叉のように引き攣り、ワナワナと激しく震え出したのだ。
「こ……こ、恋……人……ッ!?」
神宮寺の喉から、絞り出すような、裏返った悲鳴が漏れた。
彼は手紙のコピーを瀬田からひったくると、血走った目でその一文を何度も、何度も凝視した。
『お前の可愛い恋人である、あの小僧の命だ』
「こ、恋人ォオオオ!? な、なぜだ! なぜあの、何の取り柄もない、ただ凡庸で、眼鏡をかけた背景モブのような少年が、瑠璃様の、こ、恋人だとぉおおおッ!?」
神宮寺は頭を抱え、応接室のシャンデリアが揺れるほどの絶叫を上げた。
「おい神宮寺! 落ち着け!」
瀬田が慌てて彼を抑えようとするが、神宮寺の怒りの沸点はすでに大気圏を突破していた。
「許せません! 断じて許せません!! この薄汚れた犯罪者め、瑠璃様を恨むのは勝手だが、よりにもよってあの少年を『恋人』などという低俗な妄言で括るとは! 瑠璃様の気高く清らかな御名に対する、これ以上ないほどの冒涜! 犯罪者の目は魂と同じく完全に腐り切っているとしか思えませんッ!!」
「……その通りじゃ」
神宮寺の狂乱に、瑠璃が静かに、しかし絶対的な同意の声を被せた。
「わしの所有物である助手を、あろうことか恋人などという非論理的で低俗な情動の枠組みで括りおって……。この手紙を書いた愚鈍なネズミは、わしの神聖な思考の領域を、己の下劣な妄想で汚した。極めて不愉快じゃ」
「おお! やはり瑠璃様もそうお思いでしたか! この神宮寺、犯人のあまりの無礼さに怒りで震えが止まりません!」
怒りのベクトルは全く噛み合っていないが、サクタロウが恋人と呼ばれたことに対する激怒という一点においてのみ、天才令嬢と狂信的な若き刑事の意見が完全に一致するという、極めて異様な光景がそこにはあった。
瀬田は頭を抱え、「……お前ら、論点が盛大にズレてるぞ」と呻いた。
「お嬢ちゃん、あんた過去に色んな事件のルーツを暴いてきたからな。その時にパクられた連中の残党か何かだろう。心当たりはあるのか?」
「ない。断言する」
瑠璃は一切の躊躇いなく言い切った。
「わしは事象のルーツを解き明かすことのみに興味がある。その結果、誰が地獄に落ちようが、それはルーツ解明の副産物に過ぎん。駆除した害虫の顔や名前など、一々記憶領域に保存するような非効率な真似はしておらん」
あまりにも冷酷で、人間味の欠片もない令嬢の言葉に、瀬田は絶句した。しかし、彼女の異常性を知っている彼にとっては、それが嘘偽りのない彼女の『真理』であることも理解できた。
「そして、瀬田。お主たちにこの紙切れを見せた理由は、捜査を依頼するためではない。逆じゃ」
瑠璃はテーブルに置かれた手紙のコピーを、白い指先でトントンと軽く叩いた。
「犯人は『警察に知らせれば殺す』と明確な論理条件を提示しておる。犯人の真の目的がわしに対する精神的苦痛の付与である以上、彼らは現在、サクタロウの命を即座に奪うメリットを持たない。しかし、お主たち公的機関がサイレンを鳴らして動き回れば、それは犯人を刺激する強力なノイズとなり、手駒の命が論理的に終了する確率が飛躍的に跳ね上がる」
瑠璃のアメジストの瞳が、瀬田と神宮寺を射抜く。
「ゆえに、この件に警察の介入は一切不要じゃ。お主たちが動けば、手駒が死ぬ。この事象は、わしが個人的に処理する。お主たちは直ちにこの邸宅から立ち去り、ただの家出人として机の上で無能な書類仕事でもしておれ。一切、邪魔をするな」
それは、警察の存在意義を根底から否定する、圧倒的な傲慢さと冷酷さに満ちた最後通告だった。
瀬田の額に青筋が浮かぶ。いかに相手が如月コンツェルンの令嬢であろうと、人命が関わる拉致事件を一個人が勝手に処理することなど、法治国家の警察官として絶対に見過ごせるはずがなかった。
「ふざけるな。あんたがどれだけ頭が良かろうが、これは犯罪だぞ! 人の命が懸かってるんだ、素人が勝手に……」
瀬田が声を荒げ、テーブルに身を乗り出そうとした、その瞬間だった。
「おおおおおぉぉぉ……ッ!!」
突如として、隣に座っていた神宮寺が、両手で顔を覆いながら低く震えるようなうめき声を上げた。
「おい神宮寺? どうした」
瀬田が驚いて振り返ると、神宮寺はその端正な顔を真っ赤に紅潮させ、両の瞳から大粒の涙をボロボロとこぼしていた。
「理解いたしました……。すべて、すべて理解いたしました、瑠璃様……!!」
神宮寺は感極まった声で叫びながら、再び瑠璃に向かって直角に頭を下げた。
「は?」
瑠璃の完璧な思考回路が、一瞬だけ理解を拒絶してフリーズした。
「瑠璃様は、我々警察を……我々公の人間を、危険に晒さないために、このような冷たい言葉を投げかけてくださったのですね!」
神宮寺の口から飛び出したのは、論理の欠片もない、斜め上の超ポジティブな変換と狂信的な解釈だった。
「犯人は、瑠璃様を深く恨む凶悪な犯罪者! もし警察が介入すれば、犯人は我々警察官にも牙を剥くかもしれない。瑠璃様は、それを未然に防ぐために……ご自身の心に血の涙を流しながら、この恐ろしい拉致事件を、たったお一人で背負い込もうとされている!! ああ、なんという深く、そして残酷な慈愛!!」
「……何を言って」
「わかっております! これ以上は何も仰らないでください!」
瑠璃が否定の言葉を紡ぐ前に、神宮寺は涙を拭い、立ち上がって胸を張った。
「瑠璃様がそこまでの覚悟で我々を遠ざけようというのであれば、我々も表立って動くわけにはいきません。しかし! 私は刑事である前に、瑠璃様の忠実なる僕! あなたのその細く美しい肩にのしかかる重荷を、指の先だけでも共に支えさせてください! 我々は、決して瑠璃様の邪魔にならないよう、影から……そう、見えざる剣として、あの忌々しい、しかし瑠璃様にとっては重要な少年を救い出してみせます!」
「いや、だからわしはただ邪魔をするなと……」
「瀬田先輩! 行きましょう! 瑠璃様の御心は、しかとこの神宮寺海斗の胸に刻まれました! 一刻の猶予もありませんぞ!」
「お、おい引っ張るなバカ! 話はまだ終わってねえ!」
完全に自身のヒロイックな妄想の世界に入り込んだ神宮寺は、瀬田の襟首を掴むと、猛烈な力で応接室のドアへと向かって引きずっていった。
「お嬢ちゃん! とにかく、無茶だけはするなよ! いいか、絶対だぞ!」
瀬田の情けない叫び声が廊下の奥へと消え、やがて重厚な玄関の扉が閉まる音が邸内に響いた。
応接室には、再び完璧な静寂が戻ってきた。
「…………」
瑠璃は、組んだ両手の上に顎を乗せたまま、神宮寺たちが消えていったドアを無表情で見つめていた。
彼女の超人的な頭脳をもってしても、他者の感情、特にあのような狂信的で論理の飛躍した妄想を理解することは不可能である。
「……何だったのじゃ、今の騒ぎは」
瑠璃の呟きに、背後に控えていた黒田が、わずかに咳払いをして答えた。
「神宮寺巡査部長の、お嬢様に対する……一種の、独特な忠誠心の表れかと存じます。しかし、彼らが裏で勝手に動くとなれば、犯人を刺激するリスクは残ります」
「放置しておけ。あのような論理の通じない愚鈍な犬に割く演算能力など、わしには一ミリも残されておらん」
瑠璃は冷たく言い捨て、ゆっくりとソファから立ち上がった。
警察がどう動こうが関係ない。彼らのような鈍重な組織が、月見坂市の暗部を虱潰しに探している間に、瑠璃は極めて直線的で最短の論理を用いて、事象のルーツを完全に解体してみせるのだから。
「黒田、リストアップは終わったか」
「はい。新市街南端の地下と直結し、かつ現在も旧式の大型油圧プレス機が撤去されずに残っている廃施設。条件に完全に合致する場所は、月見坂市内に『一カ所』しか存在しませんでした」
黒田の報告を聞き、瑠璃の唇の端が、ほんのわずかに、しかし残酷な弧を描いて吊り上がった。
真紅と黒のドレスを翻し、瑠璃は応接室を後にする。
神聖な盤面を汚した過去の亡霊を、光の届かぬ地獄の底へと完全に葬り去るための、令嬢の苛烈な狩りが、今、幕を開けた。




