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チートあるけどまったり暮らしたい  作者: 大野半兵衛
3章

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096 オリオンの落日3

 


 阿鼻叫喚。

 そんな言葉しか思い浮かばない。

 それは真紅の金属鎧と真紅の大盾、そして鋭く研がれた大剣を持った綺麗な赤毛が特徴である『赤毛のアズバン』と呼ばれる大柄の女性が引き起こす惨劇であり、聖オリオン教国軍にとっては真っ赤な死神が現れたかと錯覚するほどの惨劇が繰り広げられていた。


「ほら、もっと腰を入れて打ち据えてきなっ!」

「ぐっ!」


 剣を振り上げ近寄ってきた聖オリオン教国兵を一太刀で切り伏せ、周囲に獰猛な視線を送る。

 既に20人は切り伏せており、周囲は血の海と死屍累々といった様相を醸し出している。

 そんな状況を作り出したのはブリュトゼルス辺境伯家にあって十指に入る武を誇るアナスターシャ・クド・アズバンである。


「雑魚はおどきっ! もっと手ごたえのある者は居ないのかねぇ?」


 そんなアズバンに呼ばれたように前に進み出てきたのは強者の風貌を見せる者であった。


「赤毛のアズバン殿とお見受けする。某、聖オリオン教国聖クロス騎士団第三大隊長ベルドネ・ウィンドフィールドと申す」


 白銀の鎧に聖クロス騎士団員の印である深緑のマントを纏った立派な体格の男性は静かにアズバンを見据えているのだが、その視線は決して穏やかなものではない。

 あちらこちらで上がっている怒声や悲鳴にベルドネは神聖バンダム王国軍の奇襲であると正しく認識はしているも、その兵数や兵科が分からない状況で『赤毛のアズバン』という二つ名を持つアズバンに出遭ったのは僥倖なのか、それとも奇禍(きか)なのか、ベルドネは僥倖だと思うように思考する。

 聖オリオン教国軍にあって聖クロス騎士団は中核組織であり、大隊長ともなれば将軍クラスの大物である。

 もともと聖クロス騎士団はオリオン教の教皇直属の武力組織であり、大隊長ともなればその発言力は下手な司教よりも上である。


「お、やっと手ごたえの有りそうなのが出てきたね。アンタ、覚悟はいいかい?」


 ベルドネは「フッ」と笑い剣を抜くとアズバンが剣を構えるのを待つ。


「いいねぇ~、行くよっ!」


 アズバンが地面を蹴ると同時にベルドネも地面を蹴る。

 ガキンッと甲高い金属音が響くと同時に火花が(ほとばし)る。

 次の瞬間には数度もの甲高い金属音が連続で鳴るのだが、周囲でその光景を眺めていた聖オリオン教国兵は2人の次元の違う剣戟を目で追うことができないでいた。


「いいねぇ。ゾクゾクするよ」


 アズバンは終始笑顔で剣を振る。

 対するベルドネはアズバンの剣戟を剣でいなしたり盾で受け止める。

 ベルドネは最初こそアズバンと互角かと思われたが、数度剣を合わせるうちに徐々にアズバンの剣戟が重く、そして速くなっていくのを感じ押され始めていた。


「くっ! この化け物めっ!」


「か弱い女性に向って化け物とは酷い言いようだね!」


 ベルドネは額に大粒の汗をかきその息は荒く弾んでいるが、アズバンは軽く扇子でも扇いでいるかのような感じで大剣を振りベルドネにプレッシャーをかけ続けていた。

 こんな状況下で自分を「か弱い女性」と言うアズバンの神経が疑われるが、それはゴーレス同様の戦闘狂でもあるアズバンクォリティなのである。






 小人族の両親を持ち、自身も当然小人族であるリリイアは親しい者たちからはリリーの愛称で呼ばれていた。

 そんなリリイアの幸せは盗賊たちの襲撃により壊されてしまった。

 リリイアを大事に育てていた両親は盗賊に切り殺され、リリイア自身も奴隷にされるために盗賊に捕まっていたのだが、盗賊が領主軍によって掃討され奴隷になることなく解放されたことで転機が訪れる。

 リリイアを救った領主軍を率いていたのは自分と然程年齢の違わない綺麗な顔をした領主自身であった。

 その領主はクリストフ・フォン・ブリュトイースという新興貴族ではあるが、大貴族のブリュトゼルス辺境伯家の出であると部隊の者から聞かされたのは保護されたばかりの頃であった。

 そんなクリストフに何やら運命を感じたリリイアは断られるのを覚悟で家臣にしてほしいと懇願するのであったが、すんなりと家臣になれてしまい拍子抜けしたのを覚えている。

 クリストフの家臣となったリリイアはフィーリアという獣人の、それも自分より年下と思われる少女の部下となったが、このフィーリアが只者ではないことは直ぐに知ることになった。

 リリイアは常にクリストフの傍らに控えておりフィーリアがいつ寝ているのか不思議に思えるほどにフィーリアはクリストフから離れることはなかったのだ。


 最初は剣を覚えるために主君であるクリストフの祖父であるゴーレス・フォン・ブリュトゼルスに預けられ地獄を味わったリリイアだったが、次第に天性の才能が開花しゴーレスのシゴキにも付いていけるようになった。

 そしてその頃にリリイアが『天下の剣聖』であるとクリストフから告げられ、そのことに驚きはしたが、リリイアはクリストフが何故リリイアの『天下の剣聖』について知っていたか疑問に思いクリストフにそのことを聞いたのだった。


「それは私が神だからだよ」


 何気ないその言葉を最初は冗談か何かとリリイアは受け止めたが、クリストフの人外の力を目の当たりにするにつれ、クリストフの言葉が本当であるとリリイアの中で確信になっていくのだった。


「ならば、私はこの剣をクリストフ様に生涯捧げましょう!」


 と心に誓うのであった。


 そしてフィーリアの部下としてクリストフの身辺警護をするリリイアだったが、今回の聖オリオン教国の侵攻には思う処がないわけではなかった。

 リリイアの両親を殺した盗賊たちは聖オリオン教国の援助と協力を得ていたことは知っているので間接的にではあるが、聖オリオン教国はリリイアにとって親の仇であるのだ。

 そして当初はフィーリアだけが参加する予定であった奇襲作戦にリリイアも参加させてほしいとクリストフに懇願したのだった。

 当初、クリストフはリリイアを参加させることに否定的であったが、リリイアの決意を受け了承することになる。


「リリイア、お前は戦場の怖さを知らないだろうから決して無理はするんじゃないぞ」


 クリストフのそんな言葉を受け、リリイアはクリストフに更なる忠誠を誓うことになるのだった。


「私の傍を離れないように、これは命令です」


 フィーリアもリリイアのことを心配し自分の傍につき従うように促すのだった。

 そんな2人の優しさに触れ、自分は幸せな人間だと思うリリイアだった。


「リリイア、行きますよ!」


「はい、フィーリア隊長!」


 フィーリアが先頭をきり、リリイアが後方でフィーリアを支援する形をとる。

 フィーリアが槍で聖オリオン教国兵を串刺しにし薙ぎ払い道を作ると、後方から仕掛けてくる聖オリオン教国兵をリリイアが切り捨てる。

 フィーリアだけでも一騎当千の強者であるが、天下の剣聖たるリリイアもフィーリアに勝るとも劣らない働きをするのだった。

 2人が最初に遭遇した隊長クラスの男は喋る暇を与えられることもなく首が飛び血の海を作り、次に遭遇した隊長クラスの女性士官は腹部を鎧ごと貫かれ大量の出血で意識を失うのだった。


「リリイア、大丈夫ですか?」


「問題有りません!」


 時折フィーリアがリリイアの状況を窺う。


(今はまだ大丈夫ですね)


 この時のリリイアは気持ちが高ぶり自身を省みるような状態ではなかったのだが、この戦闘の後しばらくは就寝中に(うな)されるのだった。


「貴様ぁぁっ!」


 何やら豪勢な鎧を身に着けた男がフィーリアに向かって大斧を振り上げ突進してきたが、フィーリアはその男が振り下ろした大斧をクリストフより下賜された槍で受け止めるのだった。


「なっ!? か、片手で受け止めるだ・・・と?」


 本来、大斧を槍で受け止めれば槍の方が押されるのだが、フィーリアの槍はオリハルコンを基本として作り上げられたクリストフお手製のハイスペックウエポンであり、フィーリアもクリストフの眷属であることから最早人間の域を超えた身体能力を有しており、この2つが合わさったことで片手で大斧を受けても余裕の表情を浮かべることができるのがフィーリアであった。


「この者の相手はリリイアに任せます。今の貴方に丁度良い相手でしょう」


 この言葉を聞いた男はフィーリアが自分との戦いを避けたと勘違いをするのだった。

 そしてフィーリアのこの「丁度良い相手」という発言はリリイアなら余裕をもって倒すことができるという意味であるのはリリイアには分かっていた。




 

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