1話 「不思議な夢」
……。
「まもなく、終点 五条畷に到着します。ドア横のボタンを押してお降りください。本日もご乗車頂きまして、ありがとうございました。」
静かな車内に、どこか気だるげな放送が響き渡り、やがて電車は大きな音を立てて左右に揺れる。
それに刺激され、僕は目を覚ました。
「やば、結構寝過ごしてないか…?」
まだ寝ぼけている頭を必死に巡らせて、今の状況を確認する。
そうだ、僕は学校から帰る途中だったはず。
スマホで時間を確認してみると、15時ちょうど。
あれ、思ったより早い時間。
そうそう。今日は授業が無くて、昼までだったんだ。
とりあえず車内から出て、駅のホームを見渡す。人はほとんどいなくて、そよ風が心地いい。
階段を上って改札まで行くと、この周辺にある観光スポットを案内する地図が貼ってある。
よくあるって言ったら申し訳ないけど、神社や城跡とかがいくつか紹介されていた。
そんな中で、なぜか目に留まったものがある。
自分でも理由はよく分からないけれど、なんとなく行ってみたくなった。
(やっぱり、ここって……。)
10分くらい歩いて、目的の場所に着いた。そこはただの公園…だったけど、どこか既視感があった。
今よりずっと小さかった頃に来たような気がする。
砂場で山を作ったり、ブランコに乗ったり、ジャングルジムに登ったり。
なんで今になって思い出したんだろう。
いや、思い出したというと語弊がある。
もしかしたら、地元の公園で遊んだ時の記憶と混ざってるだけかもしれないし。
ここ最近、ふとした瞬間にデジャヴみたいなものを感じることが多くなった。
目の前に広がる景色を、前にも同じものを見たことがあると感じるあれだ。
その度にモヤモヤした気分になるけど、浮かんでは数分で頭の中から綺麗さっぱり消えていってしまい、いつもの日常に戻る。
そんなことを何度も繰り返していた。
ここまでならよくあることだと思うんだけど、最近、夢を見るようになった。
デジャヴの延長線上みたいな感じで、ある憧憬が夢に現れる。
霧がかった視界に、海とか山とか、多分どこかにある田舎の景色が出てくるんだ。
僕の地元もどちらかというと田舎よりだけど、その場所は、もっと自然に溢れている。
なんでそんな夢を見るんだろう?
一回だけならわかるんだけど、もう五回はそんな感じの夢を見ている。
もし僕がラノベの主人公なら、この夢がきっかけで壮大な物語が始まって、紆余曲折しながら成長して、ヒロインと結ばれて…そんでもって世界でも救ったりするんだろうか。
年頃の男子なら、そういうのに憧れるものだ。
そんなの有り得ないことだって分かってる。
だからこそ、人は漫画とかアニメを娯楽にするんだろう。
かくいう僕は、自分のことを主人公の器じゃないと思っている。
だって考えてもみて欲しい。
ほとんどの主人公は、冴えないように見えて、実は誰よりも努力ができたり、行動力があったり。
結局何かしらの魅力というか、セールスポイントみたいなものを持っている。
それに対して僕は、ただのモブキャラに過ぎない。
誇れるような魅力も経験も、何一つ持ち合わせていないから。
僕の名前は園部 晴太。この春から高校に進学したごく普通の15歳だ。
幼馴染が4人いて、小さいころから今まで仲良くしている。
それぞれ個性の強いやつばかりで、一緒にいて飽きることはない。
また明日も、明後日も、その先も、今みたいな暮らしが続いていくんだろう。
漠然と、そう思っている。
(そろそろ帰ろうか。遅くなってもあれだし。)
太陽が傾き、空は少しずつ赤みを帯びてきている。
いつの間にかこの公園に感じていたデジャヴのことは忘れて、駅の方に戻ることにした。
…
「ただいまー」
玄関のドアを開けると、リビングの方からいい香りが漂っている。
外はすっかり暗くなっていて、結局家に帰れたのは夕飯時になってしまった。
「おかえり、晴太。今日は遅かったのね」
リビングに顔を出すと、母さんがキッチンで料理をしていた。今日のメニューは何だろう。
「ちょっと電車で寝過ごしちゃって…」
「もう、しっかりしなさいよー」
母さんと話していると、背後でドアがガチャっと開く。
「もー、お兄ちゃん、靴くらいちゃんと揃えてよー!」
こいつは妹の美愛。
2つ下だけど、たぶん僕よりしっかりしている。
まあ、僕がしっかりしなさすぎなのもあるけど。
父さんは帰ってくるのが遅いから、母さんと妹と3人で夕飯を食べるのが当たり前になっている。
他愛ない会話をしつつ、母さん特製のビーフシチューを食べ進めた。
…
「はー、疲れたな……。」
授業は昼までだったはずなのに、結局この時間まで活動しっぱなしだった。
夕飯を食べ終わり、ベッドに寝転がってぼーっとしていると、瞼が重くなってくる。
あ、これ寝るやつだ…。直感が僕にそう告げた。
……………。
ああ、まただ。
白く光るシャボン玉の中に、全身が封じ込められているみたいな感覚。
―――音が聞こえる。
力強い、波の音。
果てしなく広がっている、無限の海の囁き。
五感全てで、その心地よさに浸っているような気がする。
「……いつまで、寝てるの?」




