17話「今度こそは」
初任務をこなすべくネオールへと向かっていた私たちが馬車に揺られること約30分。
日本でもその前の世界でも馬車なんて乗ったことのなかった私にとって、1時間というのはなかなかに長かった。
半分の時点で、雲の精霊クヌトスに作ってもらったクッションを敷いているにも関わらず腰が痛い。
「……はぁ、こんなことなら馬車じゃなくて飛んで行ったほうが良かったわね……」
「まぁまぁ、これから馬車を使う機会も増えると思いますので慣れておいて損はないですよ。というか春様が飛んで行ってしまわれたら私たちついていけないじゃないですか」
「なんで私だけ飛んでいく前提なのよ、飛ぶなら二人も連れていくわ」
おいて行こうとするなんてひどいですよ!と抗議してくるリーに呆れたようにそう告げた。
「え?どうやってですか?まさか春様に背負われたりするってことですか?そんな恐れ多いこと……!」
「そんなわけないでしょ。精霊たちの力を借りるのよ」
「あぁ、なるほど!」
納得したようにリーは大きく頷いてみせた。
「あれ?ってことはもしかして私も飛べるってことですか?!」
「え、えぇ……飛べるわよ……?」
食い気味に乗り出してきたリーに押されながら答える。
するとリーは大袈裟だとは思うがキラキラと目を輝かした。
「そんなに飛んでみたいの?」
「そりゃあもちろんですよ!空なんて一度も飛んだことなんですもん!」
「……まぁ、そんなに乗り気なら帰りは飛んで帰る?」
「いいんですか!?」
嬉しそうにはしゃぐリーを見ているうちに、馬車を運転(?)していたギルから声がかかった。
「春様、もうすぐネオールが見えてきます。」
「えぇ、わかったわ。ありがとう」
予定では1時間とギルは言っていたが、45分ほどで着くことができた。
馬車から降りると、出迎えるかのように立っている人たちがいた。
「お待ちしておりました、魔女様。私はここ、ネオールの領主をしておりますホールス・シトロンと申します。」
「わざわざお出迎え感謝いたしますわ。魔女の風音春……エアル・ウィントよ。」
それじゃあ早速だけど、と話を切り出すとネオールの領主はすぐに案内してくれた。
「今、ネオールを脅かしている魔物は主にガナンと呼ばれる魔物です」
「ガナン……」
「ガナンは狼型の魔物で、瘴気の侵された牙を持っています」
この世界の魔物のことなんて微塵も知らない私に、ギルが簡単に教えてくれる。
そのおかげでなんとなく想像がついた。私は第2の世界でファンタジー系の漫画やゲームをしていたこともあったのでその知識を活かしながら頭の中で形作っていく。
「そう。それでそのガナンという魔物は大型?小型?」
「小型です。個々ならばそこまで脅威とはならないのですが、数が多く……」
「なんとなくわかったわ。ありがとう」
「いえいえ。こちらこそ要請に応じてくださってありがとうございます」
そうしているうちにどうやら着いたらしい。
戦闘音や濁ったような空気を感じる。この濁りが瘴気なのだろう。
「それじゃあさっさと行ってくるわ」
「春様、私たちもお供します!」
行こうとした私にリーが声をかけてくる。隣ではギルも頷いていた。
「……騎士であるギルならまだしも、リーは危ないわよ」
「大丈夫です、春様。これでもリーファは戦えますので」
ギルがちらりとリーに目をやると、リーはメイド服のスカートに隠れていた太ももからナイフを取り出した。
どうやらリーは戦闘メイドだったらしい。
「あなた戦えたのね……まぁ、ついてくるっていうなら止めはしないけど、私の後ろにいなさいね」
「普通は私が春様の前に立つべきなんですが……」
「いいのよギル。あなたは私の背中を守ってくれれば」
「……承知しました」
リーとは違い無表情なギルだが、渋々といった感じが声から滲み出ている。
今まで他人に守られるということがなかったのでなんだかむず痒く感じる。
が、だからこそ今度は絶対に守りきると私は心に決めた。
「ではお三方、よろしくお願いします」
領主に見送られながら森の中へと足を踏み入れる。
「リー、ギル、お願いしたいことがあるんだけど、いいかしら」
「はい!どうしましたか?」
「数が多いってことだから範囲攻撃を使いたくて。だから二人にはまず、今戦っているであろう兵士たちを避難させて欲しいの」
巻き込むわけにはいかないから、と告げると二人は頷いた。
「わかりました」
「お任せください!」
頼もしいことこの上ない。まだ数日だが、この二人の人間性はなんとなくわかってきていた。
(絶対に、傷一つつけさせない。相手がどれほどの強さを持つかはわからないけど、絶対に)
「シルフィ、ニンフ、クヌトス、ノーム、準備しておきなさい。久々に大仕事になるわよ」
ぽそっと呟くと、それに答えるように微かに風が吹いた。
戦闘音がするのはもうすぐそこ。
私は息を吸って気を引き締めた。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
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