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笑うぬいぐるみ

 とある知人に聞いた話。


 半年ほど前、彼女の弟が引越しをしたそうだ。

 手のかかる五歳児を抱えていた彼女は直接手伝いにはいかなかったが、昼過ぎに差し入れを持って弟の新居を訪れた。

 弟とその婚約者とともに差し入れのおやつで一服していると、一緒に来ていた娘が何やら抱えてやってきた。

「おじちゃん、これちょうだい」

 娘が抱えていたのは、二十センチほどの猫のぬいぐるみだった。どうやら、引越し荷物の中から発見したらしい。

「いいよ。それ、喋るんだぜ。もう電池切れてるから、入れ替えたらいいよ」

 ぬいぐるみを持ってみると、確かにお腹のあたりが硬く、機械が内蔵されているようだった。

 娘は大喜びでそのぬいぐるみを持って帰った。思った以上に気に入っているようで、しょっちゅうぬいぐるみに話しかけ、寝るときはいつも一緒だった。

 ちょうどその頃、娘は一人で寝る練習をしており、知人からしてもぬいぐるみの存在は大助かりだった。一人寝の怖さは紛れるし、ぬいぐるみに話しかけているうちに眠ってしまうようだったからだ。

 娘の話し声に混じって、時々小さな笑い声が聞こえることもあった。明らかに娘のものではない、大人の女性の声だ。ぬいぐるみの声にしては少々色気がありすぎる気がしたが、弟が切れたと言っていた電池がまだ少し残っているのだろう。そう思って気にしていなかったそうだ。

 ある日のこと。娘を幼稚園に送ってから寝室の掃除をしていると、どこからか「うふふ」と笑い声がした。

 ギョッとしたが、すぐにあのぬいぐるみだとわかった。娘の布団の上に転がってこちらを見ている。

 そうだ、今のうちに電池を入れ替えておいてあげよう。そうしたら、笑うだけではなくてしっかりおしゃべりもできるだろう。

 そう思って、知人はぬいぐるみを抱き上げ、お腹の蓋を開けた。

 中には、電池は一本も入っていなかった。


 ・・・・・・・・・


「それを見た瞬間、全身に鳥肌が立っちゃって。新聞紙で何重にも包んで、すぐにゴミに出しました。娘は帰ってから大泣きしましたけど、とにかく家に置いておきたくなかったんです」

 それはそうだろう。私は頷いた。

「後日弟に問い詰めたら、あのぬいぐるみは昔の彼女からのプレゼントだそうで… そのせいかどうかはわかりませんが、なんだか妙に納得してしまって。ようやく落ち着きましたけど、弟はフラフラといろんな方とお付き合いしてたみたいだったから」

 知人はフーッとため息をつき、長い睫毛を伏せた。

 彼女の弟に会ったことはないが、さもありなんと、納得した私だった。


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