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孤独死したドラゴンに転生した俺は、パートナーを探し求める

 飢えに耐えかね、草が生い茂る水辺で目を覚ました。




 水面には黒い鱗に覆われたトカゲ――ドラゴンが映っている。背には2対の羽と長いしっぽがあり、俺の意思に従ってユラユラと動いていた。




 角度を変えて顔つきを確認する。見てて飽きな――




「グギャァァ!!」




 完全に油断してた俺に、人間とドラゴンの記憶が流れ込んでくる!


 気絶すら許さない頭痛に俺はのたうち回り、地面が激しく振動する!




「グギャァァァァ!!!!」




 このままでは、また死んでしまう!


 そう思った瞬間、先ほどまでの出来事が夢だったかのように痛みが引く。




「グォ?」




 首を持ち上げて周囲を見渡すと、外見には変化がなかった。どうやら記憶を取り戻した時の痛みだったようだ。もう少し穏やかに取り戻したかったが……文句を言っても仕方がないか。それに悪いことばかりではない。記憶を取り戻したことで色々と分かった。どうやら今の俺には、2つの記憶があるようだ。




 1つは人間の記憶。俺の意識はその人間のようだ。そしてもう1つは、死ぬ直前までのコイツの記憶。




 欠けた記憶が正しければ、俺はドラゴンに転生したのか? この場合は憑依したといった方が正しいか? まぁ、どちらでもいいか。意識は人間、体はドラゴン。これさえ分かっていれば問題ない。




 さて行動する前に、もう少しコイツの記憶を探ってみるか。




 人間と同等以上の知能を持ち、独自のコミュニティを築いているが……どうやらコイツは、迫害されていたようだな。原因は……太陽の光を反射している黒い鱗か。ふむ。なるほど。小さい頃から迫害されて、つい最近になってコミュニティから追い出された訳だな。




 知性を持った生物の宿命なのか、コイツは孤独に耐えられず、この小さな湖で飢えて死んだようだ。この世界の頂点に位置する生物が餓死とはとんだ笑い種だ。何百、何千年という寿命を持っているんだ、いつか理解してくれるドラゴンと出会えたはずなのに。コイツは耐えられなかったのだ。




 馬鹿なヤツ。




 と、俺には思えなかった。


 知性があるからこそ迫害や孤独は、死を選ぶ理由に値する。俺にはコイツの想いが痛いほどわかる。はぁ、仕方がない。体を譲ってもらったお礼に、俺はコイツの分まで誰かと一緒に生きてやる。




 そう決意すると空腹にもかかわらず、不思議と力が満ちてくるように感じた。状況も整理できたので、この勢いで腹を満たそうと動き出そうとするが、ドラゴンの強化された聴覚が拾った話声で中断された。




「――魔物――――テイム――」




 会話の断片を聞いた途端、コイツの記憶からこの世界の情報が溢れ出してきた。情報量が多くて頭がフラフラするが、すぐに治まる。さすがドラゴン様だ。




 思い出した情報は多岐にわたるが、いま重要なのは一つだけだ。この世界の人間は、魔物をテイムする習慣がある。これはそう、犬を飼うような感覚だろうな。人間の良き隣人として、狩りをサポートして飼い主を守る。テイマーとそんな関係を築くようだ。と、そこまで考えて俺はひらめいた! コイツの鱗じゃ、ドラゴンの仲間を作るは難しい。であれば「人間を選んでもよいのでは?」と。別に恋人が欲しいわけではない。いや、いるに越したことはないが……重要なのは、共に歩む存在だ。テイマーは、その条件にピッタリとあてはまる!




 衝動に身を任せて行動に移そうとしたところで、水面に映る自分の姿が目に入った。




 黒く硬い鱗、鋭い牙、10m以上はあるデカい体。そんなドラゴンがいきなり出てきたら逃げられるか、死を覚悟して戦ってくるに違いない。少なくとも「よし! テイムしましょ!」とは、思わないだろう。まずはテイムしたくなるような……そうだなぁ。可愛らしい姿に変身でもするか。




『シェイプチェンジ』




 ドラゴンだけが使える竜魔法を使うと俺の体は光に包まれ、次第にサイズが小さくなる。数秒で人の肩に乗る程度の大きさになった。水面に映る俺の顔つきはちょっと鋭い気もするけど、まぁ、何とかなりそうだな!




 準備が整った俺は、羽を動かして声が聞こえる方へと移動する。どうやら水たまりだと思っていた場所は、森の中心ににある湖だったらしい。湖を離れ、木々を避けながらも迷うことなく確実に近づく。ドラゴンの感覚は鋭く人の気配が分かるのだ。




 俺は移動しながら初対面で良い印象を残すには、どうすればいいか考えていた。いきなり目の前に出たら、驚いて襲われるかもしれない。人間の言葉は理解できるが、体の構造的に発音ができない。説得の案は早々に捨てていた。


 うーん。行き倒れに見せかけて、ご飯を恵んでもらう作戦ならいけるか? いや、トドメを刺される可能性もあるな……。




「このっ! さっさと死になさい!」




 そんなことを考えていたら、怒声に変わっていた。慌てて近くの草むらまで駆けつける。




 視界が開けた場所には、茶色い外套を身に着けた2人の少女がいた。木製の杖と鉄製の槍を持って、いつでも戦える態勢に入っている。それも当然か。緑色の肌をした小鬼に囲まれているのだから。数は9匹。少女の足元に1体転がっているところから、恐らく最初は10匹いたのだろう。分かりやすいほど一目でピンチだと分かる状況だ。




「メリッサ!」




 杖を持つ少女が、悲鳴のような声を上げる。




 メリッサの背後にいる小鬼――コイツの知識によると、ゴブリンと呼ばれる魔物が襲い掛かる。初動が遅れたせいで受けることも回避するのも難しそうだ。だが、ドラゴンの俺ならなんとかできる。元人間として、そしてなにより人間のパートナーを作るために、ここで見殺しにするわけにはいかない。




「グァ!」




 口から出た黒い球体が、ゴブリンに向けて放たれた。




 胴体に当たると、そのまま貫通して奥の木を圧し折る。体を小さくしたため威力は落ちているはずだが、威力は俺の想像以上。さすがドラゴンといったところか。驚いているのは人間とゴブリンも同じようで、動かず俺の方をじっと見ていた。ブレスを出したことで、姿を隠していた草も消し飛んで俺の姿が丸見えのようだ。さて、どう行動するのが一番良いか? 当然、ゴブリンに敵だと思ってもらい、人間には味方だと思ってもらうことだ。なら答えは簡単だな。




 俺は再び口を開き、黒い塊を吐き出す。




「グァァァ!」




 ただし今度は連続だ。残り8匹になったゴブリンの頭を吹き飛ばしてやった。俺の動きが早かったせいか、人間は身動き一つとれない。ただ茫然と、ゴブリンの頭が破裂するのを眺めているだけだった。




「……すごい……」


「ケイト油断しないで!」




 槍を持った少女が杖を持った少女を注意する。




 ふむ。槍の少女がメリッサで、杖の層所がケイトか。よく見れば美人だな。2人とも金髪碧眼だが、杖を持ったケイトは髪が短く、目が切れ長で鋭い。身長は高く、体にフィットした麻の服を着ている。それに対しメリッサの髪は長く、目は大きくぱっちりとしている。そんな可愛らしい少女が革製の鎧を着ている。




 初めて出会った人間が美少女とは、幸先が良い。このドラゴン、実は運が良いのではないだろうか? そんな益体もないことを考えている今も彼女たちは緊張で、ほほを引きつらせているわけなんだが……どうしようか? いや悩むことはないか。俺はわざとらしくフラフラと歩き、少女の数メートル前で倒れる。




「「え?」」




 さほどまで、ゴブリンを蹂躙していたドラゴンが目の前で倒れたのだ。彼女たちが戸惑うのも無理はない。




「クゥーン」




 関心を引くために、可愛らしい声で鳴いてみた。


 それが良かったのだろう。杖を持ったケイトがゆっくりと近づいてくる。




「ねぇ。大丈夫?」




 メリッサが心配そうに声を掛ける。


 俺はケイトの足が止まらないようにと、全身の力を抜いて目をつぶり、危険がないとアピールする。




「大丈夫。この子、弱っているみたい」




 呼吸を浅く短くして弱っていることを強調すると、足音から迷いが消えた。




「さっきのブレスで力尽きたってこと?」


「そうかも。ねぇ、今ならいけるんじゃない?」




 俺の近くで足音が止まる。




「いけるね……」




 ああ。いけるとも!


 君を守るから、俺のパートナーになってくれ!




「クゥ……」




 そんな下心を隠して、弱っていることを必死にアピールしていると、ケイトの手が首元を優しく撫でる。




「クゥゥン」




 思わず吐息が漏れてしまった。想像していたより気持ちいいのだ。これはクセになる。もっと、もっと、撫でてくれ!




「カチャ」




 そうそう。もっとっ……て、え? カチャ?


 あれ? 首から全身を侵食すような魔力が流れてくる……力が思うように……出せない……。




「上手くいったようね。強そうなドラゴンだし、良い値段で売れそう!」




 ケイトが俺を抱きかかえてメリッサに近づく。


 え? テイムは? パートナーは? ペットにしてくれないの? 売られちゃうの?




「ケイト、早く街に戻って売るわよ! 今日の晩御飯は豪勢にしましょ!」




 二人の可愛らしい少女は、目を輝かせて俺のことを見つめていた。




 ねぇ。俺はこれからどうなっちゃうの!?




 首輪のせいで声すら出せない俺は、心の中で悲鳴を上げていた。

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