五話目
「蛍…?」
「あのさ、勝手に名前呼ばないでくれるかな」
「え、」
「君と仲良くなった覚えはないよ。
ねぇ、転校生君は、自分が関わることで、すべての物事が上手く回るとでも思ってるの」
「…そんなこと、思ってる訳ないだろ」
「そうだよね、じゃあなんで、僕らの関係に口を出すの。僕が兄さんと好きで離れていると思ってるの」
「傍にいたいなら、いればいいだろ!」
「君がそれを、言うの。僕から、兄さんを奪っていったくせに!」
かろうじて怒鳴らずにいたのも、もう限界だった。熱い吐息と共にどろどろした感情まで溢れてこぼれていく。
傍にいたいならいればいい、会長に言われたときは流せた言葉も、転校生に言われるのは我慢ならない。
そんな、単純じゃないんだ。
君みたいにまっすぐになんて生きていけないから、この矛盾した感情に折り合いをつけられない。
傍にいたい、でも傍にいて僕らの世界が壊れていくところをみていることも苦しい。
目頭が熱くなって、泣きそうになるのを傷ついた唇を再度噛むことで耐える。目に付く場所に傷を付けることは良くないけど、このまま泣くのは嫌だ。それこそ、本当にただの子供じゃないか。
「もう、僕に関わらないでよ。転校生」
自分でも驚くくらい低い声が出た。
今までこんなに、怒ったことってあったかな。
傷になったところをもう一度唇を強く噛んで、僕はその場を立ち去った。
八つ当たりとわかっててもおさえられない時ってありますよね