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33. 先を見据えてみよう

誤字、脱字、不備等の気になる点がありましたら、

ご指摘くださると幸いです。

 年が明けて休みの後半に入ったが、二年目を迎えた時の休みにあった怒涛の出来事を思えば、なんて平穏な休みだったことだろうか。昨年一年は年始から年末まで個人的には事件の連続だったので、ここまで何もないと逆にこれでいいものだろうかと不安になってしまいそうになった。


 昨年ボクとウェド様の果し合いに端を発した御前試合については、どうやら多くの貴族たちからも好評であったらしい。おかげで今年も近衛たちから選抜して御前試合を行い、それが賭け事の対象にされるのはもう固定行事として決められてしまったようだ。

 昨年、第一回の御前試合が行われる引き金となったボクたちには参加要請はなかったことが幸いだろうか。

 ダイナスピア団長には普段訓練ばかりで不平不満がありそうな連中も腕を見せる場ができたし、若手も序列付けができると張り切っていることや、ボクが時折訓練に混ぜてもらうことも含めて、いい刺激になって訓練にもより身が入るようになった連中も増えたと感謝されてしまった。


 そして御前試合と言えば、あの夜に始まったボクとウェド様の関係は未だに気の良い友人のままで落ち着いている。周囲は少しずつでも進展を期待している部分もあるようだが、今の関係が心地よいということもあるので、ウェド様には悪いけどまだしばらくこのままで居させて貰おうと思っている。



 ともかく、特に大きな事件もなく年始になってからの休みは終わり、ボクたちは学院の三年目を迎えた。


 さて、学院三年目といえば入学直後に説明を受けた通り、二年間の基礎学科課程も修了して各種専門学科に進むことになる。もし選ぶことが可能であったなら戦技か数理を選んでいただろうと思う。そう、選ぶ余地もなく特別学科に引き込まれることがなかったならだ……。

 定められた水準を超えた者を特別学科にするなどと知っていれば一年目二年目でもう少し手を抜いても良かったのではないだろうかと思わないでもないが、王族とその学友はまず漏れることなく特別学科の水準を満たすらしいので落ちていたならばそれはそれでやりきれなさそうではある。


 特別学科になって何をするのかといったら、座学の専門性が変わること選択した研究を行うための研究室への配属がある以外は大きく変わるものではないらしく、日がな一日研究室に閉じ籠って何か成果を求めるのかといえば別にそうではないらしい。


「特別学科なんて作らなくてもいいのにと思いませんか」

「何言ってるんですかエルさま」


 突然のエルさまの発言に特別学科棟に向かうボクら三人の視線がエルさまに集中する。


「だって(わたくし)は文芸学科が良かったのですもの」

「王族が国立学院の仕組みを否定しないで下さいよ」

「でも気持ちはわかりますわ、わたしも文芸学科には興味がありましたの」


 窘めようとすると、賛同するようにミリーさまもエルさまに続く。それを聞いてボクは思わず呆れてしまう。


「二人とも……」

「そういうシアさまだって戦技やりたかったんでしょ」


 黙っていたリーネさまがボクに向かって軽く言う。


「それだけじゃなくて数理もやってみたかったですが……、って違いますよ」

「あはは、シアさんだってやりたい方向決まってるんじゃないか。あたしも政経に進みたかったけどね、働き口に困らなそうだから」


 結局皆が皆一様にやりたいことはあったのだ。でも、何の因果か特別学科に収まってしまっている。


「別にそれぞれの学科じゃなくてもいいじゃないか、特別学科だから他の専門学科の分野に手を出してはいけない訳ではない。むしろ特別学科だからこそ、専門学科の内容に更に別の視点を加味したことが学べるだろう」


 不意に後ろから声がして、ボクたちが振り返るとアズベルトがやってきていた。そうか、そういえば彼も特別学科に進むんだったな。


「やあ、アズベルト。確かに君の言い分は最もかもしれない。それでもこの分野を突き詰めてみたいとかそういう願望はないのかな」


 エルさまたちが反応を返さないのでボクがとりあえず話を振ってみることにした。彼も特別学科に引っ張られたクチであるのだから、もし学科を選んでいたらという選択肢はあったはずだ。


「最初は数理方面を考えてはいたさ、だが、特別学科の存在を知ってからはそこに進めるようにがんばってきたつもりだよ」

「さすがアズベルトだね……」


 あっさりと告げた上に特別学科前提で学んでいたと返してきた彼に開いた口が塞がらない状況になりそうで、賞賛するのが精いっぱいだ。


「複合的な視点で学べるのが特別学科の利点だし、学びたいことを主題にした上で他の分野の知識も生かしながら学べることを思うと、他の学科に所属するより好きなことが学んだり研究したりできるかもしれないだろう」

「「なるほど……」」


 更に続けるアズベルトにボクとミリーさまとリーネさまは納得、エルさまはさすがと言わんばかりの視線をアズベルトに向けていた。

 そして棟の前で話し続けている訳にもいかないということで講義室に向かうことになった。




 特別学科に所属が決まっても最初から研究室に配属になる訳ではないようだ。前期に関しては前半で特別学科ならではの講義が一気に増え、それと同時に研究室に所属する先輩の手伝いを順番に行った上で、希望を定め、後期になってから本格的な配属となるとのこと。


 学科の人数も多くはない上に切りのいい数でもないので、班分けは任意で二人もしくは三人でということになった。

 エルさまは昨年後期のことを地味に根に持っているのかボクを牽制しつつアズベルトに組むことを依頼したようだ。別にボクはたまたま籤で決まっただけで思うところはなかったのだけど最初に比べれば二年目の終わりには随分仲良くなってしまっていた自覚があるので、強くは反論できなかった。


 ボクはというと、ミリーさまがおずおずと組むことを申し出てくれたので引き受けた。なお、リーネさまも他の面々より気心知れた相手がいいとのことでボクらと一緒だ。


「一緒の班を組むことにしたからと言っても、研究室は選択次第なんだけどね」

「それはわかってるけど、やっぱりある程度親交のある相手と一緒の方が心強いし安心できるでしょ」

「そうですわ、見知らぬとは申しませんが、やはり仲の良い相手との方が肩の力も抜いて挑むことができますしね」


 二人は揃って仲のいい相手と一緒の方が気も楽にして学べることを強調するが、そこはボクも否定する気はない。


「ボクも二人と一緒の方が気は楽かな、エルさまはアズベルトのところに行ってしまったけど、あれはあれで幸せそうだし」

「わたしもシアさまと一緒で嬉しいですわ」

「もしかしてあたしってお邪魔じゃないかい」


 ミリーさまのボクへの態度を見ながらリーネさまが尋ねてくるが、お邪魔なんてとんでもないと思う。


「リーネさまは一緒でも大丈夫ですのよ」

「ああ、むしろミリーさまと二人きりだとちょっと不安だ」

「どういうことですの、シアさま」


 ちょっとムスッとした顔をするミリーさまを宥めながら答える。


「最近ミリーさまがボクに接する距離が妙に近いのが気になってね」

「嫌……ですか」

「嫌とは言わないけど、ほどほどにして欲しいこともあるから。ほら、ミリーさま自身の評判にも関わるしね。ということで、リーネさまはミリーさまがやりすぎ無いように見ていて欲しいんだ」

「ああ、確かに引き止め役がいないとこれは駄目そうだね。シアさまの心配はわかったよ」



 班分けについては無事終わったが、三年目の講義は専門性の高いものであるということでどのような内容のものなのかは科目名からは予想しきれないものまである。

 大変なものになると専門分野を三つ以上組み合わせるものまで出てくるらしく、他学科で行う講義に比べても随分難解さは上がるらしい。


 こうしてまた新しい生活が始まったが、半年後には正式に研究室も決まって、そこからは卒業まで一直線だ。

 悔いと変なフラグの無いように、そして、卒業までにできればエルさまとアズベルトの仲を確固としたものにすることができたらと思う。今の状況を見る限りエルさまからアズベルトへの思いは十分だろうから、アズベルト側がよそ見をしなければ問題ないだろう。

ご読了どうもありがとうございました。

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