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31. フラグ管理は慎重に

誤字、脱字、不備等の気になる点がありましたら、

ご指摘くださると幸いです。

 翌日、ミリーさまがボクの滞在している部屋にやってくると笑顔で抱きしめてくる。


「シアさま、ありがとうございます」

「急にどうしたのですかミリーさま。く、苦しいですから、とりあえず離してください」


 身長差もあって胸に抱え込まれる状況では苦しいためとりあえず引き剥がして尋ねてみた。昨日までとは明らかに雰囲気が変わっている。


「昨夜、あの後お父様とお母様と話し合ってみたのです。ひとつひとつ意図を確認しながらお互いの思いを打ち明けてみた結果、どうやらお互いに誤解をしていたことがわかりまして、これからはもっとわたしの意志を尊重して物事を決めていいことになったのですわ」

「誤解……ですか」

「ええ、そうなのです。小さなころのわたしは自分の主張をしない子でしたから、それを心配した両親がわたしを取り巻く状況から最前と思うものを選んでくれていたらしいのです。

 八歳のころの園遊会のころには両親に相談することが当たり前になってしまっていたのですけど、シアさまはエルさま、リーネさまと出会って、わたしの考え方も少しずつ変わっていきました。

 両親にはそのことをはっきりと伝えていなかったがために、小さなころと同じようにわたしのことを心配してくださっていたらしいのですね。昨夜の話し合いの中で、もう小さな子供ではないこと、わたしに関することは自身で判断して決めたいことを伝えたところ、お父様にもお母様にも泣かれてしまいました。

 でも、納得してくださって、たいしたことでなければ自身で決めるお許しもいただきましたし、両親に判断を仰ぐ際にもわたしの意志を尊重してくださることをお約束いただけたのです」

「それはよかったですね。ご両親との関係も良くなったみたいですし」

「全部シアさまのおかげなのですわよ」

「ああ、だから最初のお礼に繋がるわけですか」

「そうですわ」


 ミリーさまに笑顔が戻ったというか、以前よりも明るい雰囲気になったように感じる。これでまたひとつ思い出フラグを何とかできただろう。


「状況はわかりました。でもミリーさまが悩んでいたように見えたのでお節介を焼いただけなのです。そこまで熱烈に感謝をされるほどのことはしていませんよ」

「そんなことありません。わたしの人生に大きな変革を齎してくれたのですもの」


 ミリーさまが喜んでいるのはわかる、わかるけど、ボクの腕に抱き着いてくるのはなんか違うでしょう。


「あの、ミリーさま、さすがにこの距離は近すぎませんか」

「そうでもありませんわ」

「いや、明らかにいつもより近いというか、密着しているじゃないですか」

「いけませんか」


 寂しそうな顔でボクを見ないで欲しい。ここは断固とした態度で挑まなければあまりの可愛さに流されそうになってしまう気がする。


「女同士とはいえさすがにこれは不自然だと思いますよ。少し離れましょう。ほら、椅子にお掛けになってください」

「残念ですけど、シアさまがそう言うなら……」

「突然どうしたのですか、今までは積極的に誰かに触れるようなことはいなかったと思うのですが」


 尋ねてみると、ミリーさまは頬をほんのりと染めてボクをじっと見つめてくる。変に色っぽさを感じてドキドキしてくる、違うだろうボク。


「その、もっとシアさまと仲良くなりたいなと思いまして……」

「確かにミリーさまはこれまでは一歩引いたところも少しありましたよね。エルさまみたいにとは言いませんけど、もう少し他の方とも積極的に関わっていくのもいいかもしれません」

「(……シアさま……)」

「ん、何か仰いましたか」

「あ、いいえ、なんでもないのです」

「そうですか、そろそろ朝の食事の時間ですし、皆様のところに行きましょうか」


 フォナも控えているとはいえこの状況を長く続けているとどうにかなってしまいそうで心配になってきたので食事の場への移動を促す。

 これでミリーさまがアズベルトに惹かれるイベントがひとつ潰せたのは間違いないけれど、何か不安が残るのは何故だろうか。


    ◇◆◇


 朝食後、先日話が挙がった遠乗りに行ってみようかという話になった。どうやらウェド様の予定も本日ならなんとかなるらしい。

 リーネさまだけが状況を知らなかったので改めて説明をしてみたところ、リーネさまも馬は乗れるらしいことがわかったので、ボクとミリーさま、ウェド様とエルさま、リーネさまに加えて近衛から護衛として三人派遣して貰い、計六頭の馬で出かけることになった。


 自分の馬という訳ではないが、学院で飼われていただけあって人に慣れている宮廷に来るときに乗ってきた馬を出してもらった。宮廷の馬たちと一緒に世話をして貰っているおかげか、先日より元気そうだ。

 近衛たちは当然のことながら殿下も自身で騎乗する馬を持っているらしいので、リーネさまの乗る馬だけ選ぶのに時間がかかったが、幸い相性の良いものがいたようで、すぐにしっかり乗りこなしていた。


 遠乗りの目的地は王都に水の恵みを(もたら)している湖に決まったらしい。近衛の一人が先導を、二人が殿を務め、近衛に並ぶようにウェド様がエルさまを乗せて、真ん中にミリーさまを乗せたボクとリーネさまという形で馬を走らせる。


「やっぱり早駆する馬の背は気持ちいいですわ」

「そうだね、久しぶりに乗るけど馬車よりも楽しいな」


 邪魔にならないように編み込んだ髪が馬の動きに合わせて靡いて跳ねる。


「リーネさまはどこで乗馬を覚えたのですか」

「弟たちが教わるときに一緒に、ついでだからって教えてもらったんだよ。乗れたら便利かなという程度の気持ちだったけど、こんな日が来るなんてあたしは思ってもいなかった。それよりシアさまの方がすごいと思うけどな」

「ボクの場合は先生に杖術を教わるときに併せて仕込まれました。馬上戦も仕込まれましたからね……、厳しかったですよ」


 リーネさまと話しているとウェド様が少し速度を緩めて後ろに下がり、ボクたちと並走に切り替えて話しかけてくる。


「シアは馬上戦もできるのか、初めて聞いたぞ」

「聞かれない限り吹聴するようなものでもないですよ、ウェド様」

「それもそうか、そのうちまた手合わせをしてみたいものだな」

「もう手合わせは勘弁してください。ほら、エルさまが睨んでいますよ」


 真後ろで自分に掴まっている妹の様子はわからないようなのでウェド様に状況を伝えてみる。


「仲がいいのは結構ですけど、兄上もシアさんも大怪我の恐れがあるようなことを安易に行おうとしないでください。何かあれば困るのは(わたくし)たちだけではないのですから」

「シアさまの凛々しいお姿は見てみたいですが……」

「あれ、ミリーさまはいつの間にかシアさまに惚れちゃったのかい」

「…………」

「リーネさん何を言っていますの。ミリーさんもそこで黙って頬を染めないでくださいな。女同士とか不毛ですよ」


 リーネさまが茶々を入れるがミリーさまは黙ったままだ。エルさまの言動から察するに朝みたいな状況になっているのだろうか。


「妹の学友が僕の好敵手とかはやめて欲しいのだが」

「兄上っ、そんな発言は冗談でもやめてください」


 ウェド様も軽口を叩くがエルさまがそれに怒る。そろそろミリーさまも何か言ってくれないとボクも気まずいんだけどな。


「ボクはどちらも大切な友人だと思っているのであまり変な話はやめて欲しいのですが」

「ごめんごめん、あたしが変なことを言ったのが悪かったね」


 その場ではリーネさまの謝罪でその話は流れたのだが、少々気まずかった。

 その空気はその後しばらく、湖の畔に着くまで続いたのだった。

ご読了どうもありがとうございました。

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