23. どうしてこうなった
誤字、脱字、不備等の気になる点がありましたら、ご指摘ください。
「そのような重要な物事を子供たちだけで決めるということは感心できないな」
「そうね、何の相談もなしに勝手に婿に行くなんて言われても、さすがに『はいそうですか』とは言えないわね」
部屋の入り口の方から声がいきなり聞こえた。振り返り声の方を見ると、そこにはなんと陛下と王妃様がいる。
殿下は一瞬びっくりした後に少しムスッとした顔をしたが、さすがに両親であり、国の王と王妃である二人には強気に出られない様子。押し切られてしまいそうだったボクとしては、なんともありがたい来訪だ。
「父上、どうしてここに……」
「ベルサフィア嬢が来ていると聞いたのでな。客人を宮廷のこちらの区画に招くなら挨拶でもと思ったのだよ。今日はドレス姿なのだな、髪と瞳の色によく合っている」
「陛下、本日は突然お邪魔しまして申し訳ありません」
「気にしなくてもよい、ウェドを本日訪問する予定だったという事を聞いているし、エルがこちらに引っ張って行ったという話も聞いている。
それよりもすまないな、息子と娘のわがままで振り回してしまっているようだ」
「いえ、そのようなことは「無理に否定しなくてもいい。今回の訪問自体が振り回されているようなものではないか」……、はい」
ドレス効果なのか思わず臣下の礼をとってしまったボクに、陛下は私的な場所なのだからそのようなことは気にしなくても良いというように話を続ける上に、王族にはあるまじき謝罪の言葉まで口にされてしまった。
それにしても陛下は随分とこちらの状況を把握しているようで、エルさまは変な飛び火を恐れてなのかいつの間にか少し離れた場所に移動して、傍観者の立場になってしまっている。
「非公式だったということは聞いているが、誰かに求婚するならせめて相談は欲しかったな、なあウェド」
「申し訳ありません、あの時はもう居ても立っても居られない状態だったのです」
「なるほど、だが、王族の婚姻というものの重要さ、幼いころから説いてきていたと思っているが」
「はい」
「長く平和が続いてきているために近年では多くはないが、国同士の絆を強めるために王族同士、もしくは王族と高位貴族での婚姻も考えに入れなければならないことも話していたな、覚えているか」
「はい……」
ウェド殿下に言い聞かせるように陛下は話をしているが、殿下は一言くらい両親にも話をしているものだと思っていた。
本当に殿下は両親に相談はしていなかったのだろうか。何も話していない割にはあまりに状況を把握しすぎている。
王妃様は特に気にせずに微笑みながらこの状況を眺めている。もしかすると言ってはいないものの、実は二人とも全部知っているとかそういうことなのだろうか。
「確かにベルサフィア嬢は男装していても美しい少女であるし、このような装いなら尚更だ。エルの学友筆頭に選ばれるくらいなのだから、容姿以外の点も含めてお前が惹かれるのもわからんでもない。
だが、彼女の気持ちはまだお前には向いていないらしいではないか」
「なっ、父上、もしかして先ほどの話を」
「ああ、聞かせて貰っていたよ」
「若いっていいわね。この人はあんなに情熱的なこと言ってくれないもの」
「それは後から聞くから今は黙っていてくれないか、ミア」
「わかったわよ」
話を逸らしかけた王妃様を陛下が窘めると、王妃様は肩を竦めてみせる。王室一家のノリが軽い気がするけれど、どうしたのだろう。年末年始にお世話になった時はこんなことは無かったと思うのだけど。
「ベルサフィア嬢、もう一度本心から答えて欲しい。ウェドのことをどう思っているのか」
「はい、失礼ながら友人としてお付き合いするのであれば好ましい方であるとは思っておりますが、結婚相手とは考えることはできておりません」
「友人か。我らが部屋に入る前には他にも特には意中の者は居ないようなことを話していたと記憶しているが、その点も相違ないのか」
「はい」
陛下はボクに質問をしながらも何故か時々ウェド殿下を横目に見ていたが、向き直って言った。
「だそうだ、ウェド。やはりあまり強引に婚約者にしてくれと迫るのは感心しないぞ。どうせならば友人として接しつつ、その先に進展できるか挑戦してみたらどうか」
「父上……」
「えっ……、陛下、どういう事ですか」
「婚約者も居なければ意中の相手も居ないのであれば、ウェドと友人付き合いくらいはしてやって欲しいのだ。ウェドが節度を持った態度でないならば、その隠し持った杖で叩きのめして構わんよ」
「は、はぁ……。でもボクはエルさま同様に学院に在学しているので会う機会は多いとは言えないと思いますが」
「それくらいは我もウェドもわかっているさ、だがいつまでもそのままというわけにもいかないな……。
よし、エルとベルサフィア嬢が学院を卒業して一年後までを期限としよう。それまでにウェドがベルサフィア嬢の心を振り向かせることができなければ諦めなさい。さすがにその頃にはいくら非嫡子の王子としても婚姻を結ばないのは限界だろうから、他の相手と結ばれてもらうぞ」
「わかりました、父上」
男二人が勝手に決めて勝手に納得している。ボクはどうしたものかと思い、王妃様に聞くことにした。
「その、あのようなことを決めてしまっても良いのでしょうか……」
「あら、いいのよ。女の子のエルやフィアと違ってウェドは男なのだからね。少しくらい歳を取った方が落ち着きもでて、かえって婚姻話を進めるにはいいのではないのかしら」
「そういうものなのでしょうか」
「そうよ、だからあなたは気にしなくてもいいわ」
王妃様としてはこの決定に異論はないらしい。でもいいのだろうか、王族の婚姻に関することをこんな非公式な場所で決めてしまっても。
随分重大な決定だと思うが、宰相閣下や政に携わる貴族たちはどう思うのだろう。それよりボクの立場はいったい……。
「ところで、ボクは今後どのようにすればよろしいのでしょう」
「何、気にすることはない。今まで通りエルの学友として普通に学院にて学んでくれればよい」
「たまにはエルがリューティミシアさん、あなたやミリティディアちゃんやシルヴィリネちゃんを連れて宮廷に来てくれると嬉しいかしら。あなたたちったら一年目はずっと学院に籠りっぱなしだったのですもの。せっかくエルの学友になってくれたのだから、たまには一緒にお茶を飲むくらいしたいわ。
それにウェドともせっかくだからお茶とか訓練とかしてあげて。エルもお願いね」
「分かりました、母上」
「承知しました」
そのままどうせだからとフィア殿下までわざわざお呼びして王室一家とお茶を飲むこととなったが、なんとかその日のうちに学院に戻ることができた。手続きの簡易な王室馬車様々だ。
だが、翌日の朝の会話で愕然とすることになってしまった。
「シアさん、気づいているかしら」
「何のことでしょうか、エルさま」
「あなたは結局学院を卒業して一年経つまでは兄上の唯一の婚約者候補のままよ」
「はっ……、なんてことだ、お断りに行ったはずなのに」
「何々、どういうことなの」
「わたしたちにも教えてくださいませんか」
「父上が決めてしまったのよ。もしも兄上が私たちの学院卒業後一年経つまでにシアさんの心を振り向かせることができたら結婚を許すって。
期限を過ぎてしまったら兄上は他の方と結婚することになるみたいだけどね」
「そんな面白そうなことが決まったのか」
「それではわたしたちはどちらの味方もできませんわね」
そんなこと考えてもいなかった、単なる男友達ができたとばかり思っていたよ。さすがにこれは父様や母様にどうするべきか相談してみようかな……。
なんか最近執筆に限らずずっとOfficeを起動して、ひたすらに文章を書いている気がします。お仕事でも書類作成がYAMABAなのですよ。
延々と続く文書作成と会議のおかげで知恵熱や頭使いすぎての頭痛って本当にあるんだ……ってことを社会人×年目にして初めて知りました。
悩んだ末にシアは期限付き婚約者候補となってしまいました。殿下はこれからもしばしば出てくることになると思います。
それでは、ご読了どうもありがとうございました。