19. 突然の告白に
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ウェド殿下との模擬戦の終わった夜。ボクは年明けから両親が王都に来ていたこともあって屋敷で過ごしていたが、久しぶりに宮廷で非公式の王室との晩餐に父様と母様と揃って呼ばれた。話題は当然ながらボクたちの模擬戦が中心になったことは言うまでもないか。
「今日はベルサフィア嬢には本当に楽しませてもらったな、ありがとう」
「その、こちらこそあのような盛大な場を用意していただき、ありがとうございます」
本当に機嫌が良さそうに陛下に礼を言われて、返答に困った末にボクも理由を探して礼を述べる。
「いや、今回は本当に年始として良い催しになった。それに加えて財政として益を得ることができたと財務が喜んでいたぞ」
「財務……、ですか」
「ああ、近衛たちを出すと決めたときにせっかくだから勝敗の分かりにくい組み合わせを選んで王室主催で賭事を主催してみたのだよ。実際に参加する連中は苦い顔をしていたが、勝てば特別褒賞を出すと言ったらすぐに乗り気になったぞ」
賭事は運営の仕方次第で胴元が一番儲けるのはよくある話だと思うので頷いていると、ウェド殿下が横から陛下に言葉をかける。
「父上、それは近衛たちだけの試合ですか。まさか僕はともかくベルサフィア嬢まで賭事の対象とされておりませんよね」
「あ、いやな、せっかくだからとお前たちの試合でも……」
「では、僕に勝利した彼女にも近衛同様に褒賞を与えてください。少なくとも最低限のけじめとして」
「わかった、それに否はない。用意させておく」
「あの……、よろしいのでしょうか」
「当然の権利だ。受け取るといいさ」
笑顔をボクに向けてくる殿下に、これでボクが普通に女の子だったら憧れたり赤面したりするのかなと思いつつ礼を述べる。
「ありがとうございます、ウェド殿下」
「ベルサフィア卿も今日は大勝だったと聞いているし、父娘揃って景気の良い日になったな」
「父娘そろって……」
「なっ、何を仰いますか、陛下」
褒賞が貰えることとなったボクはわかるが、ここでなぜ父様も当てはまるのだろうか。不思議そうな顔をすると、父様が途端に焦りだす。
「父様、よくわからないのですが、何があったのでしょうか」
「あら、シアちゃん聞いてなかったのね。ディルは貴女の試合で貴女に物凄い金額を賭けていたのよ」
「へえ、そうなのですか」
「そして、いくら訓練をしているとはいえ、貴女の見た目が見た目でしょう。男性としてがっしりとしている訳では無いけれど、普通の体格であるウェド殿下と比べるとどうしても弱そうに見えてしまうのもあって、倍率差が最終試合だけすごいことになっていたそうよ」
気まずそうな顔をする父様の横で、嬉しそうに話す母様。なるほど、そういうことか。
「そうなのですね、父様。如何程勝たれたのか、後ほどゆっくり聞かせてくださいね」
「あ、ああ……、わかったよ」
さすがに娘をダシにして稼いだという事実に後ろめたいものもあるのだろう、素直に父様は頷いてくれた。それともボクが短くして持っている愛用の杖を見せたことで何かあったのだろうか。
「それにしても、この歳でその強さ、ベルサフィア嬢の並々ならぬ努力があったのだろう」
「指導者に恵まれたのです。シルビノア卿の教えを受けることができましたのも父様のおかげですので」
シルビノア卿の名前と連れてきたのは父様であることを示すと、話題の矛先は父様の方へ向く。
「ベルサフィア卿はシルビノアとはどのように知り合ったのかな、長らく近衛一本だったシルビノアは騎士団関係者以外とはあまり繋がりもなかったと思うが」
「たまたまお話をするご縁がありましてね。近年は平和が続いているとはいえ我が家としても、国境に接する領地を持つ家として騎士たちを更に鍛えたいとも考えていることをお話ししたところ、引退した身で時間はあるからと快く我が家に滞在いただけたのです」
「ふむ、そうなのか。まあシルビノアはおとなしく隠居をしているような人間ではないからな。やりがいがありそうだと判断したのならじっとしていられなかったのもあるのだろう」
「おかげで本当に助かりました。娘への訓練が想像以上の成果を出していたことには驚きましたが……」
「そうだな、目を見張る動きであった。団長が近衛に欲しがっていたぞ。」
「ご勘弁くださいますようお願いいたします。僕の子供は娘一人なのですから、リューティミシアが居なくなってしまうと爵位を継がせる先がなくなってしまいます」
「何、そなたらはまだ若いのだからまだまだ子を生すことはできるだろう」
笑いながら冗談染みた形で陛下が言うも、父様はほとほと困り顔だが、母様は頬を染めるだけだった。もしかして実はもう一人子供が欲しかったりするのだろうか。
ボクは前世も含めてずっと一人っ子だったから弟でも妹でも大歓迎なんだけどな。
◇◆◇
晩餐の後、今夜は宮廷にお世話になることとなったため、湯浴みを済まして宛がわれた客室で寛いでいると、部屋のドアを叩く音がした。
誰の訪問かはわからないが、さすがに夜着そのままで迎えるわけにもいかないので、上着を羽織って軽く髪を整えてからフォナに迎え入れるように促す。
「あら殿下、ようこそいらっしゃいました」
「夜分遅い時間に済まない。女性の部屋へこんな時間に訪問するのもどうかとは思ったのだが、どうしても話しておきたくてね」
なんと訪問者はウェド殿下だった。模擬戦で得物をぶつけ合った時には何も気にした様子はなかったし、晩餐の時も何かあるようには見えなかったが、どうしたのだろう。
「どうなされたのですか。何か火急の用事でもありましたでしょうか」
「いや、そこまで急ぎで伝えなくてもとは思ったのだが、手合せを受けてくれて本当にありがとう。そして、僕も知らなかったこととはいえ父上があのような場を開くとは思わなかったのだ。見世物にするようなことになって悪かった。
今日中に礼と、あと詫びを言いたくて来てしまったのだ」
「そのようなこと、殿下に非がある訳でもないのですから気になさらずともよろしいのですけど」
「事の発端が僕だからな、これもけじめだ」
「わかりました。お礼とお詫び、お受けいたします」
王族から礼や詫びを受ける機会など、なかなかあることでもないので少々戸惑ってしまう。
「しかし、ベルサフィア嬢。君は夜には普通の格好をしているのだな。昼間が男性のような恰好をしているからとはいえ常にそういうわけでもないのか。部屋に入った直後は見違えたよ」
「あ、それはですね……」
「素直に美しいと思うぞ。それでいてあの強さだ。もし良ければだが、将来大きくなったら僕のもとにきてくれないだろうか」
「えっ……、殿下、何を仰っているのですか」
「返事は急がなくていいからゆっくり考えて答えを出してくれ」
「あっ、ちょっと。殿下、待ってくださいっ」
「それでは失礼する」
「行っちゃった……」
これは何だ。見覚えのないフラグなのだが……。意味が分からず頭が非常に混乱する。
「フォナ……、今の聞いていましたよね」
「ええ、おめでとうございます。今の殿下の発言はどう聞いても求婚でしたね」
「やっぱりそう聞こえましたよね……、軽々しくお断りするのもどうかと思いますし、どうしたらよいのでしょうか」
「王族からの求婚ですからね。よく考えて返事をしないことには……。一度奥様に相談してみては如何でしょうか」
「やっぱりそれが一番ですかねえ、まず領地に戻るまではとりあえず自分で考えてみますか」
明日には領地に向けて出発するというのに、どうしてこのタイミングでこんな大きな爆弾を背負わされることになってしまったのか。
ボクが普通の女の子であれば、あんな礼儀正しくて、美形で、心遣いができて、しかも血筋は申し分ないどころかこれ以上ない相手に求婚されて断れるとは思えない。いや、そうでもないか。ベルサフィア家としては今跡取りがボクしかいないのだから……。保留にするしかないかな……。
次回は領地に戻る予定ですが予定は未定ですね……。
学友の三人には王子からの求婚については話すべきか否か……。
それでは、ご読了どうもありがとうございました。