17. 年末の過ごし方
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ミリーさまが登城した初日、やはり宮廷での王室の方々との晩餐については彼女も戸惑いを隠せない様子だった。
だけど、晩餐での話題は近衛から陛下への報告があったのか、ボクの方にしっかりと向いていたため、それほどの苦労はなかったみたいだ。それにボクたち四人揃ってだったら知らない人だらけの学院の食堂でも平気だったからね。
ただ一点、そこで困ったのがウェド殿下の反応だった。入団間もない若手だったとはいえ、正規に配属されている近衛騎士に模擬戦の手合わせで勝ってしまったボクに強い興味を持ってしまったらしく……。
「こちらも騎士の訓練を受けたことのある身としては、ベルサフィア嬢と一度手合わせをしてみたいな」
「ウェド、何を言っているのだ。最近は訓練もしていないのにそんな事をさせられるわけないだろう」
「それに明日から年末の夜会が始まるのですから、動けなくなっては困りますわ」
「お父様、お母様、だったら年が明けて、夜会の季節が終わってからでもいいじゃないか。その間に勘が取り戻せるよう訓練も参加しよう。是が非でもやってみたいのだ。ベルサフィア嬢、受けてはくれないだろうか」
「さすがに決めかねますので陛下のご采配にお任せさせていただきます」
その後、晩餐そっちのけでしばらく陛下と殿下の問答が行われていたが、結局陛下が押し切られてしまい、近衛の修練場にてなんとボクとウェド殿下の模擬戦を行うことになってしまった。
年末年始の夜会に万一でも怪我をした姿で出るわけにはいかないということで、翌年になってからという話にはなったが、どうしたらいいのだろう。
思いもよらぬ状況に、ボクは三人と話をすることにした。
「皆さん、何か想定外の事態が発生したようなのですけど、これはどうするべきなのでしょう」
「どうしようもないと思います。お兄様はああなってしまったら止まりません」
「せっかくの機会だし、思いっきりやってしまえばいいんじゃないかな」
「いいんですかね」
「陛下たちも最終的には了承をしておりましたし、よほどのことがない限りは大丈夫なのではないでしょうか」
「もし何かあってもシアさんに責任を求めるようなことをはさせませんから安心してください」
「陛下が了承している以上は大丈夫かとは思われますが、殿下の強さが判らないのが不安ですね。団長さんに事情を説明してお話を伺うべきでしょうか」
ある程度の不安は払拭できたけど、やっぱり、模擬戦で手合せをする前に言質だけとっておいた方がいいかな……。驚いたのがボク以外の皆は気づけばなかなか乗り気だということだ。
手合わせをする本人としては、相手となる殿下の腕前もわからないまま怪我をさせるわけにもいかなければ、あからさまに手加減をするわけにもいかない事に悩んでいるのだけど、本人以外にはきっとわからない悩みなのだろう……。
ミリーさまの登城した翌日からは、宮廷は年末年始の夜会のシーズンに入った。
しかしデビュタント前のボクたちは当然ながら夜会への参加はできないので、漏れてくる舞踏曲を聞いたり、夜会に出される料理のご相伴にあずかったりをして、少しだけ夜会の雰囲気を味わっていた。
「この季節は皆が夜会に行ってしまうので過ごしていると寂しいものなのですよ」
「ああ……、この状況で部屋にひとりとなると手持無沙汰になりますよね」
「確かに、宮廷内に人は多いのに、ほとんどが夜会の方に出ていますからね」
「特にここ数年はお姉様もお兄様もデビュタントしてしまわれましたから、少数の侍女と過ごすだけだったのです。だから今年こそは楽しく年末年始を過ごしたいと思って、声をかけさせていただいたのですよ」
「そうだったのですね。ボクのところは父様も母様も昔はよく夜会に出ていたらしいですが、最近はほとんど夜会には出ていないみたいで、そういうことは感じていませんでしたが、夜会を開く側となると出ないわけにもいかないですよね」
「わたしの家の両親は招かれた夜会への参加を断ることをしませんからこの季節は家で侍女たちと過ごすことが多かったですわ」
「あたしのとこは逆に季節感とかそういうことを言っている余裕のある生活をできてないねえ」
「よければこれから毎年この季節は宮廷で過ごされませんか」
「もしご迷惑でなければ、それは面白そうですね」
学院での生活を通して四人で過ごすことが当たり前になっていることもあって、この提案は是非もなく賛同してしまった。
それぞれ実家にいても特にイベントなどはないだろうし、せっかく機会だから宮廷で過ごさせていただくのもいいだろう。今回が前例になったので宮廷で過ごす許可も得やすいことだろう。
◇◆◇
今年も残すところ本日だけとなり、課程は修了しているとはいえ、学院の一年目の年がとうとう終わるということで、一年の反省をしてみようという事になり、エルさまの部屋でお茶会兼夕食会をしながら話をしている。
「今年もとうとう終わりですわね」
「学院一年目ということで、新鮮な体験が多い年でしたね」
「思っていたよりも講義が難しく無かったのが救いだったよ」
「あら、そう言ってもあの講義や試験はある程度は難解だったみたいですわよ」
「そうなのか」
「リーネさまは周りにあまり興味がないみたいで覚えてないのかも知れませんが、試験の前後で苦労したり、結果発表で気落ちしたりしている方もいらっしゃいましたわ」
「そうですね、確かにそういう方もいましたね」
「でも、講義の事よりはシアさんに対する周囲の雰囲気の方が私は印象深かったですね」
「ああ、それはあたしも覚えているよ。男装を始めてから周りの反応が大きく変わったね」
「さすがにこれはリーネさんも気づいていましたね」
「ボクが言うのもどうかと思うけど、これで気づいてなかったらどうしたものかと思うよ」
「なにそれ、ちょっと酷くないかい」
「劇的な変化でしたからね」
「ボクとしては未だにちょっと不本意なのですけどね」
「シアさまの背がもっと伸びればまた印象は変わりそうなものなのですけどね」
「確かに周りから見ても頭ひとつ低いからね、可愛い印象を持たれてもしょうがないさ」
「もう少し凛々しい印象があってもいいと思うのだけどね」
やっぱりもう少し成長したいということが、最終的にボクの来年に向けての抱負になりそうだ。記憶にあるゲームの中のリューティミシアは少なくとも今みたいに同年代の相手から見ても背が低いというようなことはなかったと思うのだ。ああ、早く成長したい……。
今年の更新はこれで最後になりますが、来年もお読みいただけると幸いです。
連載を始めた当初はどうなることかと思っていましたが、
相変わらずどうなるかわからず、探り探りで書いている日々です。
一応こういう完結をしたい……、という展望というか、願望はあるので、
そこに向けて一歩一歩、少しずつ進んでいきたいと考えています。
それでは、ご読了どうもありがとうございました。