16. 近衛と訓練を
誤字、脱字、不備等気になる点がありましたら、ご指摘よろしくお願いします。
宮廷での晩餐ということで身支度をして向かった先、我が家と比べるまでもない立派な食堂で席に着き、随分大きなテーブルだなと思っていた。だが、エルさまと一緒に食べるのだから当然といえば当然なのかもしれないが、そこへ陛下や王妃様、エルさまの兄君である王子殿下と姉君である第一王女殿下という面々までやってきて一緒に食事を取ることになってしまう。
『公式な晩餐会ではないし、我ら家族とエルの学友だけなのだから緊張しなくても良い。直奏がどうだとかも気にしなくて良いからな』と陛下に言われてしまった。挨拶だけは取り乱さずに行うことができたが、気にするなと言われようが、緊張するなと言われようが、さすがにすぐには無理な状況というものだ。
ボクの強張った表情を察したリーネさまは思わずこちらを見て苦笑しては肩を竦めていた。どうやら昨日もこのような形の晩餐であったらしい。すぐに年末年始の夜会の時期となるのでエルさま以外はそちらに出向くことになるとはいえ、あと数日はこの状況だとか。思わぬ大きなイベントにボクは内心大きな溜息を吐いてしまった。
幸いにしてテーブルマナー等についてはしっかり仕込まれているので粗相については気にするほどではないが、本当に“男性衣装を着こんだ姿”で良いのだろうかという点の方が不安になる。
「エルからの手紙で知ってはいたが、本当にベルサフィア嬢は男装をしているのだね」
「本当ね、でもとても似合っているわ。凛々しくもかわいらしくて、これなら見惚れる子が出るのも頷けるわね」
「でしょう、お父様、お母様。学院では今のような髪形ではなく、編み込んで短髪に見えるように仕上げたりもしているわよね」
「ええ、ボクの体格のこともあるのですけど、髪をしっかりまとめていないと身体の動きの邪魔になってしまいますから」
「そういえばベルサフィア嬢は騎士の訓練をしているのだったね。どうだい、近衛の訓練にも参加してみるかい」
「それは、是非参加してみたいと思いますが、よろしいのですか」
「何、時にはウェドも参加しているくらいだからな、少しくらい構わないだろう。騎士団長にも話をしておこう」
「はいっ、ありがとうございます。領地ではシルビノア様に指導を受けておりましたが、卿は近衛の指南役もやられていたとお聞きしておりますし、言わば同じ師に教えを受けた先達の皆さまなのですよね」
変なところで妙な縁が結ばれたと思うが、近衛騎士団の人たちを領地で指導してくれたシルビノア先生の教え子と考えると、先輩にあたる人たちなんだと思えたので何とかなる気がしてくるのが不思議だ。
「そうだな、シルビノアは先王の時代に近衛の長を務めていたが、騎士団引退後も後進の指導に当たっていた。ここ数年で入団したもの以外は彼の教え子とも言えるだろうから確かにベルサフィア嬢の先達と言えるかもしれないな」
ボクの男装話から思わぬ方向に話が進み、丁度よい晩餐の話題となる。話題の中心に自身が居るというのはむず痒いものがあるけど、重苦しい沈黙に包まれるより断然よい状況なので甘んじて受け入れることにした。
◇◆◇
翌日、ボクは晩餐の席で話が出た通り、騎士たちが訓練を行っている修練場を訪れてみた。実家での準備の時にフォナには訓練着なんて持っていってもどうせ無駄になるなんて言われていたけど、持ってきてみるものだ。
エルさまとリーネさまもどうせすることもないからと見学にやってきて物珍しそうにしている。
どうやら本当に陛下は話を通していてくれたらしく、騎士団長らしき人が声をかけてくれた。
「やあ、貴女が陛下から話のあったお嬢さんかな」
「多分その話はボクのことだと思います」
「自分は近衛騎士団の団長を任されているラフィロート・ダイナスピアだ、よろしく」
「リューティミシア・ベルサフィアと申します、若輩者ですがよろしくお願いいたします」
「なんでも近衛の訓練を受けてみたいと聞いているが」
「はい、実家の騎士団でも指導を受けながらの訓練をしていました」
「じゃあとりあえず基礎鍛錬からやってみて貰おう、大丈夫かな」
示された鍛錬内容はシルビノア先生から指導を受けていた時よりも幾分軽いものだった。
「ええ、問題ありません。この内容であれば実家でやっていたものより軽いくらいですね」
「ほう、家の方ではどの程度のことをやっていたのかね」
問われたことに対して簡潔に答えたところ、ダイナスピア卿の顔つきが若干変わった気がする。
「その若さでその内容をこなせるのかね」
「最初はきつかったですけれど、今はもう大丈夫です」
「ちなみにその鍛錬内容を指示したのはどなたなのか聞いてもいいかな」
「ご存じの方とは思いますが、アシュケルーク・シルビノア卿です」
「(なっ……、)そうか、懐かしいな。卿には入団当時から随分と厳しく鍛えられたよ、だが、なかなか慣れられるものでもなかったな」
「ボクも慣れるまで随分とかかりました、厳しい方ですよね……」
会話の内容は共通のはずなのに、ボクとダイナスピア卿の実感具合には多少違いがある気がしてしまったが、そこは気づかなかったことにしておこう。
シルビノア先生の訓練を受けていることが相手にも分かり、内容は実家の時と同じもので問題ないという話もされたので早速取り掛かってみた。
場所があるときはしっかりしたものを、そうでないときでも屋内でできる内容で鍛錬を続けていただけに、成長期に差し掛かり始めたボクは以前よりもよいペースで同じ内容を終えられた。
騎士団の皆さんの動きを見ていても、実はボクの能力もそんなに酷いものじゃないのかもしれないと感じたが、武器を使った模擬戦に混ざらせてもらった時に、入団一年目二年目の若手を負かしてしまったことで想定以上であることが判明してしまい、学院を出たら近衛に入らないかと勧誘を受けるまでいってしまったのは大きな驚きだった。
「これまで訓練してるって話しか聞いてなかったから詳しくは知らなかったけど、シアさまって本当にすごいな」
「そうよね、リーネさん。これなら本当に何かあった時守っていただけそう。頼もしいわね」
「はは……、そんなことよりそろそろミリーさまがやってくるのではないかな」
「ああ、そうよね。ちょうどいい時間みたいね。このまま出迎えに行きましょうか」
そういえば実際に訓練の様子は見せたことがなかったなと思いながら、昨日自分も出迎えを受けた広間へ向かう。その途中でミリーさまの連絡を受けた先触れの侍従と会い、本当にちょうど良い時間であったことに思わず三人で笑ってしまう。
広間についた時、ちょうどその先に馬車が付いたのが見えた。
「あら……、皆さんお久しぶりですわ。こんなところまで出ていらっしゃったのですか」
「ミリーさんお久しぶりですわ」
「やあ、ミリーさま」
「お久しぶりですミリーさま。やっぱり驚きますよね。ボクも昨日同じように出迎えられてびっくりしたのですよ」
「だってエルさまがどうせ会いに行くのだから直接迎えたっていいじゃないって聞かなかったんだよ」
「あら、だってその通りじゃない」
久しぶりに四人揃い、やっぱり全員居た方が場所は違えども空気は馴染むものなんだなと胸の奥で思ったのだ。
当然といえば当然ですが、舞台は地球じゃないのでクリスマスではありません。
それでは、ご読了どうもありがとうございました。
◇◆◇今回初登場の人物◇◆◇
■エトリミア・ディアミナティス
エルフィリシーナの母親、ディアミナティス王国の王妃様
■フィアネミリア・ディアミナティス
ディアミナティス王室の長女で第一王女、エルフィリシーナの姉、長子
■ウェドルーク・ディアミナティス
ディアミナティス王室の長男で第一王子、エルフィリシーナの兄
■ラフィロート・ダイナスピア
宮廷近衛騎士団の団長。シルビノア卿に厳しくされ過ぎて実は少しトラウマな人。




