15. 年末の宮廷へ
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一年も残すところあと少しとなったある日。王都には入ったものの、旅装でそのまま宮廷に向かう訳にもいかず、身支度を整えるためにボクは第二の家である王都側の屋敷に入った。
フォナと最低限の護衛を連れての道中は幸いにも平穏無事なものだったと思う。
「王都の屋敷に来るのは学院入学前以来ですね。皆さんおかわり無いようでなによりです。
今回の滞在は宮廷になりますからその準備のための短時間の滞在となってしまいますが、年明けには父様や母様も参りますし、よろしくお願いします」
「シア様、お久しぶりでございます。旦那様の年明けの滞在は恒例となっておりますので準備も進めておりますのでご安心ください。奥様がいらっしゃることも文にて承っております」
久しぶりに会う王都の使用人たちとも挨拶を交わし、準備の前に休憩時間をとりながら、今回の道中を思う。
遠距離の移動で一番困るのが道中の訓練に困る事という点がどのようにボクが育っているのかを如実に表している気がする。特に今回は向かう先が宮廷ということもあって、家紋の入った貴族としての馬車で向かっていたために、適当な装いでいることができないのはともかく、動きにくい令嬢の格好をすることがいつの間にか苦痛のタネになっていた自分には辟易してしまった。
他ごとを考えながら準備をしていたら荷造りは終わってしまっていたようだ。あとは着替えて馬車で宮廷に向かうばかり。そろそろ先触れを出してエルさまに訪問を知らせておこう。
「フォナ、宮廷に向かう際の着替えなのだけど」
「どうかされましたか」
「男性用の礼服で行こうと思います」
「それは……大丈夫なのですか」
「エルさまも学院から陛下とのお手紙のやり取りをされていたようですが、その中にボクの装いの事も書いてしまっているらしいので多分大丈夫です」
「学院では男装で長期間過ごしていたせいかドレスは動きにくくて嫌いになってきたのが困りますね。男装を始める前は気にならなかったはずなのですけど」
「その言葉、公の場では絶対にやめてくださいね。シア様はベルサフィア家の嫡女なのですから……、場合によっては婿の貰い先がなくなります。そうなるとお家の危機になってしまいますよ」
「……。何度も言うようですが、ボクはまだ結婚は考えていません。フォナもそこはまだ考えないようにして欲しいです」
そんなやりとりをしつつも正装──もちろんボクのサイズに合わせた男性服だ──への着替えを済ませ、登城と滞在の荷物の準備を済ませた馬車へ向かう。当然フォナも伴ってだ。
◇◆◇
宮廷に到着したボクたちを出迎えたのはエルさまとリーネさまだった。先触れを出していたとはいえ、第二王女であるエルさまが直々に出迎えに現れるとは予想していなかった。
「シアさん、お久しぶりです。ようこそいらっしゃいました、といってもシアさんは一度泊まっていかれましたよね」
「お久しぶりです。あれは事故ですから、正式に中に招かれるのは今回が初めてですよ」
「ふふっ、そうかもしれません」
「シアさまお久しぶり。と言っても三週も経ってないから入学前のお茶会の間隔よりも短いのだけど」
「リーネさまもお久しぶり。既に到着していらっしゃったのですね」
「それにしてもエルさまがお出迎えに出てこられるとは思いませんでした」
「学院の生活に慣れてしまったからなのか、四人居ないと手持無沙汰になってしまうのですよ」
「二人だと話すことにも限りはあるしね」
「それはわかります。ボクも領地に帰っているときはそうなるかもしれませんでした」
「なるかもしれなかったということは、実際には違ったのかしら」
「ええ、母様にお茶とマナーの特訓をつけられて、休むどころではありませんでした」
「いいお母様じゃない、羨ましいくらいよ」
「ああ、うちも母上がいつも忙しそうにしているからね。兄弟姉妹でお互いに遊んだり勉強したりが多かったよ」
「いつまでもここに居るのもどうかと思うのですが、ミリーさまは未だ到着されていないのですか」
「ミリーさんは明日の夕刻に参られるそうですよ」
「荷物持たせたまま待機させるのも悪いし、そろそろ客室の方へあがろうか」
いくら使用人は主人に仕えるのが仕事とはいえ荷物を持ったまま延々待たせるのは申し訳ないので宮廷内に入る提案をする。ミリーさまの家の領地はボクのところよりも王都に近いと思っていたのだけど、どうやら到着タイミングがずれてしまったらしい。
そして歩きながら聞けば、リーネさまはなんと実家にはほとんど滞在せずそのまま宮廷に来てしまったのだとか。実家には実家の事情があるとはいえ、ほとんど荷物を纏めるためだけに実家に戻るその豪気さ、ボクには真似できそうにありません。むしろうちの場合は両親がそれを許さないでしょう。
普通なら来客対応係の侍女なりがするのであろう客室への案内をエルさまが直々に行うということの異常性を認識しているのが何故この場でボクだけなのだろう。
エルさまはそれが当然という顔で先導しているし、リーネさまも普通に会話している。フォナはボクの使用人であるから当然ボクの後ろをついて歩いている。時折すれ違う侍女たちも何故この状況に疑問を持たないのだ……。
一介の貴族の屋敷で主人やその家族に客室に案内されるのも相当であるとは思うが、それとは訳が違う。王都の王族の住まう宮廷で王族に案内されているってどんな賓客待遇だよと叫びたい気持ちでいっぱいになる。
無事に(?)客室まで案内されきった時は、身分関係にうるさそうな人に見つかったら何を言われるかというビクビクした気持ちから解放されて思わず息を吐いた。
「エルさま、普通は客室への案内って侍女がするものではないのでしょうか」
「そのようなこと気にしなくてもいいじゃないの、どうせ私も向かうのだからこの方が早いわ」
「そういえば、あたしは先触れ出し忘れてたから客室に案内されてからエルさまが来たね」
「それもどうかと思うのです。王族が来客の元へ出向くなど、どのような賓客待遇ですか」
「まあまあ、シアさま。そんなに言わなくてもいいじゃない」
「でもこれを他の貴族が見たら王族の権威を疑われます」
「どうせ私は王位を継がないと思うからそんなに気にしなくてもいいと思うわよ」
「継ぐとか継がないとかの問題ではないのですが……」
「使用人の身で言葉を挟む不敬お許しください。僭越ながら、今シア様が仰っていることは少し言葉を変えれば私どもがシア様に進言させていただいていることとあまり変わらないと思われます」
「えっ」
「シア様の既に癖と言って差し支えないであろう男装癖と、婚姻に関する話題でございます。話題に挙げるたびに理由をつけて逃げようとなさいますからね」
フォナに痛いところを指摘されて困ってしまう。最近は男装して過ごしていることが普通になっているのもあり、意識が男性よりになっているのもある。そのおかげで本当に結婚したくなくなってきているのだから……。
「とっ、とりあえず、滞在用の荷解きをしてしまいますね。フォナ、手伝ってください」
「(シア様、また逃げましたね……)」
無理矢理な話題の逸らし方になってしまったが、実際にさっさと済ませなければならないことなので仕方がない。荷解きが終わったところで良い時間となったため、またもやエルさまに案内されて晩餐の場へと向かうこととなったのだった。
宮廷でどのような出来事を発生させようかプロットもなければ計画性もない私なのでまだまだ考え中なのです。次話は来週半ばには投稿したいですね。
それでは、ご読了どうもありがとうございました。




