14. 久しぶりの帰省で
お待たせしました。
誤字、脱字、不備等気になる点がありましたら、ご指摘よろしくお願いします。
領地への道程にも事件や事故などなく無事に帰省できた。
家に戻って翌日。帰路の途上でフォナと話したことを実現するために、母様に話をしに向かう。お菓子とかお茶とか、やりたいと言ってもやらせて貰えなかったのは年齢に原因があるにしても、使用人がやることだと嘘を教えていたなんて……。
「母様、説明をお伺いしたいのですが」
「あら、なんのことかしら」
「幼い頃、お菓子を作ってみたいとか、お茶を淹れてみたいとか、そういうことを申し上げたときに、そういうことは使用人に全部任せればいいというようなことを仰っていましたが、実は母様はお茶を淹れることが趣味であるとお聞きしました」
「あらあら、誰から聞いたの」
「フォナからです。ボクもそういうことをしても危なくない歳になったということも含み、教えていただきました。それ以前は嘘を教えていたとも。なので、お菓子作りやお茶を教えていただきたいのです」
「全くあの子は……。まあいいでしょう、お菓子は調理の職人に習えばいいわ。でもお茶は私が教えるからね。完璧にならないと合格を出さないわよ」
「あの、お手柔らかにお願いします……」
思った以上に母様はスパルタだった。
普段のんびりしている雰囲気と、教える時の雰囲気がかけ離れている。普通に見ている分には変わらないのだが、何かミスをした時の指摘の声がとても鋭く、注意されるたびにビクッと身体が反応してしまう。いつも母様の意見に譲歩する姿勢を崩さない比較的温厚な父様と、おっとりしている母様の間に夫婦喧嘩とか譲れないことないのかなと以前思ったことがあったけど、その原因の片鱗を垣間見た。ボクの母様ってこんな一面もあったんだと初めて知りました。
結果、時節による茶葉の違いや道具へ違いのこだわりは勿論のこと、沸かす湯の量、蒸らす時間、そしてカップへの注ぎ方に至るまで手厳しくひとつひとつ教え込まれて、合格が貰えたのは宮廷に向かうことになる直前のことでした。
合格が貰えて本当に良かった。合格を貰えるまでは注意をする瞬間の目が光るような怖い母様を夢に何度か見たもの……。
一方、お菓子作りについては我が家の厨房の責任者をしている調理室長が直々に教えてくれた。教えてもらえるお菓子は当然この世界のこの国のお菓子ばかりだ。
この世界のお菓子は基本的に焼いたものばかり、クッキーやスコーンをはじめとして、ケーキと言えばパンケーキ、味の付け方の変化としてジャムはあるけど、なんかどれも代わり映えがしない。
プリンが恋しい。クリームを使ったお菓子が恋しい。カップケーキが恋しい。甘いものは前世も現世も変わらず好きなボク。今は一方的に教わることしかできないし、勝手に動くと注意されてしまうけど、いつか絶対作りたい。そんなことをひそかに決意したのです。
そうそう、宮廷に年末年始に滞在させていただく件については、帰省後すぐに話してみたけれど、父様も母様も驚くほど呆気なく了承してくれた。
リーネさまが一足先に滞在しているであろうことをはじめとして、学友の皆と一緒であることは一応伝えたものの、伝える前から了承な雰囲気。
『年始には自分たちも挨拶にお伺いするからその時には一緒に居るように』と釘は刺されたが、それくらいなら些細なことだ。
でも、そのついでと言わんばかりに今まで見逃して貰えていた礼節や立ち振る舞いについて、宮廷で過ごすならと短期集中でみっちり指導されたのは大きな誤算でした。しかも、母様から直々にお茶を淹れる練習と一緒に朝早くから昼までみっちりです。午後は自由な時間がもらえたけど、そうじゃなかったら倒れていたかも。頭で覚えるよりもむしろからだに覚えさせられた感じがする……。
帰省にあたって、一番楽しみにしていたのは領地の子供たちとの時間だ。入学前以来の子供たちとの時間も無事にとることができた。
さすがに子供たちの1年は大きい。年長組の中には既に働き出して輪から抜けた人たちも居れば、今までは親の後ろをついて歩いていた子が仲間に入っていたりする。顔を知っている子たちもどことなく大きくなっているようだ。
「みんな、久しぶり。ずっと会えなかったけど元気だったかな」
「シアさまひさしぶりー」
「お久しぶりです。シア様」
「少し顔ぶれが変わっているけどやっぱり大きい子は家の仕事手伝ったりしているのかな」
「うん、お店の手伝いしたりしてるみたい」
「あとね、シア様の訓練受けてから騎士団に入ろうとがんばってる子もいるの」
なんと話を聞いてみると、入学前のボクの模擬訓練を受けた後、やってみようと意気込んで、実家の後継ぎになれなさそうな子供たちが自主的に訓練を始めていたらしい。あの時教えたのは基礎体力をつける程度のものではあったのだが、監督者なしにやりすぎてはいけないことも併せて教えておけばよかっただろうか。
幸いにして、ケガをするとかそういうことは今まで起こっては居ないらしいけど注意はしておこう。
「あの時はボクが皆に教えながら見ていたけど、訓練に参加せずに見守る役の人、できれば大人の人の方がいいのだけど、難しければ年上の子が交代で問題が起こらないかの確認と何かあったらすぐに人を呼べるようにしておかないと駄目だよ。
今のところ問題は起きてないからいいけど、急に運動したりとか、無茶したりすると事故が起こったりしてもいけないからね。
困ったら今一緒についてきているシェディが騎士団に居るから、そこに行って子供用の訓練場所何とかしてもらうから。いいよね、シェディ」
「そうなんだ……、ごめんなさいシア様」
「これからやるときは気をつけるようにしますシア様」
「シア様……、勝手に決められても……、でも、子供たちのためじゃあしょうがないですよね。わかりましたよ」
「みんな分かってくれれば大丈夫ね。問題ないとは思うけど顔ぶれも変わって小さい子もまた来るようになっているみたいだから、ちゃんと気を付けるんだよ」
「「うんっ」」
返事だけは元気な子供とはいえ、やっぱり子供たちを触れ合うのは楽しい。学院に行くようになって同年代の知り合いも増えたけど、小さなころからの馴染みの子供たちはやっぱり別だ。
◇◆◇
年末が少しずつ近づいてきて宮廷に向かう準備を考える時期になった。王城の使用人にボクの世話をさせる訳にはいかないということでフォナも同行をさせることにしよう。
「いくら宮廷にお招きいただくとはいえ、すべて宮廷で賄ってもらうのも申し訳ないよねってことで、フォナ、貴女も一緒に宮廷に行くよ」
「え、私もですか。年末年始はシア様が宮廷へお出かけになるのでゆっくりしていいって旦那様から聞いていたのですけど」
「ボクの傍にいるのはやっぱりフォナじゃないともう落ち着かないからさ、いっそ一緒にお茶したりすればいいじゃない。休憩くらいボクが居てもとっていいからさ」
「もう……しょうがありませんね。シア様」
「ありがと、頼むよ、フォナ。そうと決まれば準備しちゃおうか」
多少強引だったけど、無事にフォナを説得できたので宮廷に向かう準備に入る。とはいえ、基本的に全ての荷物が必要な旅行と違い、道中が何とかなる程度の荷物と、宮廷で着るのに不足のない服だけだけども。
こういうとき着回しの利く男性の衣服の方が便利だなって思う。夜会用ではないとはいえ同じドレスを短期間で着ないというのはどうも荷物が増えるから未だに慣れない。
そうだ、次戻ってくるのは年明けだし、子供たちにお土産あった方がいいかな。王都で何か見繕ってこよう。
次回は年末の宮廷で過ごすシアと学友たちが書けたらいいな……。
それでは、ご読了どうもありがとうございました。