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僕は宮廷魔導師  作者: ゆうき
日常と非日常と
4/20

4話(改) 僕の魔法は噴水らしい

「そうだカズキ君。良かったらボスの討伐に付き合わないか?」


 クルッポを狩り尽くした後、僕はドラゴンフォースのメンバーと共に最下層への入り口の手前で休憩を取っていた。そんな時いきなりガルドからボス討伐のお誘いがかかる。


「……ボス、ですか? あの、僕、レベルが」


 ボスかぁ……このステってインファイトタイプだからあんまりボスは得意じゃないんだよなぁ。


「あー……そういえばカズキって98だったわね。デスペナが怖い?」


「……えと、大丈夫、ですけど」


 正直に言うと、あんまり行きたくは無い。デスペナを貰うと、頑張って稼いだ経験値が電子の彼方に消え去ってしまうからだ


「カズキくん。私達ドラゴンフォースのメンバーは皆あなたの友達よ? 一緒に行くメンバーも居る事だし、カズキくんがいいと思うなら是非参加して欲しいなぁ」


「……はい」


 エレナ達が気を使って狩りに誘ってくれるのは有りがたいけど。ううむ、どうしよう……。


 

 時間だけが過ぎて行く中、僕は未だに決めかねて居た。このダンジョンのボスは強い方ではない。だけど僕のHPだと、相手の攻撃が掠っただけで致命傷になり兼ねない。 


「さて、MVPが湧くまで後5分弱と言った所か……カズキ君、どうする?」


「……お世話になります」


 ぺこり。とりあえず前衛の中に混じって撹乱兼火力として戦えば大丈夫だろう。


「分かった。それじゃあ即席だけどカズキ君は前衛PTに混じって戦ってくれ。隙を見てクロックマスターに最大火力で魔法をぶち込んでくれ」


「……は、はい」


「ほーらカズキ役割が決まったんだからさっさと準備しなさいよ! もう時間無いわよ!」


「ち、ちょっと待って下さい。今装備を変えますから……」


 とは言っても、変更するのはアクセサリーだけだ。知恵の女神の指輪からタリスマンに変更する。このアクセサリーは、死んだ時一度だけデスペナルティを回避してくれるアクセサリーだ。レアのランクはBだけど、それなりに需要がある為そこそこの値段がする。


「時間が無いから急いでくれ。……いくらカズキ君が下位職とはいえ、殲滅力だけを見たら一流だからな。これなら意外とアッサリ討伐できるかもしれない」


「……あの、死にそうになったら……に、逃げてもいいですか?」


 99を目前にボス狩りなど狂気の沙汰だ。


 アースガルドオンラインでは、ダンジョンで一度死ぬと、経験値が必要経験値の5%減る。俗に言うデスペナルティという奴だ。


 5%を取り戻すとなると……結構かかるなぁ。


「構わないさ。そもそも98でボスの討伐PTに参加するのが異常なんだ。タリスマンは装備してるんだろう?」


「……はい。でも、これ1個しかないんで……」


 逃げる云々に関してガルドは何も言わなかったけど、遠慮なく逃げさせて貰おうよ。そこらへんは、きっちりしないとね。


「ガルド、私達はカズキのサポートに回るわ。」


「それが賢明だな。俺達とカズキで撹乱、隙があったら攻撃。エレナとキリアとアンジェラはカズキ君のサポート。まぁ、これなら負ける事はないだろう」


「ガルドさん、あの、ボスの情報を……」


「ああ、今そっちに転送する」


 数秒もしないうちに僕のメッセージBOXに反応があった。早速ボスの情報を見る事にする。



名前:クロックマスター


HP:????

MP:????


弱点:火

耐性:土


 使用スキル:アースドライブ、アースクエイク、グランドブレイク、HP回復、薙ぎ払い、連続攻撃



 なるほどなるほど。てことは火属性の攻撃は1.5倍になる……と。よし。それならアクセサリーを交換する必要があるな。


 僕はタリスマンを外し、巾着袋から紅く輝く宝石が埋め込まれた腕輪を装着した。


 よく考えてみたら、死にそうになった時だけタリスマンに変更すれば問題ないよね。だったら攻撃時は火力の底上げをした方が良さそうだ。


「……驚いたな。まさか「イフリートの腕輪」を持っているとは思わなかったぞ」


「「「イフリートの腕輪ぁ!?」」」


 紹介しよう!


 イフリートの腕輪とは、火属性魔法の最終ダメージを1.5倍にするという、とんでもないアクセサリーだ。


 効果から分かる様に、上位のMVPボスが1%の確率でドロップする、A級のレア。その相場は、80Mとも100Mとも言われている。


「……は、はい。誰も買わなかったから……あの、65mで僕が買いました」


「それって、一か月位前に大通りで立っていた売りチャよね。……あれ買ったのカズキだったのかぁ」


「カズキくんってお金持ちなのね……」


 そりゃ、誰だって一週間に150個とかオリデライト鉱石を売り払っていたらお金は溜まるさ。MPポーション代は収集品売ったりしたお金で賄ってたからね、それに加えて時々出るレアが良い値段で売れるんだ。


「あ、あとシルフとウンディーネとノームの腕輪も有ります」


「……てことはあれか? カズキ君は4属性が弱点のボスだったら常識を逸脱した火力を出す事ができると」


「そうなるね」


 開いた口が塞がらないガルド達を見て、僕は思わず心の中で苦笑いを浮かべてしまった。


一人目のキャラを99まで育てたんだ。それくらい資金はあるさ。


 ちなみに、ドラゴンフォースのメンバーは僕がレベル99のキャラを持っているという事を知らない。話したら余計めんどくさそうな事になるし、今のキャラクターが気に入っているから今更稼働するつもりもない。


 まぁ、エレナは鋭いから薄々感づいてるかもしれない。バレたとしても出さないけどね。絶対。


 そんなこんなでボスが湧く時間まで@1分となった所で、行き成り轟音と閃光が鳴り響いた。くそっ、PKギルドがチャフを投げてきたか!?


 油断していた僕はモロに喰らってしまい、盲目の状態異常になってしまった。これ解毒薬じゃ治らないんだよな……万能薬どこにやったか。


 


 ごそごそと巾着を漁っていたら、行き成り僕を3方向から柔らかい物体が迫ってきた。ちょ、圧殺される。


「カズキ、目が治るまで動かないでよ」


「カズキくん、私達が守るからね」


「カズくん、ちょっと動かないでね~」


 声から察するにエレナ、キリア、アンジェラの3人か。


 恐らく、彼女達が無事だったのは竜人族だったからだと思う。竜人族は他の種族に比べて状態異常耐性も高い。今回はそれが功を奏した訳だけど、あんまり敵には回したくないよね……。


 徐々に目が慣れてくると、そこにはドラゴンフォースのメンバーがクルッポと乱戦を繰り広げる光景が浮かんでいた。


「くそっ、あいつら敵を集めるだけ集めて擦り付けやがった! 俺達が相手してる間にボスを倒すって算段か……!」


 擦り付け……MMORPG全般でノーマナー行為として有名だ。倒せなかった敵や、外道の敵を他人に擦り付ける。これがあまりにも酷いとGMから勧告が来る。それでも止めないと、一週間ログインが禁止される。


 今回の一件については、前々から議論が成されていた。ボスを奪う為の戦略だと主張するプレイヤーもいれば、れっきとしたノーマナーだと主張するプレイヤーもいる。話は平行線の一途を辿っているらしい。


 話には聞いていたけど、実際やられると腹が立つな……イラッと来た。


「か、カズくん……何か黒いオーラが出てるけど~……」


「……くははっ」


 この怒りはクルッポと対抗クランにぶつけてやればいい……。集中しろ。心は熱く、頭は冷静に……。さぁ、イライラ解消タイムの幕開けだ。



 カズキが歪んだ笑みを浮かべてすぐに、彼を護衛するエレナ、キリア、そしてアンジェラの3人は異変を感じ取った。気づいたら彼が自分達の傍から居なくなっていたからだ。


「……くははっ」


 魔法使いが一番最後に覚えるスキルに予約詠唱スペルブックというスキルが有る。これは予約詠唱以外のスキルの熟練度を最大まで上げて、初めてスキルツリーに現れるのだ


「……くはははっ!」


 しかし、ここまで上げるには相当の苦労が必要だ。このスキルをマスターするには予約詠唱をMAXまで上げなないと、詠唱に莫大な時間がかかるのだ。熟練度が上がるほど、詠唱時間が短くなり、ストックできる魔法陣の数も増える。つまり、最終的には魔法使い全てのスキルの熟練度をMAX上げなければ予約詠唱の本領は発揮できないと言う事だ。


 普通に狩りをしていると、全てのスキルの熟練度がMAXまで上がる頃にはレベルは90を超えている。そのため、皆このスキルの習得を諦めて魔導師へと転職するのだ。


 しかも、このスキルは詠唱時間が長い。DEXが初期値だと、恐らく10秒はかかる。そしてディレイも3秒程あるため、皆このスキルを軽視し、無視してきたのだ。

 

「あははははっ!!」


 だが、移動詠唱や二重詠唱を使えるとなると話は違ってくる。通常の2倍の速度で魔法陣が増え、しかも移動しながら使えるとなると、そのスキルは穏やかな海原から、嵐の海へと変貌するかの如く荒々しさを発揮するのだ。


 カズキは片手でファイヤーアローを詠唱し、もう片方の手でファイヤーアローの予約詠唱をし始める。当然、クルッポの猛攻を掻い潜りながら的確にファイヤーアローをゼロ距離でぶち込み、殲滅することも忘れて居ない。


 クルッポの数が徐々に減って行く。当然、他のメンバーもクルッポと戦っているのだが、カズキの豹変っぷりに呆気にとられ、回避こそしていたものの反撃をすることをすっかり忘れて居た。


 その間もカズキの疾走が止まることはない。戦場を駆け抜ける一陣の風となったカズキの攻撃は苛烈を極めている。そして彼の頭上の魔法陣は着実にその個数を増やしている。


 そしてついに、魔法陣が最大数である10を迎えた。その瞬間、彼はクルッポが密集している地帯に踏み込み、その中心で溜めに溜めた魔法を一斉に解き放った。


「くらえ!!!」



―――爆発したファイヤーアローは、まるで炎の噴水。




 放たれた炎の矢が密集地帯のクルッポを巻き込み、凄まじい勢いで屠られていくモンスター達を見て、ドラゴンフォースのメンバーはその光景を見守ることしか出来なかった。



 ふぅ……久しぶりにこのスキル使ったなぁ。ソロじゃ使い道が無いから封印してたんだよねぇ。ああ、気持ちよかった。


 ……あれ、何で皆こっち見てんの?


「ねぇカズキ? あんた随分楽しそうだったけど、あっちが素なの?」


「カズキくんかっこいー! なになに、あのスキル!」

「カズくんすごいな~……やっぱウチにこない?」


「えっと、その?」


「やっぱすげーわカズキは。こりゃ戦術兵器クラスじゃね?」


「あれをクラン対抗戦やられたらたまんねーなぁ。カズキが敵に回りませんようにっと」


 訳が分からない。なんだよ、みんなしてっ。


 そんな時、ガルドが手を二回叩くと、皆を沈め始めた。


「呆気に取られている所悪いが、時間がない。すぐにボスを倒しに行くぞ!」


……ほぇ~。さすがは曲者揃いのドラゴンフォースを纏めるマスターだけあるなぁ。次はクロックマスターか。今のでMP少し減っちゃったし、MPポーション飲んどこ。待ってろよ! 


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