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僕は宮廷魔導師  作者: ゆうき
日常と非日常と
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5話(改) 僕とクロックマスターと

 クルッポを倒した後、僕達は布陣を敷きながら最下層へと突入した。


 ……遅かった。既に対抗勢力はクロックマスターと戦い始めている!


 ボスのHPバーは既に2割程減っていた。このままだとドロップを持っていかれる!

 

 ……落ちつけ、落ちつけ。先ずは戦況を把握するんだ。


 対抗勢力は10人か……よし、まだ逆転できる。


「エレナ、キリア、アンジェラの3人はカズキ君のサポート! 他のメンバーは対抗勢力を警戒しながらボスを牽制、カズキ君は対抗勢力モロともボスを吹っ飛ばせ!!」


 皆ガルドの判断を疑うこと無く瞬時に行動に移した。僕の回りは皆に守られている。


 ……良いだろう。魔法使いの恐ろしさ、味わわせてやるとしよう。


 さっきと同じだ。心は熱く、頭は冷静に……っ!


 僕は戦場に躍り出た。目指すはPKクランのリーダーと思われる竜騎士。


 こいつを倒せばPTの指揮はガクッと落ちる筈だ。僕達にPKを仕掛けた事、後悔するがいいさ。


 今回は予約詠唱は使っていない。次々に零距離で発射されるファイヤーアローに、対抗勢力のクランは驚きを隠せないみたいだ。ふっ、ざまーみろ!


「……狂乱の魔砲だ! あいつを殺せぇぇぇ!」


 げっ。相手は二手に分かれた。そんだけ僕を危険視してるってことか……!


 しかし、対抗クランから僕を守る竜人族の女性達がそれを許すはずもなく、相手の迎撃を始めた。PKクランの魔導師が火の中級魔法(ファイヤーストーム)をこっちに向けて放ってくる。しかしファイヤーストームは地面に設置するタイプの魔法。エレナが僕の腕を素早く掴むと、ファイヤーストームが巻き起こる前に素早く飛びのく。


 その隙を逃すはずも無く、キリアが大きなボウガンで魔導師を撃ち抜いた。こっちは対人装備ではないけれど、物理防御の低い魔導師にとってこの攻撃は痛手だった様だ。HPバーが大きく減った。


「カズキには指一本触れさせないわ!」


「カズキくんに触って良いのは私達だけよ!」


「カズくん、ちょっと待っててね~」


 そしてアンジェラが支援魔法を掛けてくれた。STR、AGI、INT、DEXの値が上昇し、今以上の速度と威力で相手に攻撃を仕掛ける。


 相手もPKを仕掛けて来るだけは有るけど、僕みたいなイレギュラーは想定していなかった様だ。まさか零距離で魔法をぶち込まれるとは思っていなかったのだろう。相手の攻撃を紙一重で避ける。髪の毛が何本か持っていかれた気がしたけど、HPバーは減っていない。どうやら攻撃が当たったと見なされなかった様だ。


 極限まで背を低くした甲斐もあり、相手が放ってくる横凪の攻撃は少し頭を下げるだけでかわす事が出来る。……その一瞬が命取りだ、くらえ!


 相手の顔面を目がけて拳を振り抜き、ヒットした瞬間に魔法を解き放ってやる。瞬間、相手の顔で炎の奔流が巻き起こり、クリティカルを示す特殊なエフェクトが現れた。


 近接職は総じて魔法防御力が低い。そのため、対人戦に置いて物理防御に特化するか、魔法防御を補う装備にするかは未だに意見が分かれている。


 今回のPKクランの相手は、ドラゴンフォースが相手だと想定していたらしく、皆魔法防御力が低かった。……どうして分かるのかって? 一発で相手のHPが3割も減ったからさ。恐らく、ダンジョンの入り口でどのクランがボスを狙うか品定めしていたのだろう。そこでドラゴンフォースが相手と判断して物理防御に特化したみたいだけど、どうやらそれが仇になったみたいだね。



 相手はファイヤーアローを至近距離で食らいながらも回復剤をがぶ飲みしてこっちに迫ってくるが、エレナとキリアが押さえこみ、その隙にクロックマスターを撹乱していたガルドが、エレナ達に抑え込まれた敵の背中を容赦なく斬りつける。


 ガルド達のボスへの攻撃は効果てき面の様で、クロック・マスターのHPバーはみるみる減って行く。対抗勢力が苦労して減らした2割など、すでに通り越していた。


「グウウウウウウオオオオオオオオオオ!!」 



 皆の強い意志を秘めた攻撃がクロックマスターの体に着弾する度、少し、また少しとクロックマスターのHPバーは減って行く。既にHPはグリーンからイエローゾーンに突入しようとしている。



 ……よし、大分リードしたみたいだし、ここで一つ奥の手を出して皆を驚かせてやろう。


 僕はとんがり帽子を収納し、巾着袋からとあるティアラを取り出した。


 その名は、ミラージュ・ティアラ


 装着した瞬間に、僕の体が心なしかブレた気がした。


 そう、このティアラを付けると、僕の動きを追従するシャドウが出現する。追従すると言う事は、物まねをするというだ。


 ただし、中級スキル以上の行動は模倣できない。あくまで、移動、行動、初級スペルのみを模倣する。その代償として、1秒ごとに1%のMPを消費するけどね。


 このティアラは僕のスタイルととても相性が良い。一般の魔法使いは中級スペルを主軸に置いて戦う為、このティアラは意味がない。


 まぁ、見た目も良いから値段もそこそこするけど、イフリートの腕輪程高価と言う訳でもない。……さて、お喋りはこの辺にしておこう。敵対行動をとったこと、後悔するがいいさ。


「……1分、1分耐えてください!」


「分かった。……聞いたなお前ら! 1分と言わずに10分でも一時間でも耐えてやれ! ドラゴンフォースの力、今こそ発揮する時だ!」


「「「おおおおおおおおおおおっ!!!!!」」」


◇


 カズキがとんがり帽子からティアラに装備を変えたことにより、彼の火力は一気に2倍になった。カズキはMPポーションを湯水の様に使い、減り続けるMPに歯止めを掛け、アロー系の魔法を彼らの至近距離で乱射し始めた。対象は当然、対抗勢力のPKクラン。


 当然、カズキの幻影はそれに追従する。


 カズキ一人でさえまともに押さえることが出来ずに手を焼いていた彼らは、その装備の効果を思い出した瞬間に息を飲んだ。



 ―――あの火力が2倍になると言うのか



 カズキを止めようと試みても、エレナ達が身を呈して彼を守る。


「っっっっ! マジシャンごときがあああああああああああああ!!!」


「こんな! こんな事があって良いのか!」


 余りの理不尽さに、彼らは叫ぶ事しかできなかった。身を守ろうにも、零距離で魔法を放たれたら避ける事は不可能に近い。それも叶うはずも無く、その身を初級スペルの洪水に晒すことしか出来ない。


 対抗クランのメンバーは次々にその身をファイヤーアローで焼かれ、体が爆散するエフェクトが飛び交った。


「くそっ……くそっ! くそっ!!」


 彼らの頭の中には、既にMVPを討伐する考えなど存在していなかった。この状況から、如何にして生き残るか。


 彼らが焦る理由はたった一つ。ダンジョンでPKを仕掛けたプレイヤーが返り討ちにあった場合、ランダムで装備をドロップしてしまうからだ。


 PKを仕掛けられたプレイヤーが倒された場合、手持ちの資金の1/10と、収集品を全て持っていかれる。


 始め10人居た仲間達は、既にその数を3人にまで減らしていた。彼らが死ぬたび、カズキの頭上で天使がクルクルと回るエフェクトが飛び交う。


 恐らく、カズキは仲間の装備を次々に奪っているのだろう。


 憎い。その一言に尽きる。しかし、その感情はお門違いという物だ。


 先に仕掛けたのはPKクラン側。誰が行ったか知らないが、この様な言葉がある。




 ―――殺っていいのは、殺られる覚悟がある奴だけだ。




 ついに一人になってしまったPKクランサイド。しかも、HPバーは既に赤。残り1/4を割っていた。PK判定が成されると、PKを仕掛けた側は転送系のアイテムやスキルの使用が不可能になってしまう為、既に退路など何処にも残されてはいなかった。


 ここで、ある意味予想通りの行動に出た。


 「まっ、待ってくれ。参った! 降参だ!」


 ここに来て命乞い。無様、実に無様だ。


 苦労して集めた装備を取られたくはないのだろう。しかし、その願いも空しく、カズキからは無情な一言が発せられた。カズキはその言葉に耳を傾けていたのではない。予約詠唱を裏で行っていたのだ。


 予約詠唱で10個になった魔法陣。更にミラージュティアラの効果でそれは倍化され、彼の頭上には20個の魔法陣が待機していた。


 「……一斉掃射」


 彼が最後に覚えて居た光景は、一面真紅に染められた景色だけだった。


 ◇


 よし、これでPKクランは全部潰した! ドロップ権はこっちに移ったぞ!


 何時までもこうしている訳には行かない。立っているだけでもMPはゆっくりと零に向けて減り続けている。僕はティアラを外して、とんがり帽子に戻していた。


 この短時間で消耗したMPポーションは10個にも及んだ。全く、自業自得とは言え、とんだ出費だよ。


「……終わりました。指示を」


「分かった。皆! 作戦を元に戻すぞ! カズキ君サポートしながら皆で一斉攻撃だ!

 

 いや、ちょっと……いくらなんでもそれは無謀なんじゃ―――


「言うまでもねぇ! カズキぃ! さっさと決めちまえ!」


 あれ、何か合点承知みたいな流れになってるけど、何これこわい。でもまぁ、普段はおちゃらけた人達だけど、戦闘になると人が変わるね。ヒーロー物を見てるみたいだ。


「おらぁぁぁ! つええのはカズキだけじゃねぇぞおおおおおお!」


「はっはー!!」


 クロックマスターが腕で薙ぎ払う度、僕はギリギリの所で攻撃をかわす。クロックマスターの弱点は……成程、足を攻撃して転倒させてから顔面にぶち込めば良いのか。



 ドラゴンフォースの皆も、凄い連携だ。空中で相手を撹乱する動作一つにしたって、下手すれば空中で仲間と激突しちゃうようなギリギリのラインを飛行している。一体、此処まで精度を上げる為にどれだけ血の滲む思いをしてきたのだろうか。


 ……さすがはアースガルドの十本指に入るクランだね。改めてみると、本当に凄い。


 気がつくと、僕は笑っていた。……そうか、こういうのを仲間って言うのか。


 さぁ、終幕(フィナーレ)に向けて皆で踊ろうじゃないか。


「……くははっ」


 僕は腕に向けてファイヤーアローを集中的に撃ち放った。既にボロボロになっていたクロックマスターは無様に転倒する。さぁ、弱点に攻撃が届くようになったぞ。



「カズキ、あんた……」


「え? カズキくんこっち向いて!」


「カズくんの笑い方が怖いわ~」


 ……僕には何も聞こえていない。聞こえていないったら。


 でも、なんだろう。さっきから凄く嫌な予感がする。一方的に攻撃を受けているクロックマスターが、攻撃に耐えるだけで反撃をしてこなくなったからだ。


 それを見ていたエレナが、ガルドに向けて叫んだ。


「ガルド! 奴が我慢を始めたわ! そろそろ来るわよ!」


「皆! ここからは空中戦だ!」


「……えっ?」


「カズキ、私に摑まって。……ちょっと、呆けている場合じゃないのよ! カズキ!」


「で、でも、摑まるってどこに」


「ああもう! 捕まらなかったカズキが悪いんだからね!」


 がばちょ


「!!??!?!!? な、なにを―――」


 僕はエレナが何をしているのか全く理解できなかった。真剣に戦っている時に、一体何を?


「大人しくしてなさい! ……来るわ!!」


 瞬間、クロックマスターの周辺にエネルギーの渦が巻き起こり、波紋の様に莫大なエネルギーの奔流が地面を疾走していった。……これはアースクエイク!!


「……す、すみません。助かりました」


「カズキは飛べないからねー。さ、次が来る前に倒すわよ」


「は、はい」


 僕は気を取り直して装備をティアラに切り替え、目を閉じ、詠唱を始める。


 これは僕の勘だが、クロックマスターはHPが一定値を下回ると我慢を始め、強烈なカウンターを放ってくる。さっきのアースクエイクがそれに該当するだろう。


 僕の零距離アローは一撃が重い。二重スペルと予約詠唱、そしてミラージュティアラを合わせて20発同時にぶち込むのが最大火力になる。


 恐らく、この20発をぶち込んだら間違いなくカウンターが来るだろう。……削りきれるか?


 僕が真剣に詠唱を始めたのを見て、エレナの表情も真剣なそれに変わった。


「みんな! カズキが弱点に魔法をぶち込むわよ!」


 僕は目を閉じているから今どんな状況になっているのか分からない。けど、仲間を信じるだけだ。僕と幻影の一斉零距離射撃は、恐らくMPを一気にゼロまで追い込むだろう。だけど、ここが好機。逃すわけにはいかない。


 クロックマスターは何時でもカウンターを放てる様に待機しているが、攻撃が来ない為次の行動を起こすことが出来ない。この好機を逃すはずもなく、皆一斉に回復を始める。


 

 


 ◇


 一つ、また一つとカズキの頭上で魔法陣が増えて行く。それに加え、彼の横で同じ行動を取っている紫色の幻影の頭上にも同じ数の魔法陣が増えて行く。


 足を破壊されたクロックマスターは起き上がることが出来ず、弱点部位を隠すことが出来ないでいた。

何やら手を動かして弱点部位を隠そうとしているが、その腕もガルドや他のメンバー達に破壊されていたのだ。


「さて、カズキ君の一撃でこいつのHPを削りきることが出来るかどうか……」


「ま、一発でクルッポが落ちる威力なんだし、それがあんだけあるのよ? 落ちない訳が無いわ」


「そうね~、カズくんはINTを限界まで上げている訳だし~クロックマスターのHPもレッドゾーンに突入しているわ~」


 皆がカズキとクロックマスターの様子を見守る中、不意に笑い声が響いた。先ほどPKクランに押しつけられたクルッポを処理していた時と同じ、少し歪んだ笑い声だ。


「……くははっ」


「ていうかさっきから気になってたんだけどさ、カズキって戦闘になると人が変わるのかしら? なんか

割と危ない笑みを浮かべてる気がするんだけど」


「……ひょっとしてカズキくんってあれかしら。ほら、普段我慢している分、自分を忘れる程楽しい事になるとはっちゃけちゃう。みたいな」


 とその時、カズキの姿が一瞬ブレた。勿論ミラージュティアラによる効果の所為なのだが、皆にはそれが、早すぎて目視出来ない程初速が早いと錯覚を起こしてしまう程、その幻影の動きは滑らかに彼を追尾して行く。


 「……ぁぁぁああああああ!!!!」


 カズキの咆哮と共に、その拳がクロックマスターのむき出しになっている歯車部分に叩きつけられた。そして例によって巻き起こる魔力の奔流。これを見たドラゴンフォースのメンバーは勝利を確信した。どうして、あの攻撃を受けて生き残る事が出来ようか。皆にはそれが想像出来なかった。

 

 「ウオオオォォォォ……」


 ついにクロックマスターは倒れた。その姿は徐々に薄くなっていき、光の粒と共に消え去っていった。


「よっしゃあ! これで二回目の討伐だぜ!」


「ぶひゃひゃひゃひゃ! 経験値もたんまり入ってるぜ!」


「ちょ、お前ら収集品拾えって! 1分で消えるんだぞ!」


「お疲れ様カズキ君」


 歓喜の雄叫びをあげる者、大量の経験値が入って喜ぶ者、収集品を拾い集める者、カズキを労う者、様々だ。


 そんな中カズキの頭上には「Congratulation!」という文字と共に、派手なエフェクトが灯った。やはり今回のレアドロップは、最後に大きな一撃を叩き込んだカズキの巾着袋に入った模様。


「お疲れ様カズキ。ねぇねぇ! レアドロップなんだった?」


「カズキくんお疲れ様~。で、レアドロップなんだった?」


「お疲れ様カズくん~。私にもレアドロップ見せて欲しいなぁ」


 やはり、きになって仕方が無い様だ。それもそうだろう。B級とは言え、滅多に撃ちとる事ができないボスのレアドロップ。気にならない方がおかしいと言うものだ。


「ちょ、ちょっと待って下さい。今確認します……「クロックマスターのソウル」?」


「えっ」


「えっ」



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