第1話:ネコとシェイクと蒼いパスケース⑤
午後7時。日中は賑わっていた月詠神社は静まり返っていた。巡と占は街灯の灯りを頼りにしながら、蘭武高校が立地する丘に向かって歩き続ける。
「本当にあの丘を見に行くの?」
「モチのロンですよ。もしかしたらそこに何か異変の手がかりがあるかもしれないじゃん」
「確かに見つかったらラッキーだけど、わざわざ夜の時間に見に行く必要はないんじゃない?」
巡は占の推察に感心したものの本当に手がかりが見つかるのか少し疑問に思っている。むしろ境内でコソコソ動き回っていたことが神社の関係者に見つかることを懸念してどこか挙動不審になりながら占の後を追う。
月詠神社の拝殿の側道を進み、宝物殿や稲荷神社などを通過すると、その先には小高い丘がそびえたっている。
「ここから見ると蘭武高校ってお城すぎる…」
「これだけ高低差があると裏庭でバレーボールが禁止されてるのも理解できるよね…」
「巡、すぐそれが思い浮かぶのはだいぶ深刻な職業病だよ」
二人は丘の表面や周囲の景色に異変がないか調べて歩き回る。しかし、どこを見渡しても木々は生い茂っており、異変があるようには思えなかった。
「占ちゃんはなにか見つかった?」
「異変じゃないけど、ずっと入っていたい洞穴を見つけたよ」
巡が振り向くと、丘のふもとに空いている小さな穴の中に占が座っていた。巡は笑いながら占のもとへ近づく。
「なんというか…ちょうどいいサイズ感だね」
「チョコんと座ってみたけど、こういう場所って妙に落ち着くから好き。ただ、なんかちょっと寒いから評価は星四つぐらいってとこかな」
占はおもむろに立ち上がり、穴から出ようとするとポケットからパスケースが落ちる。
「あ、占ちゃん、定期券落としたよ」
巡は穴の中を覗き込み、占の定期券を取ろうとするが、パスケースは意外と穴の奥深くへ滑り落ちていた。
「あれ?結構奥にいっちゃってるね…」
「巡、大丈夫、私がやるから」
「いやちょっと待って、そろそろ取れそう…」
巡は穴の中へ入り、パスケースに向かって手を伸ばそうとする。占が言っていた通り、穴の中は風が通っており、どこか冷たい空間となっていた。また、穴は丘の奥深くまで続いているようであり、終わりが見えないことに巡るは少し不安を覚えた。
「なんかこの穴、どこまでも続いてる感じがして怖いね…よし、なんとかパスケースに手が届いた!」
巡が思い切り手を伸ばすと、占のパスケースを掴むことができたのであるが、その瞬間に巡は態勢を崩して穴の中へ転がり落ちてしまう。
「え、ちょっと待って!ちょっと待って!ちょっと待って!」
「巡、どうしたの!?」
占はとっさに転がり落ちる巡の足を掴んだが、落ちていく巡に連れられて一緒に穴へ落ちていく。
「きゃ~~~~~~」
滑り台のように巡と占は穴の中を転がり落ちていく。絶叫マシンが大の苦手の占はこの時、生涯で忘れられないほどの恐怖を感じ、ちょうどいいサイズの洞穴に入ることが嫌いになったという。




