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「ほい、まりは返すぜ」
「え、ええ」
なんで真っ赤になってしまっているのか。
既にモップモードなのはいいけど、そのことが気になってしまう。
「じゃ、あたし達はこれで。ちょっと春子やふゆといきたいところがあるんだ」
「そうなのね、気を付けてちょうだい」
「冬美もな、じゃあな」
とりあえず、人が多いところから私達も移動することにした。
その結果、海の方まで歩いてきてしまったという。
大人しく家に帰ればよかったのになにをしているのかという話だろう。
「まり?」
頭を撫でてみたらすぐに変身してくれたのはいいものの、一度はこちらを見たのにぷいと顔を背けられてしまった。
「顔が赤いわね、水ならここにあるけど……飲む?」
「……飲む」
別にこちらに怒っているわけではないみたい?
まあ、それもそうか、だって私は最初からそのつもりで付いていっていたから。
彼女だってアレのことを考えればそこでは文句を言ってくることはないだろう。
「それで?」
「……冬美がちゅー……してきたからだよ」
「ああ。はは、自分でしておいてあれだけどあの後、内側は大荒れだったのよ?」
「冬美らしくなかった」
この話を深いところまで聞かれると恥ずかし死するのでここいらで止めておきたいのが本音だ。
だってそうでしょう? あのときだけを見ればこちらが動物みたいに発情してしまったようにしか見えないのだから。
「誰にでもするわけではないわ」
「ふゆはよかったの?」
ふゆか、あの子も私のことを考えて行動してくれる子で、小さくて可愛くて、抱きしめたくなる子ではある。
ただ、流石に水着姿で抱きしめられてもキスはしていなかっただろう。
だからそこは分かりやすく差ができてしまっているというか、私も本当はまりのことを……。
「あなたの存在は私にとってかなり大きかったの」
なにも大人に近づいてからいまみたいな感じになっていたわけではない。
仕事大好き両親はほとんど家にいなかったから彼女の存在は私の寂しさとか物足りなさなんかを消した。
何度も触ると嫌がられるからと見ている時間を増やした結果、他人が他人と仲良くしているところを見て妄想をするようになってしまったものの、それも社会に出ていくために必要な変化だと思うからほとんど全てをプラス方向へ彼女は変えてくれたのだ。
「でも、あんまり触ってくれなかったよね、逆に夏穂は遠慮がなかった」
「だから構ってくれる夏穂のことを好きになってくれるのが一番だったのよ?」
「私は冬美が好きだから」
「ええ、それにいまから違う人のところにいってほしくないわ」
おでこにとはいえキスもしてしまったし、責任を取りたい――なんて言い訳で、やっぱり私が求めているのだ。
実は先程、プールで楽しそうに遊んでいるまりを見て複雑な気持ちになった。
昔から嫉妬的なことはしてこなかったけど、今回は初めて夏穂や春子に……。
「あなたが……欲しいのよ」
「冬美……」
「あと、自分の好きな姿でいてくれればいいの。あの見た目が……じゃなくて、私はまりが好き……だから」
自爆して、落ち着いて、また荒れて。
歩いている間に落ち着けたはずだったのにまた変な状態になってしまった。
でも、操られているとかそういうこともないから、これも私であることには変わらない。
「よく言った!」
「ぐぇあ!?」
ああ、驚きすぎてまりはモップモードになってしまった。
いまは腕の中に収まるサイズだけど、これもまた彼女の可愛いところの一つだから驚かされてこうなっている以外はいいことだ。
「い、いたの?」
「おう、春子達もいるぜ」
これはそういう作戦……? もしそうなら私の変な感じはバレバレだったということになる。
私も彼女達みたいに変身できる力が欲しい、間違いなくこういうときに役に立つ。
「冬美さんおめでとう!」
「ま、まだ分からないけどね」
「冬美を貰う」
「それは駄目ー! もう冬美は私のなの! 好きなの!」
上手い、咄嗟に変身することで突進を避けていた。
そのままズザザと地面をヘッドスライディングしていく彼女、ふゆはそこまで移動して背中に座る。
「……ふゆは春子で我慢しておけばいいんだよ」
「僕と冬美も繋がっているからいつでも奪える」
「う、奪えないよ! だって冬美は私のことがす、好きなんだから!」
見られた、聞かれた状態だからこれは恥ずかしいことではない。
彼女がふゆに張り合うためにもっと細かいことまで話したとしても全て事実なのでそもそも言い訳のしようがないのだ。
「むかついたから地面に埋める」
「ちょ、そ、そんなの駄目だから!」
「冗談。僕は言ったはず、まりの敵にはならない」
とはいえ、みんなが成長できているのに私だけほとんど変われていないところはやっぱり恥ずかしいところだと言えた。
小さなことでもいいからプラス方向に変えていけるようにこの件が終わったら努力をしよう、ダラダラしている時間は全くない。
「ふゆ……ありがとう」
「やっぱり埋める」
「なんで!?」
このまま見ていてもいいけど、彼女達は体力を私以上に使っているから帰ることにした。
「はは、二人は仲良しだなあ」
「だな。でも、あいつらが飽きたらあたし達が冬美を貰おうぜ春子」
それまでには人間をやめて可愛い動物になれるように、なんてね。
それぞれ違った魅力があるからそのときのことを想像することは余裕でできる、ただ、別れることになるのは微妙なのであくまで想像止まりだ。
「え、えーそ、そんなのいいのかな?」
「いいんだよ、そもそも元はと言えばあたしのだからな」
「おお!」
もっとも、こんなことを言っていてもまりか他の子にしかほとんど意識がいっていなかったからあまり信じられない。
少し意地悪をしてくるときもあって、本当に一緒にいてほしいときほど「じゃ、帰るかな」と帰ってしまったから拗ねることも多かった。
「夏穂の馬鹿ー!」「ちゃっかりしている」
「これぐらいでいいんだよ」
「そうだね、本当に相手のことが好きならそれぐらいでいいよね」
今日しか頑張っていない私には突き刺さる言葉だ。
というか、私は関係ないですよとでも言いたげな態度でいつもは他の人とくっつくことを願っていたくせに、結局自分が一番まりのことを好きになってしまっているのはアホだろう。
最初から素直になって、いまみたいな関係になれるように努力をしている人の方がよっぽど魅力的だ。
そうでもない私が選ばれたのはやっぱりまりが私にとって……。
「もっとも、春子は最初から最後まで遠慮していたけどな」
「私は冬美さんといられればそれでいいの」
「ま、あたしもそうだな。正直、冬美と付き合ってもいまとなにも変わらないし、手を繋いで登校とか恥ずかしすぎるからこれぐらいの距離感の方がいいわ」
「え、私は手を繋いで登校するつもりだけど?」
「別にそれは自由にすればいい、あたしは恥ずかしいってだけだよ」
まあいいか、気にならないなら手を繋いで登校するのもありだ。
「私が冬美さんとお付き合いをしたら何回でも頭を撫でてもらいたいなあ」
「僕も同じ、抱きしめてくれるとなおよし」
「やめとけやめとけ、このモップが嫉妬して攻撃してくるぞ?」
あ、間違いなくいまのでスイッチが入った。
「うがー! 春子やふゆはいいけど夏穂は許さない!」
「はははっ、なら逃げる!」
「私も!」「僕も!」
これはもうそういうつもりで行動しているようにしか見えない。
「もう、ああいうところ以外はいいのに」
「ゆっくり帰りましょうか」
「うんっ――ええ、帰りましょう?」
女の子も男の子と変わらずに年上のお姉さんに弱かったということなのだろうか?
「あなた自身が気に入っているの?」
「冬美はやっぱりこの姿が一番好きだからよ」
「まりが好きなのよ」
「やめて、いまそんなことを言うと食べたくなるから」
それなら怖いからこれ以上はやめておこう。
なんか触れたくなって、寧ろ私の方から彼女の手を握って歩いていたのだった。




