表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/13

第4話 危険信号

 (おさむ)さんと別れた後、僕は家電量販店へと足を向けた。何か色々とあったが、もともとの目的は壊れた電子機器類を買いに行くことだ。


 いつ眠くなるかわからないこの体質。だからこそ、急がなくてはならない。


 そんなことを考えながら歩いていると、不意に後ろから声をかけられた。


「こんにちは」


 振り返ると、そこにはメガネをかけた男性が立っていた。清潔感(せいけつかん)のある服装、整った顔立ち──仕事が出来そうな社会人といった印象だ。



 僕は、びっくりして、思わず一歩後ずさる。


「あ、あごめん。驚かせるつもりは、なかったんだ。」


 とメガネの男は申し訳なさそうに眉を下げた。


「す、すみません。いったご要件で?」


 僕が恐る恐る尋ねると、彼は僕の顔をじっと見つめ、口角を上げた。


「いやぁ〜。知り合いに顔が瓜二つだったので、声をかけてしまってね。申し訳無い。」


「あ、そうですか。」


 どうやら、人違いで声を掛けたらしい。僕に顔が似た人なんているのか…。


「いやぁ〜ごめんねぇ。」


 メガネの男は軽く頭を掻きながら、ふと周囲を見回した。


「それはそうと、最近、ここも物騒だから気をつけなよ?」


「え?」


「ほら、ここら辺で暴力団が襲撃を受けたって、ニュースでやってなかった?」


 その瞬間、今朝見たネットニュースが頭をよぎる。


──【大山組襲撃で多数死亡 抗争激化の可能性も】──


「……こ、ここら辺だったんですね」


「あ、知らなかったんだ。気をつけなよ?ここら辺、襲撃された暴力団の関係者が犯人を探し回ってるって言うし。」


 僕の背筋に冷たいものが走った。


「そ、そうなんですか…。」


「まぁ、気をつけなよ?」


 そう言うと、メガネの男は踵を返した。しかし、ふと足を止め、振り返る。


「あ、最後に君の名前を聞いても?」


「えっと……田中大樹です」


 僕が名乗ると、彼はじっと僕の顔を見つめ、口元に笑みを浮かべた。


「ふーん。そうか…。」


 一瞬の静寂。


 メガネの奥の瞳が、冷たく光ったような気がした。


 嫌な予感がする。僕は、その場を離れるように足早に歩き出した。振り返ることはしない。ただ、できるだけ自然に、しかし確実に距離を取る。


 幸い、家電量販店まではすぐだった。目的はただ一つ──壊れたキーボードやマウス、スマホを買い直すこと。さっさと済ませて帰ろう。


 店内に入ると、暖房のぬるい風が体を包み込んだ。入り口近くに建物内の地図があり、電子機器コーナーは3階にあることがわかる。


 エスカレーターを探しながら歩くと、店内には家電製品だけでなく、生活用品や服まで売られていることに気づく。まるでショッピングモールのようだ。色んな会社の店舗が立ち並び、ただ歩いているだけでも楽しく感じられた。


 やがて、エレベーターを見つけ、上へ向かうボタンを押す。ドアの上部にある液晶が点滅し、エレベーターが6階から降りてくるのがわかる。


 エレベーターが降りてくるのを待つ。

 

 待つ間、今日一日を振り返る。


── キーボードとマウス、スマホにコーラをぶっかけ、壊した。

── 久しぶりに街へ出たら、見知らぬ男にご飯を奢ることになった。

── さらに、妙なメガネの男に話しかけられ、物騒な話を聞かされた。


 色んな事があったぁ。すごい。とても。


 そんな事を考えているとエレベーターの到着を告げる「ピンポーンッ」という音が鳴った。


 ドアが開く。


 それからの行動は単純だった。エレベーターで3階へ上がり、電子機器コーナーでキーボードとマウス、新しいスマホを購入。壊れたスマホのデータは店員さんに頼んで移してもらったが、料金の説明などで意外と時間がかかった。


 外へ出ると、空はすでに薄暗くなり始めていた。


「早く帰ろう……」


 疲れもあるし、何より眠気が襲ってきている。まずい。眠気が限界を超えると、その場で意識を失ってしまう。そんな事態は絶対に避けなければ。


 バス停へ向かうため、歩道を歩く。


 ぼんやりとした意識の中、前方に異様な男の姿を見つけた。


 途轍(とてつ)もなくデカい。まるでプロレスラー。いや、それ以上に鍛え上げられた筋肉の塊がスーツを着て歩いている。普通の人ならスーツのシルエットに隠れるはずの筋肉が、布越しにもはっきりと形を成している。


 何か、すれ違うのやだなぁ…。


 そんなふうに思ったのもつかの間、男の歩くスピードが上がった。


 こっちに向かってきている。


 足が止まる。反射的に後ろを振り返る。


 誰もいない。


 男の目線が僕を真っ直ぐ捉えている。


 どう考えても、僕の事を狙っているようにしか思えない。これ、逃げた方が良いのでは?


 男がどんどん近づいてくる。


 頭が警告を発する。けれど、体は動かない。


 次の瞬間、男がさらに加速した。


 男は、筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)の体をしながらも凄いスピードでこちらに向かってきている。その姿は、まるで暴走するダンプカーだった。


「見つけたぞ……!!!」


 怒号(どごう)が響いた瞬間、僕の足は本能的に地面を蹴っていた。


── 逃げろ!!!


 僕は、自分の持っている荷物を投げ捨て走った。


 背後から響く、地鳴りのような足音。


 男は速い。僕より遥かに体が大きいのに、異常なスピードで追いかけてくる。


 心臓が暴れ、喉が渇き、息が切れる。


 でも、止まったら終わる──そんな確信だけが、僕を走らせていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ