表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
公爵令嬢イリスをめぐるトラブル : 恋を知るまで  作者:
第一章 敵国バイエル王太子からの求婚

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/54

第一章最終回 入城

第一章の最終回です。


 ルーザーたちの持ち帰った報告は、喜びをもって受け止められた。

 キルン国軍が戦いを放棄したのだ。


「彼らの扱いはどうしましょうか」


 アイラの問いかけに、イクリスは会ってから考える、と答えた。


 バイエル軍がキルン軍の前まで進軍すると、キルン軍に緊張が走った。

 人数は元の七割ほどに減っている。約五倍の敵兵が向かい合えば、緊張して当たり前だ。


 元帥が前に出た。戦わない証として、鎧を脱いで平服になっている。イクリスはそれを見て、肝が据わっていて潔い人物だと判断した。


 職務を全うして死ぬつもりだったのを、ルーザーたちの説得で取りやめ、生きてみようと考えてくれた。だまされたとしても、負けは決まっていると、腹をくくったのだろう。

 イクリスは馬から降りて前に進み、挨拶を交わした。その後で言い渡した。


「このまま、我々はキルンの王都に入る。王族を粛清して、王都に厳戒体制を敷く予定だ。貴殿らは、私達が王都を制圧した後に、国民の鎮圧をお願いしたい。自国軍が王都に入れば、混乱が少しは緩和すると思う。連絡員を送るので、それまで皇都の外で待機願う」


 元帥は頷いた。


「それまでの間、我らは我らに出来る事をしていよう。私が思うに、混乱は少ないだろう」


 そこからは進軍速度を上げ、空が暗くなる前に王都に入った。王都の民は逃げているか、家に籠っているかで、夜の街に人の姿はない。

 城に待ち構えているはずの衛兵すら居なかった。思いがけない事に、バイエル軍は抵抗らしい抵抗にも会わず、あっけなく城に入ることが出来た。


 王は、既に逃げていた。城に残された者達は、右往左往するばかりだ。何人かを捕まえて聞くと、王が親衛隊に荷を運ばせて、2時間ほど前に出て行ったらしい。負ける事を想定して、逃げる手筈を整えていたのだろう。

 王には王子が一人と王女が一人いたが、王子は戦死している。王女は近郊の離宮から今日か明日に戻る予定だと言うことだ。


 バイエル軍は徹夜で、王宮内の調査と、王都内の見回りを行った。城や街中に何か仕掛けられているかもしれなかったからだ。

 結局そういう仕掛けをする時間はなかったようで、何事もなく城と王都は明け渡された事になる。

 そうやって慌ただしく働いている翌日の午前中に、王女が見回りの兵に捕まって、イクリスの前に引き出された。

 メリッサ王女は、馬車で城に向かう途中をバイエル兵に捕まったそうだ。豪華に着飾った姿で、驚きを隠せずにうろたえている。


 イクリスは彼女をゆっくり観察した。赤い髪と、茶色の目をした華やかな美人だ。18歳という年相応に見える。ひたすら驚いているが、おびえている様子はない。その気の強さは、さすが一国の王女といったところだろうか。

  この王女が国の統治者に使えたらいいのだが、評判を聞くところ、王や王子と同じく、贅沢三昧して、搾取するだけの人物だそうだ。


「キルン王国のメリッサ姫とお見受けする。王は他国に逃げたようだ。今はバイエルがこの国を占拠している。あなたの処遇が決まるまで、自室にてお過ごしください。監視は付けさせていただく」


 メリッサ王女は、黙ったまま衛兵と侍女達に囲まれて、自室に戻って行った。


 夜が明けてからも、通りに人が出てくることは無く、王都全体が静かだった。

 イクリスは約束したように、元帥の率いる軍に連絡を送り、王都の治安維持を頼んだ。彼らが来れば、その内人々が街に出て来るだろう。


 城は無傷だが、国庫の中身は全て持ち去られていた。つまりすぐ使える金が全くない状態だった。国政を担う者達に、支払う給金も工面できないことになる。

 それは頭の痛い事だが、それ以上の破壊はないし、長い目で見れば大成功と言えた。当面の金はバイエルとレンティスが補填するしかない。


 頭の痛い事を増やしてしまったが、イクリスは後悔していなかった。バイエルへの脅威を排除出来て、この地と国民を無傷で残せたのが最大の成果だ。


 アダムはこの主のいない豪華な城を見て回ってから、イクリスの所にやって来た。


「城を見て回りながら、国を治めるということを考えていました。この国の王は、自分のために国の全てを搾取していた。そして搾り取って貯め込んだ全てを持って逃げた。国民を彼に奉仕する奴隷のように思っていたのでしょう」


 イクリスは黙って頷いた。


「イクリス様、この国は一から作り直さないと駄目だと思います。それにはすごく力が必要でしょうね」


「そうだろうね。それも国民の感情次第だよ。この国にとっていい形が見つかるといいね」



 その日の夕方になって、キルン国軍が王都に入って来た。想定していたより、だいぶ遅い到着だった。軍は大量の荷を引いている。

 イクリスの元にやって来た元帥は、荷の一部をイクリスの目の前に並べた。


「王都の周辺で待機していたら、王の近衛兵達と遭遇しました。彼らが何かを運んでいたので、接収しました。その一行の中に王が居たので、ついでに討ち取っておきました。ご確認ください」


 重大な話が、あまりにもあっさりと伝えられた。荷の中身は、大量の金貨と宝飾品で、たぶん、国庫の中身だろう。そして一台の荷馬車には、王が横たわって居た。

 我らの出来る事をするとは、これだったのかと、思い至った。王が逃げ込む先も、元帥は知っていたはずだ。イクリスは礼を述べた。


「ありがとう。これで、金の工面をしなくてもよくなる」


 ルーザーが前に出て、元帥に手を伸ばした。


「よかった。貴殿の力を、正しく使っていただけて、本当にありがたく思います。力のある人間は、仕える主を間違えたら、たくさんの人間を不幸にしてしまう。本当に良かった」


 二人は、がっしりと握手をした。


 王都の住民たちは少しずつ外に出て来て、次第に活発に活動を始めた。もう、王や国の役人たちにおびえなくても済むのだ、と悟ってからは、それはお祭り騒ぎに変わって行った。


 イクリスが、城にストックされていた食料や、日用品などの物資を配給した後、それは更に大きくなっていき、本格的な祭りになった。

 民衆は、今までの王家が排除されたことを、盛大に祝った。


◇◇◇


 そのころ、自室に軟禁されたメリッサ王女は、薬の瓶を手に握り占めて、父との会話を思い返していた。

 他国に逃げる前に、王は娘の居る離宮に寄っていた。


「お父様、突然どうしたの?」


「バイエルを攻撃したら、逆に攻め込まれた。キルン国軍も負けて散りじりになったらしい。だから私は、今から他国に逃げる」


「それじゃあ、私もすぐに支度をするから少し待って」


 そう言って、支度をするために、侍女を呼ぼうとしたメリッサを、父は止めた。


「いいや、お前にはやって欲しい事がある。これをお前にあげよう。男を思い通りに出来る秘薬だ」


 そう言って、小さな薬瓶をメリッサに渡した。

 ガラスの小瓶で、紫色の液体が、ほんの少し入っている。


「これは、どういう薬なんですか?」


「一年前に閉門にした、ノバック伯爵家に伝わる秘薬だそうだ。200年くらい前のものだが、薬効は確実らしい。キルンで一番人気だった、侯爵家の子息と娘が結婚したのは、この薬のおかげだそうだ。家の存続と引き換えに差し出してきた。お前はバイエルの新王に、これを使え。そうすれば、バイエル全土が手に入る」


 父から渡された薬はティースプーンに三杯分くらいしかない。それを揺すってみて、液体が揺れるさまをじっと見た。


「これを飲んだ男はどうなるの?」


「目の前に居る女に、べタ惚れになるそうだ」


「では、飲ませたら、勝ちね」


「バイエルには、マリアを潜入させている。イクリス王の側近に接触しているはずだ。彼女に連絡を取って、協力を仰げ。うまくやってくれよ」


 そしてメリッサは目一杯着飾ってから、その瓶を持って馬車に乗った。その後、うまくバイエル兵に捕まり、イクリスの前に引き立てられて行った。


 思いがけない事に、イクリスは若く、とても美しい男だった。物静かでストイックな雰囲気なのに、強烈な色気がある。ふとした動作や目線に滲み出す色気に、引き寄せられる女達の視線を、全く気に留めていなそうなところが、また妙にそそるのだ。

 初対面では、か弱げな様子を見せようと思っていたことも忘れ、メリッサは見入ってしまっていた。


 一応、王女として丁重に扱われ、元の自室に軟禁されることになった。その内に、この部屋を彼が訪れることもあるだろう。

 その時に、これを飲ませれば、すべてはメリッサの意のままになるのだ。

 あの美しい男が、自分のしもべになる。そしてメリッサはキルンとバイエルを合わせた、大国の王妃になるのだ。

 メリッサはこの幸運に体を震わせた。


 


読んでいただきありがとうございました。

「第一章 敵国バイエル王太子からの求婚」は、完結です。


第二章「(仮)秘薬の導く先」を少し開けて連載します。

第一章と違い、この章は恋愛色が強く、やっとイリスが恋してくれそうです。


 第二章開始は三か月くらい先になりそうです。

 ここで一旦完結設定にします。再開する時には活動報告を出しますので、また読んでくださいね。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ